苺のショートケーキ


「おぉっ、ケーキがいっぱい! なになに、……『苺まつり15%オフ』だってさ」
高耶は目を輝かせると、向かい合わせに座っている直江にチラシを広げて見
せた。
高耶が見ていたのは、朝刊の折り込みチラシである。赤で統一されたそのチラ
シは、制作者の思惑通り充分目を引くもので、その意図にまんまと引っかかった
青年がここに一人。 
「ケーキですか。……確かに美味しそうですね」
差し出されたチラシを見た直江は、微笑みながら言った。その顔にピンときた
高耶は、疑わしそうに言った。
「本当にそう思ってんのか? なーんか、『美味しそう』って顔してねぇぞ」
下からのぞき込むように見上げてくる高耶に、直江は苦笑した。
「そう…ですか? やはりわかるのでしょうか? 私はどうも甘いものが苦手
で……」
「あ、そっか。そういやそうだったな。それに、なんかお前って和菓子ってイメー
ジだし」
「どういう意味ですかっ」
「しっかし、可哀想な奴だな〜。甘い物がダメだなんて。うまいのに」
高耶は大仰にそう言うと、ソファに身を沈めた。チラシを大きく広げて、どれが
一番美味しそうか品定めを始める。
「へー、苺のシフォンなんてあるんだ。うまそうだな〜。でも、やっぱ定番の
ショートケーキがいいかな? タルトもうまそうだけど」
「高耶さん」
「何だよ。オレは忙しいの」
高耶は顔を上げないまま答えると、またケーキを比較し始めた。
「……デラックスも捨てがたいよなー。いや、それよりも大っきいやつ買った方
が、安くてたくさん食べられるかも」
ウキウキ、と弾む気分を隠さない高耶に、子供みたいだなと苦笑していた直江
だったが、そんな高耶を見ているうちになにやらイケナイ気分になってきた。
美食は直江も同じなのだ。
形のいい唇が卑猥に歪むのを、幸いにも高耶は見ることは出来なかった。
「高耶さん」
チラシに突然黒い影が落ちたので反射的に顔を上げると、いつの間に移動した
のか、直江がそこに立っていた。何か不穏な空気を嗅ぎ取った高耶は、無意識
に身構えた。
「な、何だよ」
「高耶さん、確かに私は甘い物は苦手ですけど、美味しい物なら大好きです
よ」
そう言ってニッコリ微笑む直江が何だか恐い。
「ふ、ふぅん。……だから?」
「あなたの姿を見ていたら、私も食べたくなってしまいました」
(なにっ!?)
言うなり直江は、いきなり高耶をソファに押し倒した。
「ワッ…! 直江っ、危ねぇじゃねぇかッ!」
頭をぶつけそうになって直江の下で喚く高耶に、直江はニコッと笑うと高耶の
衣服を剥き始めた。
「おい、コラッ! 何やってんだよッ!!」
「まずは、皮を剥かないとね」
直江は微笑みをたたえながら、高耶の服を全て払い取ってしまった。抵抗する
間もなかった。それよりもどうも嫌な予感がして、高耶の体に緊張が走る。
「な、なおえ。まさかと思うけど、今ここでヤるってんじゃ…」
全裸にされた高耶がおずおずと見上げると、
「高耶さんがあんまりケーキの話をするから、私も食欲が刺激されてしまって。
もちろん食べさせてくれますよね、高耶さん」
ガクッ。高耶は一気に体の力が抜けるのがわかった。
(ったく、コイツは〜〜!)
何だかんだと人のせいにしているけれど、直江が今『頂く』気でいるのは、火を
見るより明らかだ。しかもすでに準備万端、ヤる気充分。素直に言わないで、
わざと言葉を選んでくるのがまた憎らしい。
(くっそー、直江の奴っ)
高耶は言いなりになるのが悔しかったので、拒絶の言葉を口にした。
「やだよ。オレは腹減ってねぇもん」
そう言って体を起こすと、辺りに放られた衣服を手に取った。そのまま身につけ
ようとした、その時だった。いきなり視界が回って、とっさに伸ばした手が捉えた
のは、直江の腕だった。
「直江っ、何すんだッ!」
直江は無言のまま高耶を抱え直すと、スタスタと歩き出した。この方向は、
(寝室!)
