解禁日


静まり返ったリビングに、テレビから流れる音声だけが賑やかだった。いつもだったら、
この時間帯は二人で寛いでいる。今日一日の疲れを互いに労い、夕食を前に他愛
ない事を話しながらテレビを見る。大して面白くない番組でも、二人で見れば楽しかっ
た。お前がいるから。お前と一緒だから。どんな些細な事でも、どんなにつまらない事
でも、お前となら楽しかった。
しかし……、今はどうだろう。
毎週楽しみにしているバラエティ番組だというのに、ちっとも楽しくなんかない。お笑い
タレントのお決まりのズッコケも、今は妙に白々しく感じる。食卓には、すっかり冷めて
しまった夕食が置き去りのままだ。食欲はあった。けれど、一人でなんて食べたくな
かった。
「ったく、いい加減帰ってきやがれっつーの!」
ソファにだらしなく寝そべりながら、出てくるのは相手を非難する言葉ばかりだ。いや、
それに負けず劣らずのため息もこぼれている。
「いったいいつまで待たせるつもりだよッ」
別に待ってなくてもいいのだが、そういう考えには至らないらしい。不機嫌な顔のまま、
ぶつくさ文句を言う事2時間。高耶のイライラは、限界に達しようとしていた。
(んだよっ、直江の奴。今日は早く帰るって言ったくせに)
(嘘ついてんじゃねーよ!)
今日は、高耶にとって待ち望んだ日だった。全てが解禁になる日。―――とは大げさ
だが、しかし今までつましい生活を送っていた高耶にとって、この日をどれだけ待ち望
んでいたかわからない。短期間とはいえ、制御付きの生活にはいい加減ウンザリだっ
た。晴れて自由の身になった暁には、あれもして、これもして…と気張っていたのに、
肝心の直江が帰ってこないのでは話にならない。
高耶が「今日」を楽しみにしていた事は知っていたはずだ。そして、密かに決意してい
たあの事に関しても……。だから直江は何をおいても早くに帰ってこなければならな
いのだ。いや、帰るべきなのだ。それなのに直江ときたら、
『すみません、高耶さん。どうしても抜けられない急な仕事が入りまして……。遅くなり
そうなんです』
そう、申し訳なさそうに電話してきたのが約3時間前。一瞬ムッとした高耶だったが、
わがままをいうほど子供ではない。
「そうか、わかった。待ってるよ」
拗ねていると思われたくなくて、平静を装ってそう返すと受話器の向こう側で直江が
慌てたのがわかった。
『いえ。本当に遅くなりそうなんです。何でしたら……、先に食事を済ませてもらっても
構いませんよ』
「!」
暗黙のうちに交わされた約束を破るのが申し訳ないのか、おずおずと切りだしてきた
直江に高耶は再びムカっ腹を立てた。けれどそれも、なんとか堪える。仕事と言われ
れば仕方ない。
「………そうなのか? じゃあ、腹減ったら先に食ってるよ。…ああ。わかってるって。
だからお前は仕事頑張れよ」
労いの言葉まで付けて電話を切った高耶だったが、一人きりになったとたん唇を尖ら
せた。
(んだよ、直江の奴〜)
それでも、直江がいつ帰ってきてもいいように夕飯の仕度を済ませると、高耶はソファ
に寝そべってテレビを点けた。それが2時間前の事だった。
「なーにが急な仕事が入って、だ。オレと仕事のどっちが大事だってぇんだよ。フン!」
かろうじて1時間は文句無しで待ってやった高耶だったが、それ以降のイジケ度は時
間に比例してうなぎ昇りだ。よりにもよって、何もこんな時に遅くならなくてもいいでは
ないか。しかも1、2時間では足らず3時間も待たせて! 
フツフツと怒りが沸き起こってくる。
だが、そんな高耶を誰が咎められようか。
今日は特別なのだ。そこのところをわかってもらいたい。
「…っ」
ふいに感じた寒さに、高耶はソファの上で丸まった。直江のいない空間はやけに広く、
そして酷く寒かった。そして、いつもならすぐに与えられるぬくもりが今は、無い。
それが妙に寂しくて悲しくて、高耶はソファの上で小さく震え出した。
(なおえ…)
直江の優しい顔を思いだすと、胸がキュンと痛んだ。
(あ、オレ……)
自分の中の変化が恥ずかしくて照れ臭くて、高耶はうっすらと頬を赤らめながら唇を
噛んだ。けれど、胸の奥の甘酸っぱさは消えるどころか深まっていくばかり……。
認めたくはなかったが、今、高耶はとても男を恋しがっていた。
あの広い胸で抱いて欲しい。あの大きな手のひらで優しくなぜて欲しい。あの深い、
しびれる声で囁いて欲しい。あなたが好きだ。愛している、と。
思えば思うほど切なくなって、高耶はますます唇を強く噛んだ。
早く会いたい。早くお前の声が聞きたい。早くお前の……ぬくもりが欲しい。
切実とはこういう想いなのだろうか。
気が付いたら、高耶は自分で自分のものを愛撫していた。直江を想っているうちに
気持ちが昂揚して、どうにもならないところまで来ていた。
ジッパーを下げて熱く形を変えたものを取りだすと、手のひらに収まったそれを強弱を
つけて扱く。いつも直江にしてもらっていることを思い出しながら愛撫を繰り返すと、ま
すますそれが大きくなったのがわかった。
「ァ……は…っ。なお、……ぇ…」
無機質なテレビの音に混じって、高耶の切ない声が部屋に響く。場違いとも取れるそ
の声に、自分がしていることを意識した高耶は、顔を赤らめながらもその手の動きを
止める事が出来ない。
顔が熱い。体も熱い。嬲っている前も、男を待ち望んでいる後ろも熱くてたまらない…!
この疼きを鎮める事が出来るのはあの男だけだ。オレが欲する以上の強さで求めて
くる、あの男だけ……。
早く帰ってこい直江。早く帰ってその腕に強く抱いて欲しい。
今日はあなただけ見ている。けっして離さない、と。何度も何度もおかしくなるくらい耳に
囁いて、そしてオレを―――思うさま、犯して欲しい!
「……ッ!」
そう思った瞬間、手の中のそれが勢いよく弾けた。長く掠れた声を上げながら、高耶の
体はソファの上に沈む。潤んだ瞳には何も映っていない。ただ、赤く色づいた唇だけが、
満足そうに笑みを刷いていた。
饐えた匂いが鼻をついた。けれどだるくて、体を動かす事が出来ない。
(なおえ―――…)



