あなたを愛しいと思うきもち


直江は赤信号で停車した隙に、カーオーディオの時計をチラリと見た。
無愛想なデジタル時計が、21時ちょっと前を表示している。いつもならとっく
にマンションに帰宅して、高耶とくつろいでいる時間だ。長引いた仕事を忌々
しく思いながら、直江は煙草を口にした。
(何しているだろうか、高耶さん……)
吸い込んだ煙草が肺に苦い。暗い車内に一人きりでいると、無意識のうち
に想い人の顔が脳裏に浮かんだ。彼は不機嫌そうに、『何やってんだよ、
おせーぞ直江』としきりに直江を詰っている。
彼のぶっきらぼうな態度は、照れ隠しの一つだ。素直じゃない彼は、ぶっきら
ぼうな態度を取る事で、かろうじて自分の思いを表現するのが常だった。
直江は微笑した。きっと想像通り、直江の帰りを今か今かと待っているに違い
ない。照れ屋で素直でない彼は、そんな素振りは
直江の前では、そんな素振りを決して見せないだろうが。
一刻も早くあなたの顔が見たい。
疲れた体を癒せるのは、あなたの笑顔だけ。
直江は煙草を揉み消すと、彼の待つマンションへと車を走らせた。




「ただいま、高耶さん。遅くなってすみません」
直江は靴を脱ぎながら奥に向かって声を掛けた。が、いつもならすぐ『おか
えり』と返る声が、今日は返らない。不思議に思った直江はもう一度声を
掛けてみた。
「高耶さん? いるんですか?」
言いながらリビングを覗くと、テーブルの上に高耶が用意した夕食が並べら
れていた。皿の上に被せらたラップに水滴が付いている。時間が経ってしま
ったために、すっかり冷めているらしかった。それを申し訳なさそうに見なが
ら、直江は部屋の中を見渡した。が、肝心の本人が見あたらない。
「風呂にでも入っているのだろうか」
直江は首を傾げて耳を澄ましてみたが、浴室からはそれらしい音は聞こえ
てこなかった。となると…、
「寝室…?」
直江が寝室を覗いてみると、部屋の中は電気が消されていて暗かった。
真っ暗でないのは、外からの光源があるからだ。直江が目を凝らして部屋
の中を見渡してみると、窓際に据えられたベッドの上に直江の探し人がいた。
高耶は布団も掛けずに横になっている。
「高耶さん、どうしたんですか?電気も点けないで。……具合が悪いんで
すか?」
直江が電気を点けて歩み寄ると、高耶はむずがるように布団に顔を押し
つけた。
「高耶さん……?」
こちらに顔を向けない高耶に、心配になった直江は手を伸ばした。すると、
ガバッ!
「いたっ!」
高耶がいきなり起きあがったために、高耶の頭が直江の顎に直撃した。
「た、高耶さん〜〜」
「あ……、悪ィ、悪ィ。て言うか、オレも今のはちょっと痛かったぞ」
高耶は顔を顰めると、ぶつかった部分をそうっと撫でこすった。
「そ、それよりも、何やっていたんですか? あなたは。電気も点けないで」
ギクリ、と高耶の肩が跳ねた。
「……え? い、いや、ちょっとなっ」
「ちょっと何ですか」
「……ぅ。べ、別に何だっていいだろっ」
何故かムキになって声を荒げる高耶に、直江は少し気分を害した。一刻
も早く高耶の顔が見たくて急いで帰ってきたというのに、つれない態度を
取られたのではガッカリするというもの。
「何をムキになっているんです? 教えて下さってもいいじゃないですか。
私は本当に心配したんですからね。それとも私には言えない事なんです
か?」
怖い顔でまくし立てる直江に、高耶はしゅんとなった。
(そ、そんなマジになられたら、ますます言えねぇじゃねぇか)
高耶は気まずくなって顔を逸らした。
そんな高耶を見ていた直江は何を思ったのか、いきなりベッドに上がって
くると高耶の上に覆い被さった。
「な、なおえ?」
スーツをあさっての方に投げ捨ててから、ネクタイをしゅるっと抜き取る。
(マ、マズイかも、これって)
今までの経験上、不穏な空気を敏感に感じ取った高耶が顔を強張らせて
直江を見ていると、
「わかりました。どうしても私には言えないと言うんですね。なら、言いたく
なるようにさせるまでです」
言いながら高耶の衣服に手を掛けると、強引に一気に捲り上げた。
(や、やっぱり〜〜!!)
自分の予想が外れなかった事に感心しながら、直江の短略行動に呆れ
もする。
(って、冗談じゃね〜ぞ!)
「お、お、お、おい! わかったっ、わかったよ直江。言えばいいんだろっ」
このままいいようにされるのはゴメンだ。
高耶は慌てて後ずさると、捲られた衣服を下ろした。