「オイ、ふざけるなっ。早く下ろせよ」
自由を奪われているので、睨み付けることで抵抗する高耶だったが、そんな
ものどこ吹く風。直江は寝室に入ると、高耶をベッドに下ろした。自由を得て
急いで降りようとする高耶だったが、それよりも早く、直江の手が高耶を押さえ
つけた。
「直江っ」
「ふふ、元気のいいお魚だ。これは食べ甲斐がありそうですよ」
直江は素早くベッドに上がると、高耶の上に覆い被さって、冷たくなってしまっ
た肌に手を伸ばした。
「ヒャッ! 冷てぇっ」
「おおっと。逃げないで。大丈夫、今気持ちよくさせてあげるから」
直江は好色そうな笑みを掃くと、高耶の体を眺め回した。
(!)
「み、見るなよ。なおえっ」
羞恥を覚えて高耶は逃げようとするが、直江の視線は執拗だった。目に見え
る綺麗な部分から普段は隠されている淫らな部分まで、ヘビが巻き付くように
ねっとりと視線が這いずり回る。
「なおえ、やめ……」
目を閉じて、見られていることを見ないことにしたい高耶だったが、そうする事
によってますます意識してしまう。
動悸がもの凄く早くなっている。そんな高耶に気づいているのかいないのか、
直江の視線は容赦なく高耶の中心へと辿り着く。
「何してるんですか? 勃ち始めてますよ」
「!!」
「ふふ、淫らな人だ。まだ触れてあげていないのに」
直江は笑みを浮かべると、目の前にあるものにフ…っと息を吹きかけた。
「あぁ…ん!」
高耶の口から嬌声が上がると同時に、それは力強く勃ち上がった。そのてっぺ
んからは、白い物が伝い始めている。
「どれ。味見をしてみましょうか」
直江は、高耶の太股を大きく広げて抱え上げると、舌を伸ばして高耶の幹を舐め
始めた。ビクン、ビクンと、直江の舌が動くたびに高耶の体が揺れる。
「あぁ…っ、ンンっ、なおえぇっ」
恥ずかしい場所を全て晒している上に、直江にソコを舐められ、羞恥から高耶は
顔を真っ赤にさせた。
「うん。なかなか美味ですよ、高耶さん。でも……、まだ、足りない」
直江はさらに高耶の足を高く持ち上げると、その奥に隠された部分にも舌を伸ば
した。
「…ん、ぐ」
苦しい態勢のなか、敏感な所に轟く熱い舌。高耶は気が狂いそうなほど感じな
がらも、直江のもたらす快楽に身を捩って声を上げた。
「あ、ん、イイ…、イイよぉ………、なおえ……」
「だいぶ煮えてきたようですね。おぉっと裏も見なくては」
直江はそこから顔を上げると、高耶の足を下ろして体を返した。焦れた高耶が
足を折り曲げようとするのを利用して、腰だけを引き上げる。そして割れ目を押し
広げて、熟れ具合を点検した。
「あっ、ふ…」
ツ…、と直江の舌がそこにそよぐのを感じて、高耶は震えた。
「なおえっ、なおえぇ。じらす、なよ……」
すっかりその気になった高耶が腰を揺らしてせがむのを見た直江は、満足そう
な笑みを浮かべた。
「高耶さん。では、食べさせてくれるんですか?」
「な、に……」
「ですから、高耶さんを食べてもいいですか?」
「!!」
「ねぇ高耶さん…。私はもう我慢出来ないですよ」
そう言うと直江は、左手を前に回して高耶のものを撫で擦った。高耶のそれは、
先走りの雫ですでに濡れている。
「あぁっ!」
「ふふ、この肌触り。たまらないですね」
直江は手に収まったそれを丁寧に揉みこみながら、高耶からの反応を待った。
(うぅっ、うぅ…っ。クソッ、直江のやつ!)
直江は、どうしても高耶からの言葉を聞きたいらしい。決定打を与えない焦ら
した愛撫は、高耶を苦しめるだけだった。
「あぁん!」
括れを弄られて、高耶の口から高い嬌声が上がった。何とも言い難い快感が
体中を駆け巡って、どうにかなりそうだ。しかも、直江の愛撫は執拗だ。高耶
が感じたポイントを、これでもかというぐらい刺激してくる。
(あ…。もうダ・メ……)
さんざん弄られて、さすがにもう限界だ。先端に溜まったものを吐き出したくて
たまらない。しかし、直江の望む言葉を口に出さなければ、その先の快楽を得
ることは出来ない。
高耶は仕方なく、その先をせがむ言葉を口にした。もうこれ以上は、本当に耐え
られない!
