| 骨まで愛して
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「なんかずいぶん涼しくなったよな〜」 濡れたままの髪をタオルでワシャワシャと拭きながら、高耶はベッドに腰を下ろした。 10月ももう下旬である。薄く開いた窓からは涼しい風が入り込み、高耶の上気した 頬を優しく撫でていた。 高耶は冷やしていた缶ビールを開けると、一口飲んでほやっと笑んだ。 少しオジサンくさいかもしれないが、風呂上がりのビールは最高だ。火照った体に、冷 えた液体がとても美味しく感じられる。さらに適度な室内温度と湯に入ったことによる 解放感から、ポヤポヤといい気分の高耶はベッドの上にゴロンと横になった。 「っはー! しあわせ〜」 仰向けになって大きく両手を伸ばす。こうすると、体の奥に溜まっていた疲れが霧散 していくようだ。すっかりとろけたバターになった高耶は、そのまま気持ちよさそうに目 を細めた。 もう、このまま動きたくなんかない。欲求のまま眠ってしまいたい。 薄く唇を開いた高耶は、既に睡眠体勢に突入している。どこかあやうい黒い瞳が、見 る者の心を騒がせた。 「高耶さん。そんな恰好でいると風邪をひきますよ」 その犠牲者、―――もとい、直江はベッドと一体化している高耶を見て軽く窘めた。 高耶といえば、風呂上がりのせいで桜色に頬を染めているし、ビールを含んだことに より唇が紅く色づいている。しかも、またたびを嗅いだ猫のようにベッドの上でだらん としていて、とにかく男の欲望を刺激しまくりなのだ。「全くこの人は」と呆れた直江だ が、言って言うことを聞くような人ではない。仕方なく苦笑に留めた直江だったが、こ ういう時ばかりはカンのいい高耶が、何かを感じとってかムッと唇を尖らせた。 「なーに笑ってんだよ。スケベ。こーしてると気持ちいいんだよッ」 言いながら左右にゴロゴロと転がる高耶は、やはり猫のようだ。そんな高耶に目を細 めた直江だったが、パジャマの裾がペラッとめくれたのに、ウッと詰まった。パンチラ (死語)ではないが、男というのはこういう些細な事でドキリとするものである。 それが愛しい人の姿ならばなおさらであり、当然直江も―――。 「こら。高耶さん。いい加減になさい。湯冷めしますよ」 直江は読んでいた本を傍らに置くと、高耶の元へと近寄った。それを、僅かに頭を起 こした高耶の視線が追う。高耶の傍らで足を止めた男に、上気した顔のまま見上げて くる黒い瞳。直江は吸い込まれるかのように顔を近づけた。 「そんな顔をして…。誘っているの?」 至近距離で囁くと、高耶がキッと睨み付けてきた。 「バカっ! そんな顔ってどんな顔だよ。……言ってろ」 「そう? それにしては逃げないんですね」 言いながら高耶の体を挟むように手をつくと、そのまま彼の上に覆い被さった。 直江の腕の牢獄に捕らわれた高耶は、アルコールのせいで潤んだ瞳をゆっくり男へ と充てた。交わる視線と視線。先に唇を寄せたのはどちらだったのか。気が付いたら 二人の唇は一つに重なっていた。 「んっ…」 吐息が唇に溶ける。 漏れる喘ぎすら逃したくなくて、直江は甘い唾液を余すところ無く吸い上げた。 「あ…ふ、ん」 何度も何度も飽きるぐらい舌を絡ませていると、高耶の体からクタッと力が抜けたの がわかった。口ではどうのこうの言いながら、直江を待っていたのは事実のようだ。 うっすらと開いた瞳が、どうしようもないくらい熱に潤んでいる。それに煽られた直江 が熱心に舌を吸い上げると、高耶の方から直江の背に腕を回した。 