小悪魔ラプソディー


直江が帰ってきたのは、午後9時過ぎだった。普段なら7時には帰ってきている直江
だったが、急ぎの仕事があるとかで今週頭から残業をしているのだ。どんな仕事をして
いるのかはわからないが、普段よりも多く働いている分体は疲れているだろう。それで
も、高耶の前では笑顔を絶やさない直江に、高耶は頭が下がる思いだった。
しかし、週も後半となればさすがに疲労も濃くなる。直江は始終和やかにはしていたが、
夕食もそこそこに風呂に入ると、高耶を構うことなく就寝してしまった。
「疲れてるんだな…」
もう少しだべってもいいなぁって思っていた高耶は、少しだけ寂しかった。
直江がさっさと寝てしまうなんて、普段ならありえない。高耶が眠るのを見届けてから
寝入るのが、日課と化していたのに。
でも、仕方がない。
直江が疲れている事は見ればわかったし、忙しいのは今だけの事なのだから。
急ぎの仕事さえ終われば、また直江はいつもの直江に戻る。
高耶を寂しがらせる事もなく、楽しくも充実した生活に戻る。
だからそれまでは、良妻のごとく温かく見守ってやろうではないか。
そう思って高耶は微笑んだ。
…………訳がないっ。
いや、笑ってはいるが、「微笑んだ」という表現とはあまりにも遠い笑い方だった。
「ふっふっふ…」
高耶は、不気味な笑みを浮かべた。
これはチャンスだ。
いつもいつもいっつも!人の寝こみを襲う性欲魔人・直江信綱に、今こそ仕返しをする
いいチャンスだ!
直江という男は本当に自己チューな男で、高耶がどんなに疲れて爆睡している時でも、
自分がヤリたい時なら寝込みを襲うこともいとわない。布団を剥ぎ取り、パジャマを剥ぎ
取り、アレとかソレとか、ぐちゅぐちゅべろべろと、想像するだけでも恥ずかしい擬音の
連続で高耶を攻め、涙ながらに「やめてくれ…」と訴える高耶に自慢のマグナムを突き
たてるのだ。嫌だと言っても聞きいれてもらえず、必ず完遂する。酷い時なんか、目が
覚めた時には既に「入っていた」時もあった。なんか気持ちイイなぁなんて……い、いや、
なんか苦しいな、と思っていたら、足の間に直江の体が挟まっていて、その下半身はと
いうと高耶の狭間に割り込んでいたのだ。そのままぐるぐるぬちょぬちょガンガンとヤら
れて朝を迎えた日の何て多いことか。今思いだしても涙がちょちょぎれる。「ああいうの
は止めろ」と、何度も口をすっぱくして言った。けれど「すみません。でも、どうしてもあな
たが欲しかったんです…」と三点リーダー付きで言われると弱いというか…。それに、
同意はしてなくても直江と繋がるのは嫌いじゃない。だからいつも有耶無耶になってし
まって…。
「オレも好きなんだから、仕方ないか」
なんて諦めのよい所も見せたりしたが…。
でも、やっぱり、よくよく考えてみると、これでいいのだろうか、仰木高耶!?
相手が好きだからってだけで、全てを許してしまっていいのだろうか。いや、良くないっ。
たまにはビシッと言ってやる事も大切だ。自分では気がつかない事なんて、この世には
溢れているのだから。
そんな訳で、今、高耶は明かりが消えた寝室に忍びこんでいた。
直江にある事をするのが目的だった。
そろっとドアを開けて、うす暗い部屋の中を見渡すと、ベッドの上に横たわっている直江
がいた。
寝相がいい直江は、当然のごとく布団が乱れていない。アレの時は、そこら辺に散らか
すくせに。
高耶はそろり、と近づくと、静かな寝息を立てている直江に近寄った。そうしてそうっと顔
の上に手をかざしてみるが、直江が起きる気配はなかった。
「よしよし。良く寝てる」