「いい、よぉ…。食べればいいだろっ、クソッ。そのかわり、残したら許さねぇか
らなっ」
「もちろんです」
直江はにっこりと微笑むと、高耶の秘口に煮えた肉棒を押し込んだ。
高耶のソコは、待ち侘びていただけあってなんなく男を呑み込む。
「あぁ……ン! ぁ…ん、なお…、もっと……」
「イイですよ、高耶さん。もっと、締め付けて」
高耶に請われるまま腰を突き入れると、高耶の口から歓喜の声が上がった。
「なおえ、なおえぇ。もっと……つよく」
「あなたが望むだけ、食べて上げますよ」
「あぁ、……イイっ」
まだ陽も高いというのに、淫らな声が寝室にこだました。




「うー、サイアク」
ベッドに体を沈めたまま、高耶は呟いた。辺りはすっかり暗くなってしまっている。
あれからさんざん『食べられて』しまった高耶だ。その結果、節々が痛くなってし
まって、体を動かすのが困難になってしまった。しかも、すっかりケーキも買い損
ねてしまって、高耶にとってはこちらが悔しくてたまらなかった。
「くそー、直江の奴っ。さんざんヤりやがって………腹減ったよ、チクショウ」
自分も悦んでいたくせに直江を一方的に非難して、高耶は拗ねたように瞳を閉じ
た。そうして体を休ませていると、浮かんでくるのは美味しそうに飾り付けられた
苺のショートケーキだった。
(あぁ……。ケーキ食いてぇ)
性欲は満たされても食欲は当然満たされていない。高耶は未練がましく、あれ
これと美味しそうなケーキを思い浮かべた。
(せっかくの15%オフ……)
トントン。
高耶が涙に暮れていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「高耶さん、起きましたか?」
ドアの開く音と共に、満足そうな顔をした直江が入ってきた。高耶とは対照的に
すっかり身支度を整えて、少しの乱れも余韻も見られなかった。高耶はそんな
直江をジロリ、と睨むと、
「とっくに起きてるって。それよりも何か持ってこいよ。腹減って、オレは機嫌が
悪いんだからなっ」
刺々しく言ったのだが、男には通じなかったようだ。直江はにこりと笑うと、背後
から白い大きな箱を取り出した。
「え? これって」
「ケーキ、買ってきましたよ、高耶さん。食べて下さい」
(え……?)
言われるまま、いそいそと箱を広げる高耶。
まさか、直江がケーキを買ってくるとは思わなかった。
(何だよ、直江の奴。気が利くじゃねぇか。ケーキ買ってくるなんてよ)
自然と嬉しそうになる高耶の表情に、直江の顔も綻んだ。
(良かった。喜んでもらえたようだ。あんなにケーキを食べたがっていた高耶さん
だ。買ってくれば、絶対喜んでくれると思っていた)
ニコニコと見守る直江の前で、高耶が勢いよく箱を開く。その目の前に現れたの
は……。
「どうですか、高耶さん。美味しそうでしょう?」
「……」
「……高耶さん? どうしました?」
思っていた反応を得られない直江は、不審に思って高耶をのぞき込んだ。と、
突然高耶が笑い出したので、直江は驚いた。
「高耶さん……?」
「アハハハッ、いや、サイコーッ! お前って! いくつ買ってきたんだよ、ケーキ」
「え? 10個ですが」
きょとんとする直江に、
「ばぁか、10コも誰が食べんだよ」
「え? 高耶さ…」
「アホっ。オレを太らせる気か」
「私はどんな高耶さんでも好きですよ」
即座に答える直江に、今度は高耶が目を丸くした。
「……そいつは、どうも。でも、オレは太るのは御免だからな。けど、折角買って
きてくれたんだから、こいつは全部食う。その代わり、」
高耶はニッと笑うと、直江を引き寄せた。
「また、食べてくれるんだろう、直江」
「あなたがそんな事を言うなんて……」
「嬉しいくせに」
「責任は取ってもらいますよ」
二人は至近距離で瞳を交わすと、そのままデザートタイムへとなだれ込んだの
だった。 



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