心地よい疲労感に身を委ねてから、どれくらい経ったであろうか。ふいに人の気配を感じ
て、高耶は息を呑んだ。
まさか―――。
軽い驚愕とともにゆっくりと体を起こした高耶の前に、やはりこちらも驚いた顔をした直
江が茫然と立っていた。
「高耶、さん……?」
「なお、え…」
「その恰好はいったい……」
直江が高耶を凝視している。それも無理無いだろう。高耶ときたら、赤い顔をしたまま
しどけなく横になっていたのだから。良く見れば両の手は白く汚れているし、僅かに下
がったジーンズからは悩ましい腰の曲線が見え隠れしている。そしてその下には――、
直江がいつも可愛がっている高耶の×××がちょんと顔を覗かせていた。
「高耶さん…。お待たせ、させてしまったみたいですね」
ゴクリ、と唾を呑み込みながら言うと、
「…バカ」
そう言いながらも手を伸ばす高耶に直江は近づくと、今だ興奮冷めやらない体を抱き
しめてやった。とたんにクタッと身を預けてきた高耶に、愛しさが募る。
「夕飯は食べたの?」
背中をさすりながら問いかけると、高耶が甘えた声を出した。
「まだ…」
「食べていらっしゃれば良かったのに」
「……別にいいだろ」
お前を待っていたんだ、と言外に言う高耶にキスを一つ。
「今夜は、もう食べられないかもしれませんね」
「なんで?」
期待に目を輝かせる高耶に破顔しながら、直江はその耳に熱く囁いた。
「今日は、もう離さない」



