愛すること


まるでベッドに縫いつけるかのように体を重ね、指を絡ませる。互いの息づかいが
わかるほど顔を寄せ合い見つめれば、自然と揺らぐ暗褐色の瞳。直江に覆い被ら
れ身動き一つ出来ない高耶は、おとなしく直江の唇を受け入れた。しっとりと合わ
さる二つの唇。だが、それは高耶が物足りなく感じるほどあっさりと離れてしまった。
つい請うように高耶が唇を突き出すと、直江は微笑みをたたえながら再度顔を近づ
けてきた。やんわりと下唇を噛まれ、ジンと痺れる感覚が高耶の全身を襲った。
絡みつかせたままの高耶の手がピクンと反応する。
「高耶さん…」
深い囁きと共に今度は耳の中に舌を入れられる。濡れた感触に、肌をさざめかせ
る高耶。くすぐったさからか、それとも快感からか、高耶の体がブルリと震えた。
「…ぁ、やだ…、そ、れ」
「感じるから?」
「バカ、言ってん、じゃ…ぁ…」
高耶がしきりに身を捩って逃げようとするので、仕方なく直江は一旦彼を解放する
事にした。途端に安堵の息を吐く高耶に直江は不満を感じる。直江は耳朶を一噛
みしてからうなじへと唇を滑らせた。
ヒク、と高耶の喉が痙攣したのにほくそ笑む。そのまま首筋を伝い降りて、辿り着
いた突起を口に含むと、高耶の口から小さな声が上がった。
「あ……」
もっと高耶の声が聞きたくて、直江はぷくりと立ち上がっているそれに歯を立てて
みた。
「ン、あ…。や……、な、お」
「もうこんなに立っていますよ。感じているんでしょう? 高耶さん」
くすくすと笑われて、高耶の顔にカァッと血が上る。事実なだけに恥ずかしい。
高耶は両手でクロスするかのようにして、男から顔を隠した。
「おやおや、可愛いことして。そんな事をするといじめたくなりますよ」
直江の言葉にギョッとして、腕を外そうとした瞬間だった。直江にそのまま両腕を
取られてシーツに縫いつけられてしまった。
「なおえっ!」
今度は頭の上で両腕をクロスした形になった。直江の前に無防備に胸元をさらけ
だす恰好になった高耶の頬に、ますます血が上る。ねっとりとした男の視線も羞恥
を煽った。
「やだ、直江。離せよ!」
「どうして? あなたはこんなにも素敵なのに」
「は、恥ずかしいからに決まってんだろっ! 早く離しやがれ!」
「高耶さん……、今のうちだけですよ、そんな事言っていられるのは」
「なんだと…、うぁッ」
直江がニヤッと笑いざま、高耶の中心に手を伸ばしてきた。そのままギュッと握ら
れて高耶の腰が揺れた。
「な、なおえっ」
両手の自由を奪われた上に弱いところを弄られて、高耶は息を乱して抗った。
唯一自由になる足を必死に動かして男から逃れようとしたが、その動きは却って
高耶を追いつめることになった。
「あぁ…ん!」
甘い嬌声が口をついて、高耶は大きく目を見開いた。自分が動いたことによって
加えられた微妙な刺激に、思わず声を出してしまった。しかも、恥ずかしいくらい
甘い声を。淫らな自分が恥ずかしくて顔を隠したかったが、直江に拘束されていて
それは出来ない。高耶は、羞恥と屈辱から瞳が潤むのがわかった。
こんな事で泣きたくなかったが、もう、止められない。
「……っ」
頬を伝う高耶の涙を見た直江は一瞬動きを止めたが、次の瞬間酷薄そうな笑み
を口元に上らせた。
「高耶さん。……そんなに感じちゃったの?」
「なっ……!? なに、言って…」
「泣くほど気持ちよかったのですかって聞いているんですよ」
「!?」
直江の口から出てきた冷たい言葉に、高耶は顔を強張らせた。間近でのぞき込
んでくる直江の瞳が、高耶の内を検分するかのような獰猛の光を浮かべていて、
高耶は急に怖くなった。そんな直江を見るのは初めてだったし、唇に浮かんでいる
微笑みが不気味だった。彼は、いつもそんな目で高耶を見たりしない。愛しさと慈
しみの眼差しで、優しく包んでくれるのが常だった。だから、初めて見る男の野蛮
な眼差しに、高耶は危険を感じて体を強張らせた。
「……なせよっ! 離せよ、直江!」
押さえつけられた両手で直江を押し返そうとしたが、予想通りビクともしない。それ
でもどうしても直江から逃れたくて全身で抵抗をした結果、いとも簡単に自由を手
に入れることが出来た。
(え……?)
「……ッ」
気が付いた時には、高耶は俯せの状態になっていた。呆然とする間もなく、背中
に男がのし掛かってくる。
直江の不気味な行動に、高耶の額に冷や汗が浮かんだ。今日の彼は危険だ、と
頭の中で警告するものがある。
(どうしよう…。このままなんて、絶対嫌だ!)
「高耶さん」
混乱しかけている頭で打開策を練ろうとした時だった。そんな高耶の気持ちにおか
まいなく、直江が顔を近づけてきた。無防備に曝している項に温かい息がかかる。
(うわっ、きた!)
どうしようもなくて覚悟を決めた時だった。次に直江の口から出たのは、意外な言葉
だった。
「高耶さん、驚きましたか?」
一瞬の沈黙の後、高耶が声を発した。
「……はぁっ!?」
そんな高耶を見てくすっと笑みを零した直江は、高耶の耳朶を甘噛みしながら言葉
を続けた。
「あなたがあまりにも可愛かったので、つい意地悪をしたくなりました」
「……え!? えぇッ」
「しかし、あなたは何をしても本当に可愛いですねぇ。先ほどの怯えているあなたも、
可愛くてどうにかしたいぐらいでしたよ。困った人ですね」
ポカンと口を開いたまま直江の言葉を聞いていた高耶は、その意味を理解しざま、
両手に作った拳を震わせた。
「…っめぇっ、さては騙しやがったな!」
「騙すだなんて、人聞きの悪い。あなたが可愛過ぎるからいけないんです」
「おい、コラッ! 可愛い可愛いって言うなっ」
「どうして? 可愛いから可愛いって言っているんですよ。例えば……、ココとか」
思わせぶりに囁いた直江は、ツツ…と指を滑らせて、高耶の双丘の狭間に挿し込
んだ。
「…ァ」
「ほら、こんなに可愛い」
「バ…カ、言って…じゃ」
「フフ、こんなじゃまだ足りませんよね。これならどうです?」
先端だけを含ませていた指が、高耶の中で大きく曲げられた。
「アァ……!」
大きく揺らいだ体が高耶の快感を表していた。直江は好色そうな笑みを浮かべる
と、高耶を陥落させるために指の動きを再開した。
「あぁ、ん…、ア……、やめろ……って」
激しく出入りを繰り返す男の指が、高耶を追いつめる。擦り付けられる指が、何とも
言えない感覚を運んできて、高耶は体をビクビクさせながらよがった。
言葉とは裏腹に、高耶の腰は揺れていた。高耶の前も完全に立ち上がり、自然と
シーツに擦り付ける形になった。
「んんっ、んんん……! な、お……」
苦しい、という言葉は出なかった。いや、出せなかった。そんな事を言ったら、ます
ます奴の思うつぼである。高耶は仕方なく、シーツを握りしめることでやり過ごすこと
にした。だが、直江の指は実に巧妙だった。その結果、あの部分の他に、直江に弄
られて敏感になってしまった胸元も擦る形になって、段々意識が朦朧としてきた。
しかし、それも当然だろう。性感帯を一度に3箇所も攻められているのだから。
「…アッ、……ア!」
あえかな声と共に、飲みきれなかった唾液が顎を伝う。足の中心にあるものも、我慢
しきれずに涙を零している。
「高耶さん」
指を抜きざま、グイッと腰を持ち上げられた。息を付く間もなく、今度はぬるりとした
ものがそこに宛てられる。
「ヒァッ……! や…だ、それ」
奥まった場所に男の舌が轟くのが耐えられなくて、高耶は重く感じる体に必死に力
を込めた。だが、直江に前にあるものを握られた瞬間、それははかない徒労に終わ
った。
「可愛い高耶さん。待っていて、今もっといいものをあげるから」
言うと、直江は左手を伸ばして、ある物を手に取った。
「絶対、あなたも気に入ると思いますよ。なにせ、あなたの好きなお酒ですから」
「!?」
問いかける間もなかった。直江は口元に引き寄せたそれを含むと、高耶の下の口
に注ぎ入れたのだ。
「やっ、あー…、ンンン……!」
直江の口の中に含まれたことによってそれは幾分温められていたが、それでも高耶
の体の奥に比べたらまだまだ冷たい。温度差の激しい液体を注入されて、高耶の体
は強張った。それ以前に、アルコールを含まされているという事実が気持ち悪い。
高耶は腰だけを突きだした淫らな恰好のまま、涙を零した。
(直江がこんなことをするなんて……!)
ショックだった。
けれど、そう感じていたのは僅かな時間だった。段々気持ちが高揚してきて、次第
にどうでも良くなった。
酔ったのだろうか。体が熱い……!
「高耶さんは、本当にお酒が好きですねぇ。零さず飲めましたよ。ご褒美に、あたなの
一番好きなものをここにあげましょうね」
直江の声が遠くに聞こえる。
酩酊状態の高耶に構うことなく、散々嬲られて疼いていた秘所に、熱くて堅いものが
挿入ってきた。
(なお……)