「……な、何だよ、直江。離せよっ」
高耶は顔を真っ赤にさせて直江の腕から逃れようとした。だが、ぎゅうっと
抱き込まれてしまってそれは叶わなかった。
「な、なおえぇ」
「……すみません、高耶さん。あなたがあまりにも嬉しいことを言って下さる
ので、つい……」
「な、何だよっ。恥ずかしいこと言ってんな……、んっ」
高耶の言葉は直江の口によって遮られてしまった。そのままベッドに押し
倒されて、唇を強く押しつけられる。下唇をやんわりと噛まれて薄く開いた
口内に、侵入者は容赦なく入ってきた。
「ん……、む」
やや強引な口づけに、高耶の体がピクンと跳ねる。
引きつる両腕を捕らえられて、高耶はベッドに縫いつけられてしまった。
「ぁ……ん、………ハ…」
高耶がキスに酔っているのを良いことに、直江は高耶の前をくつろげると大
きな手をそこに潜り込ませてきた。
「! こ……、こら!…ぁ、……めろっ…て……」
キスの合間を縫って抗議の声を上げる高耶に、直江はふわりと笑った。
「いいでしょう? 今夜はこのまま……。もう、我慢出来ません。それにあな
たももう、」
「んあっ」
「すっかりその気じゃないですか」
握られたことにより体をヒクつかせた高耶に、直江はクスッと笑った。
「いつもよりも優しくするから…、抱かせて」
ドキッ。
直江の囁くような低音に、高耶の胸は高鳴った。
(〜〜〜そんな風に言われたら、拒めねぇじゃねぇか…)
高耶は顔を真っ赤にすると、直江の広い背中に腕を回した。それは、高耶
なりの了承の合図だった。
「電気……、消せよ」
その一言で電気は消された。次いで、直江の唇が高耶のうなじに吸い付
けられた。
「高耶さん……」
「……っ」
直江の手によってジーンズを抜き取られ、足を緩く折り曲げられる。そして
期待に震えるそこを、熱い手に握り込まれた。
「ア……、は……」
手の中のそこを柔らかく扱かれ、さらに両の袋を優しく揉み込まれる。
あまりの気持ちよさに、高耶は顔を上気させながらあえかな声を漏らした。
「気持ちいい?高耶さん…」
耳に舌を差し込まれるようにして注ぎ込まれる言葉に、高耶は目を潤ませ
ながら頷いた。
「良かった。……もっと気持ち良くさせてあげるから、俯せになって」
「!?」
「大丈夫、全てを私に任せて」
直江は高耶の衣服を全て剥くと、自分も全裸になって高耶の体を俯せにさ
せた。そして腰だけを持ち上げると、羞恥のために震えている足を開かせた。
「な、お……」
「大丈夫。見ているのは私だけです。恥ずかしがることは何もありません」
言うと直江は、高耶の赤く色付く花弁に舌を這わせた。
「ぁん!」
大きく揺れる腰を片手で支えて、直江は舌を大きく出してそこに唾液を送り
込む。ピチャッと卑猥な音を立てながら送り込まれる唾液は、そこを柔らかく
潤ませ直江の舌を深く取り込んでいく。
あまりの快感に震えだした高耶を見ると、直江はそこから舌を引き抜いた。
「……ぁ………ンッ」
「痛かったら言って」
直江は、高耶を高めているうちに育ったものをそこに宛うと、濡れた秘部の
中に慎重に押し入った。
「あ!…ンンっ……」
ぬるりと入ってきたものは、高耶の狭いそこを押し広げながら奥へ奥へと進
んでいく。高耶の中は燃えるように熱く、直江の肉棒をキツく締め付ける。
直江は額に汗を滲ませながら最奥まで到達すると、息を抑えて体の動きを
止めた。そして、高耶が直江の太さに慣れるのをひたすら待つ。
高耶の中では男の熱いものがドクドクと脈打っていて、高耶を甘く苦しめて
いた。
体の奥にもう一つ、心臓があるようだ。
(も…、とろけ、ちまう……)
高耶の震える指がシーツを弱々しく掻きむしった。綺麗な白い背中は、汗に
濡れて艶やかに光っている。
やがて、高耶の喘ぐような息づかいに甘いものが混じったのを知ると、直江は
高耶のイイ所を狙って抜き差しを始めた。
「あぁん!……アッアッ………!」
感じ入った高耶の声が、暗い部屋に淫らに響いた。射精が近くてビクビクと
震えているものにも、直江は刺激を送ってやる。
「あ、っん、…イ、イ………ぁ、………んんっ」
高耶の声が高く掠れたものに変わるのを聞いた直江は、狙いを定めてそこ
に深く突き刺した。