それがまるで合図だったかのように、直江は高耶をベッドに組み敷いた。 「ん、ふぅ…」 高耶が手の甲で口元を押さえた。溢れる喘ぎを塞き止めるかのように。 見られるのが恥ずかしいのか、高耶はしきりに顔を逸らしていた。つまりシーツに半 分顔を埋めた状態なのだが、その高耶の睫が小さく震えているのに直江は気が付 いた。 切なげに寄せられた眉といい、上気した頬といい、夜の高耶は男の劣情をこれでも か、というぐらい煽ってくれる。そして、こみあげてくる悦楽を必死に耐えている様子 は実に可愛らしくて、直江は微笑みを深くした。 「高耶さん…」 「―――っ!」 入れている指を、より一層押し込むと高耶の足がピクッと引きつった。 かなり深い所まで挿入っている。直江のゴツゴツした指が予測できない刺激を生む のか、グリグリと回すたびに高耶が唇を噛み締めるのが見えた。 「あっ…、ん、あぁ……」 瞳を潤ませ、子犬が甘えるような喘ぎを零す高耶。 噛み締められた唇の歯の白さにもクラリときて、直江は鼓動が早くなるのを感じた。 「高耶さん」 直江は逸る気持ちを抑えながら指を引き抜くと、次いで高耶の右足を大きく持ち上げ た。自然と露わになる恥ずかしい部分。男に見られていることに感じてか、高耶の前 から汁が滲みだした。 直江は上手く自分の膝の上に高耶を乗せると、その態勢のまま高耶を貫いた。 「あ、あ……!」 一気に入った男のものに、高耶は息を詰める。相変わらずの圧迫感。だが、指で念 入りに慣らされたそこは、さほど苦痛も与えず柔らかく直江を取りこんだ。 「………ッ」 高耶のそこが、元の大きさに戻るべく直江を締めつけてくる。キュ…ッと絞られる感触 は、男にはたまらないものだ。すぐに耐えられなくなった直江は、腰を使いながら入れ た一物を忙しなく出し入れした。 「ふ……あっ、…な、おぇ……」 シーツを鷲掴んで、快楽にむせぴ無く高耶。敏感な襞を擦る熱い棒に、訳がわからな くなる。 自然と涙が零れた。唇を戦慄かせながら甘い悲鳴を上げる高耶は、この世のものと は思えないくらいに美しかった。 「……綺麗だ、高耶さん」 うっとりと呟いた男は、ふと何かに気がついて体を起こした。視線の先にはカレンダー が下がっている。その日付を見た直江は、あまりにも場違いで突拍子もない言葉を 口にした。 「そういえば……、今日はハロウィンなんですね」 「あぅっ…、…ぁ…、あ、ふ……」 高耶に向けた言葉は、だが彼の前では意味を成さなかったらしい。紅く色づいた唇か らは、熱い吐息しか漏れない。 「ハロウィンには死者の霊が家に帰る、と言われているのはご存知ですか?」 「ヒッ! あぁ、ん……なお」 動きを止めた直江に、焦れた高耶が体を震わせた。 「あなたにはまさにもってこい、ですね。何しろあなたは、外野がいる方が燃えるから」 言いざま予告無しに下から思いきり突き上げると、高耶は悲鳴にも似た嬌声を上げた。 「あぁ……んッ!」 「ほら、こんなに感じてる。こんなに興奮している」 高耶の腰に添えていた直江の左手が、高耶の足の間に伸びた。一度達して萎えて しまっていたものが、再び力強く勃起している。迷わずそれを握り締めると、高耶の下 の入り口がギュッと締まったのがわかった。 「―――っ!」 「ンッ、ぐ…」 「いい……ですよ、高耶、さん…。もっと締めつけて」 高耶の達したもので濡れていた、両の袋を指先で転がす。 股間に感じる痺れにも似た感覚に、高耶は涙を零しながら喘いだ。 「あん…。あ、あ……。なおえ、も…、や……」 「このマンションは新築ですが、あなたの狂態を見て足を止める霊もいるかもしれない ですね。