聖痕


この男は、再会する度に傷が増えていく。

5年前、仰木高耶として「再会」した後で見た、リストカットの後。
自分を命がけで守った証として残った、背中の傷。そして胸の銃痕。
高耶を行かせてしまった後悔から付けた、手の平の傷。
そして、信長に付けられてしまった、見るもおぞましい額のビンディ。
どれもこれも、高耶に関係している傷ばかりだ。
直江は、いつの時代も自分の家族を大切にする。
本来なら「橘義明」の魂が入るはずだった肉体に、自分が入り込んでしまった罪悪感からか。
その献身ぶりは傍から見ていてもわかり過ぎるもので、どうしてあそこまで尽くすんだろう、
と同じく家族を大切にしている綾子ですら思った程だ。
そんな家族を大事にしている男が、高耶の為に全てを擲っている。それが当然とばかりに、
家族への罪滅ぼしも忘れ、高耶の為だけに……。
直江の肉体に傷が増え続けたら、どれだけ家族が心配するのか。
むろん、直江は戦いで負った傷などを、家族に大っぴらに見せたりする事はないだろうが、
それでも親や兄達の目は誤魔化せない。こと、幼少時代から問題があった三男坊に対しては、
特に慎重になっている事だろう。
そんな家族の気持ちが手に取るようにわかるのに、直江だとてわからないはずがないのに、
直江はいつも身を挺して高耶の事を守ろうとする。
使命だから。
むろん、それもあるだろう。
だが一番は、高耶を愛しているから。愛しているから、守りたいと思うから、かすり傷一つさえ、
負わせたくないのだ、直江という男は。
しかし、そんなのは許容しがたい事であった。
「自分」の体を傷つけるだなんて、そんな事。
(もう、これ以上、おまえの体に傷が増えるのなんて見たくない)
そう、言っていたのに―――。


「なんだよ、これは。ああ?」
不機嫌も露わに問いつめる高耶に、直江は複雑そうな顔をした。
「何って、BCGの痕………」
「おまえっ、こんなトコにまで傷なんか作りやがって!」
そう言ってペシッと叩いたのは、直江の左腕だ。
直江の二の腕には、少年期に受けたBCGの痕が、今もくっきり残っている。
「高耶さんっ、これは傷じゃあないですよ。予防接種の痕です。しかも、あなたと再会した時に
は既にありましたよ」
「! なにぃ〜? おまえ、隠してたなっ」
「隠してって……。人聞きの悪い。誰も隠してなんかいませんってば。あなたの前で上着を
脱ぐ機会が少なかったから、気付かなかっただけでしょう?」
「それは…、けど、」
確かに直江は長袖ばかり着ていて、二の腕を出す機会が少なかった。
だから今まで気が付かなかったのだが。
「今では学校でBCGを接種する所は少なくなりましたが、昔はごく一般に受けていたんです
よ。同年期の人達の殆どは、腕に痕が付いているはずです」
だから、傷なんかじゃないんです、と説明する直江に、だが高耶は面白くない。
高耶に関係している傷の他にも、こんなにもクッキリ残っている痕があったなんて。
それが例え予防接種の痕だとしても、自 分 の モ ノに傷が残っているなんて、許せるはずが
ない。
ぶすっと黙り込んでしまった高耶に、「高耶さん」と声を掛ける直江。
自分を気遣う声に心揺れるが、高耶は憮然としたまま呟いた。
「…おまえの体に傷が増えんのは、…ヤなんだよ」
「―――え?」
「もう、これ以上、傷なんか作んなよ。傷が残るって事は、それだけ痛かったって事だろ? 
つれーよ。そんなの。もう見たくねぇんだよ」
おまえの、綺麗な体に。
「高耶さん…」
「だから、もう作んなよ。作ったら、…別れてやるッ」
「わか、別れる…って」
子供っぽい脅迫に失笑した直江は、だがとても温かい気持ちになっている。
腕の痕は不可抗力だったとはいえ(それどころか重要な意味を持っているのだが)、そんな
痕まで高耶が気にしてくれるとは。
(ありがとう、高耶さん)

愛してます。



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