念のために、と味噌汁の中に催眠誘発剤を溶かしておいて正解だった。疲労もあいまっ
て、そう簡単には起きないだろう。
高耶は直江の足元に移動すると、下半身の部分の布団をそっと捲り上げた。寒くないよ
うに、と空調は強めにしている。高耶は直江が起きる気配が無いのを確かめながら、今度
はパジャマのズボンに手を掛けた。
「…っ」
直江と違ってこういう経験が少ない高耶には、勇気がいる作業だった。それでも、今回の
チャンスを逃す訳にはいかなかい。というか、正直なところ、直江の反応が見たくて仕方
ないのだ。果たして寝込みを襲われた直江は、高耶のように乱れるのだろうか。意識が
あるのと無いのとでは違いが出てくるだろう。しかも夢うつつ状態とあれば、素の部分が
出てくるはずだ。その時に見せる直江の痴態を抑えておけば、もしもの時に恐喝する事が
出来るという寸法だった。
「ふっふっふ、見てろよ直江」
直江の股間を前に、高耶は人の悪い笑みを浮かべた。あまり言いたくはないが、変質者
に見えないこともない。しかしそんな事は構わない高耶は、ルームランプを弱くつけると、
「いざ!」と直江のズボンに手を伸ばした。
こういう事に<力>は使いたくなかったが、意識の無い巨体を持ち上げるのは至難の技
だ。
高耶は直江の下半身だけを軽く浮かせると、直江のズボンをそうっとくるぶしまで下げた。
なかなかに恥ずかしい姿である。高耶は僅かに頬を赤らめながら、今はふにゃふにゃの
ソレをわし掴んで両手で扱き出した。裏筋や括れをしきりに弄ってみると、直江の男は僅
かな反応をみせた。ふと、気になって直江を伺い見るが、直江は相変わらず静かな寝息
を立てている。睡眠誘発剤が効いているのだろうか。普段の彼なら、ここまでされる前に
必ずと言っていいほど起きそうなものだが…。
高耶は「薬が効いてるんだな」と納得すると、更なる愛撫を直江に加えていった。
持ち上げて、汁を垂らし始めた男を口に銜える。普段なら恥ずかしがってしない行為だっ
たが、直江が見てないというだけで大胆になれる。高耶は直江の「男」を愛している自分
に酔いながら、直江の分身をくまなく攻めたてた。
「……っ」
と、直江が腰をよじり始めた。ハッとして顔を上げてみれば、直江が僅かに眉を寄せてい
る。上半身の部分に、下半身の分まで布団をかけられている直江だ。重みによる苦しさも
あるのかもしれない。高耶は体を起こすと、直江の上から掛け布団を完全に剥ぎ取った。
寒さから起きてしまう可能性も無きにあらずだったが、その前に体を温めてしまえば大丈
夫かもしれない。そう思った高耶は、直江の体温を上げるべくペニスへの愛撫を濃厚なも
のへと変えていった。
「…ぅ……」
直江が小さく呻いた。足をそろりと動かし、逃げを打つように上半身を軽く捻る。直江の男
と言えば高耶の口の中で硬度を増し、銜えるのが辛いぐらいになっている。
(もう少し…)
高耶はグッとペニスを深く銜えこむと、仕上げとばかりに強く吸った。
「…ハ……ッ」
直江がシーツを足で蹴った。と、同時に限界に達したのか、高耶の中に精液を発射させて
いた。
「ハ…、…ぁ…ッ」
ごくり…。
高耶は、直江の精液を戸惑うことなく呑んだ。
何度呑んでも慣れない味ではあったが、直江も高耶のを呑んでるのだ。高耶も倣うように
全て嚥下した。
「……っ」
と、ここで、イッた直江が激しく胸を上下させながら、ゆっくりと瞼を開いた。うつろに室内に
目を彷徨わせ、そしてふいに視界の中に入ってきた高耶の姿にハッとしたように目を覚ま
した。
「……高耶さん…」
(?)