「ア、……んっ! や、…イイっ、イイよぉ…、なぉ……っ!」
四つん這いの状態で後ろから貫かれた高耶は、男の腰の動きに合わせて高い嬌声
を上げた。久しぶりのセックス。そして久しぶりに受け入れた男の楔は、常以上に昂ぶ
っていて、高耶を内側から狂わせた。
なんて凄い圧迫感。無理矢理開かされたそこが、男の動きに合わせて悲鳴を上げる。
けれどもそれは痛みのためではなく、受け入れる喜びからくるものだった。
男の先走りの液体が、高耶の恥穴をしとどに濡らす。それが潤滑油となって、男の出
入りを助けていた。
グッ、グッと腰を押し進められると、擦れた内側が快感を訴えた。直江の男根が、高耶
のイイところに当たっている。後ろの刺激だけで勃ち上がってしまった前が、切ない涙
をこぼしていた。
「んんっ、んんん……!」
これ以上あられもない声を出さないべく、高耶は奥歯を強く噛みしめて声を殺すが、前
に回った手のひらがその行為を阻む。ギュッと握られるとそれだけで口が開いてしまう。
次いでやわやわと揉まれると、たちまちあえかな声がその口から漏れた。
「あ、ンッ!あっ…あ! …イ……っ」
「気持ちいい? 高耶さん」
汗の浮かんだ背中にキツく吸引を施してやると、高耶が息を呑んだのがわかった。そ
れと同時に縮こまった蕾が、直江の楔を強く絞り込む。その締め付けに荒い息を吐くと、
その息だけでも感じたらしく高耶の前がピクンと反応した。
「こんなに、大きくして……。もう出したいでしょう?」
堅くなっている棒をくすぐりながら言うと、高耶は汗に濡れた黒髪をパサパサと振った。
「嘘。こんなにしておいて。今すぐにでも出したいくせに」
漏れた液を確かめるように先端に指を這わせると、期待からか高耶が小さく声を漏ら
した。
「……ぅ…」
「体は正直ですね、高耶さん」
言いざま今度は胸に手を這わせると、高耶の背が綺麗に撓った。
「こちらもこんなに堅くして……。嬉しいですよ、高耶さん。私に感じてくれているんです
ね」
プツンと立ち上がっている乳首を指で押しつぶすと、高耶が逃げるように体を動かした。
「や、め……!」
「そんなに感じる? 感じ過ぎて嫌になった?」
「なおえっ!」
「言って。死にそうなくらいイイから、『もっとやって』って。そうしたらあなたの全てに最
高級の愛撫を与えてあげる」
「……ッ!」
「高耶さん……。私を待ちきれなかったんでしょう? 素直になっていいんですよ。恥ず
かしい事なんかじゃないんですから。寧ろ、強請られると私は凄く嬉しい……」
語尾をわざと囁くように言うと、手の中の高耶がピクンと震えた。
「もっと素直になりなさい、高耶さん。そうしたら、あなただけ気持ちよくしてあげる。『ココ』
がカラカラに干からびるまで、いつまでも撫で擦ってあげる。好きでしょう? 手でされる
の」
わざと淫猥に言うと、高耶がたまらないという風に頭を振った。直江を銜えている部分は、
興奮のためか忙しく収縮している。それに我慢できなくなったのは、直江の方だった。
「……!」
物も言わず、直江が手の動きを再開した。再び股間に下りた右手が、高耶の最も弱い
部分に刺激を送り込む。親指と人差し指で棒を扱き、残りの指で濡れた袋を潰すと、高
耶は身も世も無く感じて、ひっきりなしに嬌声を上げながら本日2度目の欲望を放った。
「アァ―――……」
かくんと腕が折れて、上半身をシーツに埋める。腰だけを淫らに突き出した恰好で、
高耶は男の太い楔を呑み込んでいる。その入り口が絶頂の余韻でピクピクと痙攣し
ているのが、男からは丸見えだった。
(なんて、ヒワイな…)
しかし、そんな事は間違っても口には出さない。言ったら最後、高耶は二度と触らせて
くれなくなるだろう。
高耶も知らない、男だけが見ることが出来るその部分。その可愛らしいお口が、男の欲
望を一生懸命頬張っているのを、知ることが出来るのは自分だけでいい。
いやらしいくらい足を開いて男の欲望を銜える高耶は、そこら辺の娼婦なんて目じゃ
ない。とろんととろけた瞳も、熟れて赤くなった唇も、愛撫に染められてピンクに染まっ
たそこここも、どれも極上だ。何よりも、誰よりも愛しい高耶の中に入っているというだ
けでたまらなく、それだけでもイッてしまいそうになった。
高耶の中に突き入れている楔は、かなりの質量を保っている。射精したばかりの高耶
にとって、それを銜えていることははさぞかし辛いことだろう。
直江は今だ勃起したままの楔をそろりと動かした。
「あッ…ん……」
半ば意識を飛ばしていた高耶が、鼻の抜けるような声を漏らした。それに笑んで今度
はズンと突き上げてやると、今度は明らかな嬌声を上げた。
「あぁん…!」
「可愛い高耶さん。その淫らなお口で、俺のミルクを絞りとって」
直江は高耶の腰を鷲掴むと、射精すべくその腰を高耶に打ちつけた。
 



「ァ…」
直江が高耶の中から楔を抜き取ると、高耶の中から白いものが溢れてきた。直江が
先ほど注ぎこんだ、直江の精液だった。シーツに投げ出した高耶の、双丘の狭間を白
い物が伝い落ちていく。いつ見ても淫靡で、そして艶めかしい姿だった。
高耶はあれきれ意識を飛ばしてしまっている。久しぶりのセックスで、体力を使い果た
してしまったらしい。それも無理ないだろう。高耶はこのところずっと、根詰めて試験勉
強をしていたのだから。
「お疲れさま。高耶さん」
涙に濡れた目じりにキスを落とすが、ピクとも動かない体に少々やり過ぎたか、とも思う。
しかし後悔はしていない。
「今はゆっくり眠って、高耶さん」
男の囁きが聞えたのかどうか、高耶の口元が僅かに緩んだ。それを見た直江も、小さく
微笑した。
―――それにしても。
と、直江は思った。
(棚からぼた餅だったな)
高耶がこんなにも乱れてくれるなんて。
新しい発見だった。
高耶が何を決意していたのかはわからないが、今夜の乱れ具合から、なんとなくわかる
気がする直江だった。
次からは、高耶がノリ気な時はくれぐれも遅くならないように気をつけよう。
そう思う直江だった。



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