ハァ…、ハァ…。
高耶は荒い息を繰り返しながら、ベッドに沈没していた。
あれから散々乱れてしまった高耶だ。今は力をすっかり使い果たしてしまっ
て、ピクリとも動くことは出来ない。
(スゴかった……)
高耶は今までの交情を思い出して、カァッと顔を赤らめた。
一度事が済んだ後、直江に体を清めてもらったのでサッパリしたのだが、
直江の優しい手が這いずり回るのにも感じてしまって、もう一ラウンドして
しまった二人だ。あまりの快楽に、途中から覚えていない高耶だ。
先ほど熱く自分を抱いた男は、添い寝をしながら汗に濡れた高耶の髪を梳
いていた。こちらを見つめる瞳が優しく笑んでいるのを見つけて、高耶は訳
もなく照れた。
「気分は如何ですか?」
「…ん、………いい」
高耶が珍しく素直に返事したと思ったら、その顔は沸騰するのではないか
というぐらい真っ赤になっていた。そんな高耶にクスッと笑みを漏らすと、高
耶は恨めしそうに睨み付けてきた。
「なおえっ」
「す、すみません。……それにしても今日は嬉しいことばかりで。……まさか
あなたがそんなにして私の帰りを待っていて下さったとは……。たまには遅
くなるのもいいですねぇ」
直江のその言葉に、高耶は顔を赤らめながらジト、と睨み付けた。
それは数時間前、直江に問いただされた高耶がしぶしぶ口にした事を指し
ていた。
その内容はこうだ。
高耶は直江が帰ってくるのを待ちかねて、寝室から外の様子を伺っていた。
バレるのが恥ずかしくて電気は点けなかった。が、そうしたらいつの間にか
ウトウトしてしまって、気が付いたときには直江は帰ってきてしまっていた。
後ろめたさから、部屋から出られずにいた所に直江が心配して入ってきたもの
だから、話はますますややこしくなってしまって……。もちろんこんな話、恥ず
かしくて言えるわけがない。それなのに、高耶の事となると異常な執着を見せ
る直江に、高耶は言わざるを得なくなってしまって、その後は、……ご存知の
通りである。
「バカッ。言うなって」
恥ずかしくて顔を赤らめながら怒鳴る高耶に、直江は破顔した。
(まったく……、犯罪ですよ、あなたの可愛さは)
「すみません、これで許して」
直江は優しくキスをすると、まだ火照っている体を抱きしめた。
そして、今こうして一緒に過ごしていられる幸せに、心から感謝した。



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