目を開けた時、一瞬自分がどこにいるのかがわからなかった。
ただ、体の奥底に熱いものを感じる。
「……?」
(…ん!?)
その熱いものが何なのかを把握した途端、高耶の意識は一気に浮上した。
腰を掴む大きな手、シーツに押しつけられた体、そして体の奥に感じる脈打つもの。
どうやら、挿入れられた衝撃で少し気を失っていたらしい。アルコールが入ったせい
で、いつも以上に感じてしまったらしかった。
「な・お・えー」
一言言ってやろうと必死に首を巡らせると、そこに男の辛そうな顔を見つけた。
―――ドキッ。
快感に耐える男の表情はどこか淫靡で、あまり免疫のない高耶は心臓が跳ね上が
るのを止められなかった。
汗に濡れている額、キツく顰められた眉間、辛そうに閉じられた瞳、陶酔したかのよう
に薄く開いている唇。彫刻のように美しいその表情に、高耶は怒りも忘れて思わず見
入ってしまった。
(直江も感じているんだ。……オレの中で)
そう思ったとたん、高耶は泣きたい気分になった。相手に何かを与えてあげられると
いうことが、こんなにも嬉しいことだったなんて……。
高耶の脳裏に、直江の行動の数々が浮かんだ。思えば、彼の行動にはいつも愛が
満ちていた。何気ない気遣いや所作は高耶を安心させるものだったし、とても居心地
のいいものだった。
彼の行動に、愛の無い時なんてなかった。
「……」
高耶は、先ほどの暴挙を罵るつもりだったのだが、そういう気分では無くなってしま
った。
(たまにはいいか、こういうのも)
けれど、こんな事を思うのは、お前だけだからな、直江。

……お前だけ。



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