直江はすぐに異変に気が付いた。
(なんだ、息が…)
どうしたというのだろう。この動悸は。
全力失踪でもいたかのように汗をかき、そして荒い自分の呼吸に「?」と思った。
「わたしは、いったい…」
「目、覚めたか」
高耶が電気をつけた。パッと明るくなる部屋に、直江がまぶしそうに目を細めた。
「! 高耶さん…」
目を刺す明かりに目を細めながら、むくり、と起きあがった直江は、ギョッとしたように自分
の有様を見た。
「な、な…っ」
直江が驚くのも無理はなかった。
煌々と照らしだされた電気の下で、自分の下半身が剥き出しにされていたのだから。
「た、高耶さん…っ!」
直江は慌てふためきながら、自分のパジャマを探した。
下半身だけを晒している姿は、あまりにも恥ずかしい。早く隠してしまいたいと必死で探す
と、パジャマと下着が床に落ちているのが目に入った。
あった。取ろう、として身をよじった途端、直江がギクリ、と肩を揺らした。
内股が濡れた感触に、自分の股間がてらてらに濡れている事を知ったのだ。そして先ほ
どから漂っているこの匂いは…。
「……高耶さん。あなたという人は…っ」
パジャマを取るのを諦めて、ハァ、とため息をつく直江。濡れた前髪をかきあげる仕草は
色っぽいものがあったが、下半身だけを剥き出した姿ではカッコがつかない。それでも高
耶のように騒いだり、流されたりしないのはさすがといったところだろう。
「あなた、私の寝込みを襲ったんですか?」
あり得ない、と苦々しく尋ねる直江に、高耶はどこ吹く風。
「フン。それがどうした」
「どうしたって…」
ワナワナと震える直江に、高耶は内心ほくそ笑んでいた。
直江を動揺させたのが嬉しくて仕方ないのだ。
「何怒ってんだよ。いつもお前がオレにやってることだろ? 文句言われる筋合はない
ぜ」
「それとこれとは…」
違うとは言いきれない。確かに高耶の言うとおりなのだから。
でも、あの高耶が寝込みを襲う訳がない、と心のどこかで決めつけていた直江にとって、
今回の事は衝撃が大きかった。
「はぁ…」
とため息をつきながらベッドに倒れてしまった直江に、調子に乗った高耶が馬乗りになっ
た。直江は下半身を剥き出しにしているのだから、ちょっと見た目ヤバイ感じだ。
射精した事と真夜中の“チン騒動”で疲れてしまった直江は、高耶を窘めた。
「こら、高耶さん。どきなさい」
だが、高耶はどことしないどころか、目を輝かせながら聞いてきた。
「どうだった? 直江」
ウキウキと嬉しさを隠しきれないといった高耶に、直江の声が剣呑を帯びたものになる。
「何がです?」
「だからぁ。気持ち良かったかって、聞いてるんだよ。なぁ、どうだった?」
自分の技巧はどうだった? と無邪気に聞いてくる高耶に、直江は目眩を感じていた。
いつもならフェラすら恥ずかしがるくせに、なんだろう、今日の高耶は。そんなに自分に
意表をつかせたのが嬉しかったのだろうか。
なぁなぁ、と、しつこく聞いてくる高耶に直江は少しだけ気分を害した。寝込みを襲われた
というだけでプライドを傷つけられたというのに、意識が無い間に受けた愛撫でイッて「気
持ち良かったです」って答えるのはなんだか癪だった。それは、男のプライドが許さない。
いくら高耶が相手と言えど。
(……!)
が、そこまで考えたところで直江はハッとした。
高耶も、いつも同じ気持ちだったのだろうか、と。
(…参ったな。実際に経験してみて、初めて相手の気持ちがわかるなんて)
嬉しそうな高耶を見ながら、我が身を振り返ってしまう直江である。
いつも自分は、あんな顔で高耶を見ていたのだろうか。屈辱を味わっている高耶に対し
て、なんて酷い…。しかも、直江が夜這いをかける場合は、当然フェラだけでは終わらな
い。高耶の後ろを指で穿ったり、舌で舐めたり、果ては自分のペニスで串刺しにしたりし
て思う様自分の欲望をぶつける。高耶はその途中で起きる場合もあったが、腰を打ちつ
けている段階になって漸く起きる場合もある。そして、自分が寝ている間にそんな状態
にされてしまった事に、高耶は決まって直江を責めるのだった。
(結構嫌なものだな)
高耶を上に乗せたまま、いかに自分が嫌な男であったかを痛感させらせる直江である。
よくもまあ、高耶は今まで付き合ってくれたものだ。自分が反対の立場だったら、果たし
て相手を許したものか。
と、日頃の自分の行いを省みざるをえない直江であったが…、
(嫌な男、上等!)
直江は不意にむくり、と起きあがると、高耶の腕を掴んでゴロン、とベッドに転がした。
「え?」
突然の直江の行為に、高耶の反応が遅れた。それをいいことに直江は高耶の上に覆い
被さると、ポカンと口を開けたままの高耶のパジャマに手を掛けた。
「えっ!? ちょ、ちょっと待てよっ!」
明らかに衣類を剥こうとしている直江に、高耶が慌てたような声を出した。
直江をやりこめる為に寝込みを襲ったというのに、この展開は…。
「な、直江? 何して…」
「何って、決まってるじゃないですか。セックスするんですよ」
(ヒィィッ!!)
高耶の心の声である。
「って、ちょっと待てよ! おまっ、オレの気持ちがわかったんだろ!? それなのによく
こんな…」
「えぇ。わかりました。寝込みを襲われる事がどんなに屈辱的で恥ずかしいかを。自分の
意識が無い時に、恥ずかしいモノを見られいじられる羞恥はいたたまれないものがありま
した。寝ているのにイッてしまった事も、凄く恥ずかしかったです」
「……っ」
身も蓋もない直江の言い方に、高耶が頬を染めた。
「でも―――、」
「で、でも?」
「私はそれだけの男じゃないから」
(!?)
