| ◆24巻あたり
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ハァ…っ、ハァ……っ、ハ……。 荒い息が、暗い部屋に充満していた。 手首をネクタイで縛られた高耶は、自分をこんな目に遭わせた男を激しく睨んでいた。 射殺せんばかりの眼光の鋭さだ。しかし男は動ずることもなく、その虎の瞳を一身に 覗き込んでいた。 「放せよっ、コレ! おまえ、何考えて…っ!」 高耶は拘束されているものの、相手の言いなりにはならないとばかりに激しく抵抗 していた。謂われのない軟禁だ。いくらここに呼び寄せたのが高耶のよく知る人物 だとしても、こんな常軌を逸した事、許される訳がない。 「直江っ! 放せ!!」 高耶は、放せ放せと自由の利く足で抵抗してみるが、直江はそれをなんなく押さえ 込み、高耶の上に覆い被さってきた。 「……っ」 「過ぎた事だとは思っています。けれど、それでもどうしても許せない事ってあるん ですよ」 「な、直江…」 「その時の状況を考えれば、不可抗力だったとは思っています。ですが!」 わかってますね、高耶さん。 そう言うと、直江は高耶に詰め寄った。 「これだけは許せない。どうしても……!」 「なに、を……! ―――アッ!」 直江が、高耶の高ぶりに食らいついた。 固い歯が敏感なところに当たって、高耶は大きく仰け反った。 「―――アァ…ッ! ば、か……」 「その男の口はどうだったんですか。私よりも良かったんですか!?」 「ん……、やぁ…ッ」 「誰かもわからない男に、こんなことされて! 気持ちイイって、腰を振ったんです かっ? あなたは。娼婦のように!」 「ちが…う…って、そうじゃな…」 「なんて淫乱なんだ、あなたは!」 直江が吐き捨てるように言った。 憎悪に萌える目。 それを間近に見ながら、高耶は言葉を紡いだ。 「うっ……しかた、ねぇ……だろッ」 「仕方ない? そんな言葉で済まそうというのですかッ、あなたは」 直江がぎゅっと高耶のペニスを握った。 膨れあがった欲望をせき止められて、高耶が切なく眉を下げた。 「アァ…ッ!」 「ふふ…。あなたは暴力じみた行為でも、感じるんですね。愛がなくとも、体は反応 する、か」 直江が嘲りの笑みを浮かべた。 それを、高耶は悔しそうに見ている。 「私が『それ』を知った時、どんな思いをしたかあなたにわかりますか? いくら捕まっ ていたからといって、『ここ』を許すなんて!!」 男の腰を掴む手に、グッ力が入った。 直江は高耶のモノに口を寄せながら、憎悪に滾った言葉を吐きだした。 「殺してやる……ッ! その男、殺してやる……!」 「…やぁ……ッ、も、う…っ! ヤメッ……!」 「あなたに触れていいのは、俺だけだ。何人たりとも、あなたに触れる事も抱く事も 許さない!」 「直江…っ」 「誰かに奪われるぐらいなら、いっそのこと……」 いっそのこと。 そう。 殺してしまおうか。 誰かに汚されてしまうんだったら、その綺麗な羽根をむしり取って、自分だけのものに する。そうすればあなたは誰も見ないし、誰からも見られない。俺の、俺だけの、気高 きケモノ。 (そう、殺してしまえば) 直江の狂気を宿した目が、高耶の細い首を捉える。 それを感じ取った高耶が、恐怖の為か大きく目を開いた。 「バッカ…! ざけんなっ!! いい加減にしろ、直江!」 だが、直江は聞いていない。今すぐにでも首に手を掛けようとせんばかりの直江に、 高耶は激しく怒鳴った。 「ヤメロッ! やめるんだ、直江!! 直江……ッ!! ―――っていうか、その男、 もう死んでるから」 !? 「―――――えっ?」 いきなりハッキリとした言葉で返ってきて、直江は驚いた。高耶はと見れば、今まで の乱れはどこに行ったのか、凛とした目でこちらを見ている。 「……景虎、様?」 「あの男、オレのモノを口に入れたとたん、死にやがった。……まったく迷惑な話だ。 腹上死だなんて」 「し、死んだんですか?」 「あぁ、バカなヤツだ。オレが毒を抱えている身だって知っていたくせに」 高耶の体は、鬼八の怨念を受けて毒の塊になっていた。触れるどころか側に寄る だけで人は不調を訴える。それなのにその男―赤鯨衆の看守―は、拷問を受けて いる高耶に欲情し、更に、高耶の誘惑にのって高耶のモノを口にくわえたのだ。 わかっていたつもりだったが、高耶の口から聞くと生々しい。 ゴクリ、と息を呑む直江に、高耶は嘲るように言った。 「言っておくが、おまえも例外じゃない」 「……!」 思わず怯んだ直江に、高耶は尊大に胸を反らせた。 「なんだ、もう終わりか? そのぐらいであの男に激昂するだなんて、おまえも堕ち たものだ」 「……っ」 「悔しかったら、イかせてみろ。おまえの口で。オレはおまえのものだと、証明して みろ」 ここで! 誇り高い虎の目が、男の目を射抜く。 呪縛されたかのように身動きを止めていた男は、だが次の瞬間ケモノの体に貪り ついた。 この孤高の王者を、屈服させるために。 「イかせてあげますよ、何度でも! あなたをどうにかできるのは、私だけの特権だと、 あなたの体に教えてあげますよ! ここから!」 「―――!」 噛み付くようにモノをくわえられた。それと同時に後ろに強引に指を挿れられる。 それに一瞬だけ体を揺らした高耶は、だが、やがてその口元にうっすらと笑みを浮か べた。 そうだ。それでいい。 おまえの色で、オレの全身を塗りつぶすがいい。 何も、わからなくなるぐらいに、強く……深く。 それこそが、 おまえだけの特権。 |
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