―――でも、」 私だけのあなたを見ることは許さない。 それは嫉妬だった。いかな人間外のモノであろうと、高耶のこんな顔を見ていいのは 自分だけだ。たとえ神だろうと、それだけは譲れない。 誰よりも愛しい高耶さん。 あなたの、真珠のような涙に触れてもいいのは私だけ。そして、あなたが隠し持ってい る、激しい焔を感じる事が出来るのも私だけ………。 直江は高耶に挿入したまま、後ろに気を巡らせた。もし、霊の気配があるようだったら <力>で吹き飛ばそうと考えたのだ。だが、幸いというか、何の気配も感じられなかっ た。直江は詰めていた息を吐き出すと、ヒクヒクと入り口を震わせている高耶を、更に 自分の元へと引き寄せた。 「―――っ!」 「残念ですねぇ、高耶さん。まだ誰も来ていないようです。でも、もっと高耶さんが素敵 な顔を見せてくれれば、たくさん集まってくるかもしれないですね」 心にもないことを口にしながら、高耶の足を大きく広げる。腰だけを直江の膝に乗せて いるので、いっそ卑猥を感じさせる程だ。 直江の腹に当たる、高耶の欲望。白く汚れたそれに、擦り付けるかのように体を揺ら すと、高耶は涙を零しながら淫らに鳴いた。 「あ……っ! あ…、あぁ………!」 「高耶さん……」 直江の低い、心地よい声が高耶の鼓膜を擽る。 ブルリと幾度も体を震わせながら、高耶は張りつめた先端から精液を発射させた。
「お前って、なんで、そうなんだよ……」 シーツにグッタリと横になった高耶は、怨みがましく直江を睨め付けた。 あれから散々可愛がられた高耶は、失神することで安寧を取り戻した。いつものこと だが、凄かった。すっかり腰砕けになった高耶は、さっきとは違う意味でベッドと仲良 くなっている。直江との行為は本当に気持ちのいいもので高耶も好きではあるのだ が、体力を消耗するのも事実であり、本音を言うと「ほどほどにして欲しい」高耶なの であった。 かたやスッキリ状態の直江は、傍らで高耶の髪を優しく梳きながら彼の言に応じた。 「『そう』とは…?」 「だから! なんで…、その、……ヤッてる時によ、関係ねぇこと持ち出すんだ?」 言ってて恥ずかしいのか、高耶が視線を泳がせた。直江はくすりと笑うと、 「特に意図して言った訳でもないんですけどねぇ。ふと思いついて。……それよりも、 聞こえていたんですか?」 あんなに乱れていたくせに。 そう含ませる直江に、高耶はカァッと顔を赤らめた。 「! 馬鹿ッ!! 当たり前だろっ」 とは言うものの、あの時の高耶はかなり意識が朦朧としていてよくわからなかった、 というのが本音だ。ただ、直江の煽り文句だけがやけに耳に響いて、それをBGM にした高耶がより一層乱れたのは言うまでも無い。 絶対計画的だ、と思う高耶だったが、下手なことを言うとまたあの舌先三寸にいいよ うに丸め込められる。学習能力を身につけた高耶はグッとこらえた。 そんな沈黙する高耶に何を思ってか、直江は悪びれもなく擦り寄ってくる。そしてムッ と唇を尖らせている高耶を、その胸に抱いた。 「なおえっ、なにすんだ!」 情事の後の気恥ずかしさから高耶が逃れようと藻掻くが、直江の腕は力強くビクとも しない。それどころか、高耶の弱点の一つでもある耳に息を吹きかけられて、高耶の 体が目に見えて震えた。 「聞こえていたのなら話は早い。夜はまだ始まったばかりです。もう少し、見せつけて やりましょう」 「いっ!? ウ、ウソ…ッ。―――アっ!」 言いざま伸びた直江の右手が、高耶の双丘の狭間に消えた。 |
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