「って、開き直りか〜〜!」
「このまま、あなたを抱きます」
「はぁっ!? な、何ィ…っ?」
「今度は一緒に気持ちよくなりましょう。ねっ」
そう言って、首筋に吸いついてくる直江。ふいに香った男の体臭に、高耶はクラクラして
しまう。
(く、そ…)
流されてたまるかっ! そう思うのに、直江の唇が肌を滑る感触に、ゾクゾクと体が震え
てしまう。考えてみれば久しぶりの行為になるのだ。知らず直江に飢えていた高耶の体
は、いとも簡単に敗北宣言をしてしまう。
「…あ、…ふ」
パジャマを捲り上げられ、外気に晒された乳首が恥ずかしそうに震えている。それを直江
は食みながら、左手をズボンの中に突っ込んだ。
「!」
「おや。もう感じているじゃないですか」
直江が楽しそうに笑いながら、高耶のペニスを扱き始める。その揶揄したような、そして
見通されたような言い方にも感じてしまい、高耶が大きく身をよじった。
直江はきっと気づいている。
自分が直江を高めている間に、自らのものも大きくさせていた事に。
「やぁ…っ」
涙目になる高耶に笑んで、直江が高耶の先端を執拗に弄くり始めた。
「!」
ソコは、高耶の弱いところだ。案の定、直江を跳ね除けようと乱暴に手を突き出すが、叱
るように先端を引っ掻くと、高耶が嬌声を上げて達していた。
「んぁっ! ああぁぁぁ…!」
ズボンの中に手を入れられたまま、高耶は達していた。
中がどうなっているかは外から見えないが、いや、見えない分、表情だけがとろけてい
る様子が猥褻だった。
「…っ」
羞恥から、高耶が唇を噛み締める。直江の手の中に放たれた精液は、下着にも飛び散っ
ている。それが罪の意識を増徴させてて、消え入りたい気分だった。
「も…」
ヤダ、と呟く前に唇を重ね合わせ、高耶の言葉を吸い取る。高耶は嫌がって顔を背けよう
としたが、深く舌を差し入れられてしまってそれは適わなかった。
「ふ、…んっ」
直江のキスは執拗で、高耶がその気になるまで続けられた。
後ろに回った手は高耶の尻の狭間へと伸び、ソコを柔らかく解していく。
「んぅ…っ」
高耶の喉が鳴った。
だが、やめさせようと伸ばされた手は、いつしか直江の背に回っていた。
「高耶さん…」
「ん…、なお…」
「入れていい?」
「!」
直球で聞いてくる直江に、高耶の頬に赤みが差す。しかし、いい加減じらされた体はより
強い刺激を求めていて…。
高耶は涙で潤んだ瞳を伏せながら、コク、と小さく肯いた。
「高耶さん、いい子ですね…」
直江が低く囁きながら、高耶のズボンを引きずり落とした。そうして両足を抱え上げると、
露わになった恥穴に刀身をあてがった。
「ん…っ」
直江が高耶の中に入っていく。
自然、力が入る体を宥めながら、直江はゆっくりと傷つけないようにと入っていく。
その労りと優しさを体全体で感じ取って、高耶はうっとりと、瞳を閉じた。




パタン、とドアの閉まる音で、高耶は目を覚ました。
いつのまにか、寝入ってしまっていたらしい。体には毛布が掛けられていた。
辺りを見まわすと、直江の姿が無かった。
シャワーでも浴びに行ったのだろうか。そんな事をぼやっと考えて、再び眠りの世界に
落ちようとしたが、ハッと我に返って高耶は目を開いた。
なんかいいように流されてしまったが、
「こ、これじゃ、いつもと変わりねーじゃねぇかっ!!」
計画では、直江の寝込みを襲って、恥ずかしい姿態を晒した直江をからかってやるつもり
だった。「どうだ、オレの気持ちがわかったか」と、直江に思い知らせてやるつもりだったの
に。…いや、そこまではなんとなく達成出来たのだが、その後がいけなかった。
性欲魔人直江信綱は、その異名(命名:高耶)を取るだけの事がある男だった。舌先三寸
と強引な手管で高耶をソノ気にさせ、セックスに雪崩こませるとは。しかも、あんな事やこん
な事まで! 想像するのも恥ずかしいアレコレを散々されてしまった高耶は、負けたと言っ
ても過言ではないだろう。
「ちっくしょー!! エロ魔人め〜〜!」
雄叫びは、夜の静寂を切り裂いて部屋に響き渡った。
百選練磨の直江と渡り合うには、まだ高耶は若すぎるようだった。



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