| ◆原作設定ベース
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仰木高耶は、かなり機嫌が悪かった。 「なんで今頃」とか、「今更」とか自分でも思うのだが、ムカついたのだから仕方ない。 あいつはいったい何をしていたのか。 28年間、「景虎を探していた」とあいつはそう言った。それは綾子にも確認した事で、 実際にそうだったのだろうとは思う。けれど、その、あまりにも長い年月に疲れ、それ で女を抱いたって? どう思う? 景虎を永遠に喪ったと思い、それで自暴自棄になった。 そう解釈するのが一番妥当なのだろうが、それでも許せない。許せるわけがない。 オレを抱く前に、不特定多数の女を抱いていただなんてっ! だいたい、あいつはいつの時代もそうだった。 何か言いたそうな顔をしているくせに、何も言わない。 舐めるように人を見ているくせに、何もしない(別に何かを期待していた訳ではないが)。 あいつが欲しがっていたものなんて、本当は知っている。けれど、与えてやる訳には いかなかった。与える事によって、今の関係すら崩れてしまう事が恐かったから。 いくら反目し合おうと、オレにはあいつが不可欠で、あいつにもオレが不可欠だっんだ。 それなのに、 景虎が、存在しているかわからない時に、あいつはいったい何をしていた。 自暴自棄だ? 誰がそんなもの信じる。あいつは言っていたんだぞ。 ―――生きていると、信じることにしたんです。 ―――ほんの一握りでも景虎が存在している可能性があるのなら、そのほんの一握り のために自分は生き続けなければならない。 そう言う男が、自暴自棄に走るということは、つまり「逃げ」でしかない。あいつはオレ のいない世界に絶望し、そして逃げたんだ。その弱さを、許せない訳ではないが、 だからといって、他の人間(しかも不特定多数)を抱いた行為だけは容認出来ない。 感情が許さないのだ。 (オレの知らない誰かを、オレと同じように抱いたなんて…っ) あいつが目を向ける物全てにさえ嫉妬してしまうというのに、あろうことか、数多の女と 体を繋げただなんて……! (直江の奴―――!!) 「……お仕置きが必要だな」 高耶は、ギッと虚空を睨み付けた。
「で、これはなんなんですかッ」 激しく動揺する直江に、高耶は妖しく笑った。 「だから罰だ」 「罰って……、くッ!」 股間に走った痺れに、直江は眉を寄せた。 「やめて下さいっ、こんなこと!」 グッと手首に力を込めるが、イスに後ろ手に縛られているのでどうしようもない。 念を使おうにも、高耶が《力》で圧力をかけているから、使うことは出来ない。 汗が流れる。苦しい……! 「高耶さん……!」 「……しばらく、……そのまま見ていろ」 息を弾ませた高耶は、無心に股間のものを弄っている。 マスターベーションをしているのだ。 恥ずかしい部分を惜しげもなく晒しながら、直江の前で淫らな行為に耽る。 高耶自身恥ずかしい行為であったが、それこそが、高耶からの直江への罰だった。 高耶は直江を拘束した上で、自ら自分を高めていた。これがなぜ罰になるかというと、 こうする事が、直江に一番効果的な精神的ダメージを与えられるだろうと、考えたから だった。 その証拠に、イスに縛り付けられた直江は、身の内を荒れ狂う波に苦痛の表情を浮 かべている。 ただでさえ抱きたいと思っている美獣だ。そんな彼の乱れた姿に、あの直江が取り乱 さない訳がない。 縛りつけられてさえいなければ、すぐにでも浅ましい肉棒を取り出して扱き始めるのに。 そして、あの貪欲な獣の菊門に、太い一物を捻り込んでやるのに。 自分の物を深く銜え込みながら、歓喜の涙を流す高耶が見てみたい。 激しく揺さぶって、気が狂うほどの快感を、あの浅ましい場所から与えてやりたい。 (今すぐにでも!) ギリ、と直江が歯ぎしりした。 「……ッ! 高耶さんッ、…外して……!」 直江の息が荒い。その男の息づかいに、高耶もますます興奮する。 「ンッ! んぁ……!!」 「高耶、さんッ!」 ガタガタ、と椅子を揺らしながら必死で請うてみるが、高耶の耳には入っていない。 もう、限界間近のようだった。 グッと自分のモノを掴みながら、高耶は高い咆吼を上げる。 「く、あぁ……ッ…!!」 「……高、耶さんッ!!」 「アァ……!! な、お………っ」
目を開けると、男がそこにいた。 脱力した体を投げ出していた高耶は、ふと、小さく目を見開いた。 「なおえ……」 男は渾身の《力》で、縄を引きちぎっていた。その目が、怒りのためか激しい色合いを 帯びていた。思わず息を呑む高耶に、だが直江は謝罪の言葉を口にした。 「―――すみませんでした、高耶さん。あなたに、嫌な思いを……」 「!」 そっと抱きしめられて、高耶は力を抜いた。 あんなに酷いことをしたのに、直江は怒っていなかった。 罵られると思っていたのに。 軽蔑されると思っていたのに。 それどころか直江は、済まなかったと謝ってくるのだ。 「直江……」 「そうです。すべて、あなたの仰るとおりです」 そう言うと、直江は深く項垂れた。 「あなたを探し出してみせるなんて言っておいて、結局はこれだ。……正直なところ、譲 さんの事が無ければ、あと何年、あなたを探し出すのに時間がかかったかわかりません」 「直江…」 直江は苦笑いを浮かべると、 「女を抱いたのは、ただの欲望の捌け口としてだったけれど、あなたからみれば許され た行為ではなかったでしょう。そんな、愛の欠片も無い行為。『ほんの一握りでも、あ なたが存在している可能性があるのなら、そのほんの一握りのために自分は生き続 けなければならない』。そんな綺麗事を並べておいて、しょせんこの程度の男なんです、 この男は。あなたに欲してもらえるほど、出来た人間じゃないんです」 「直江」 「軽蔑されるのは、俺の……ほう」 そう言って顔を覆ってしまう直江に、高耶は小さく声を掛けた。 「いい。直江。もう……」 「高耶さん…」 「いいんだ、もう」 高耶は笑った。 (わかっているのなら、いいんだ) 「オレの方こそ悪かった。おまえはよくやってくれた。本当は、許す許さないの問題なん かじゃなかったんだ。ただ、オレの知らないたくさんの誰かを、おまえが抱いたのかと 思うと、」 嫉妬に狂いそうになった。 そこに、愛が無くても、だ。 この男と関係を持ったというだけで、相手を八つ裂きにしてやりたいぐらいだった。 そう言って、高耶は自嘲した。 許されない、こんな独占欲。 直江には直江なりの事情があったというのに、苦しくて悲しい思いをいっぱいさせてしま ったというのに、ほんの少しの「逃げ」も許せないなんて。 ちっぽけな自分に、心底嫌気がする。 それなのにおまえは、オレの醜い独占欲をも上回る力で、オレを求めてくれるんだよな。 愛してる、愛してる、と体中で叫び続けてくれる。 その手酷い執愛に、どれだけ助けられているかわからない。 「高耶さん」 名を呼ばれた高耶は、手を伸ばして口づけを請うた。それに呆然とした顔をしていた直江 だったが、やがてふわっと笑った。 高耶の上に屈み込み、瞼に優しいキスを落としてやる。 「高耶さん、いい……?」 それには答えず、高耶は直江の体に腕を回した。 そして、委ねるように目を閉じた。 |
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