この想いが届くように


真っ暗な空に君臨する、輝ける星。

何百年も、何千年も前に放たれた光が「今」をやわらかく照らしている。
ここに辿り着くまでの、その、気の遠くなりそうな時間に、お前は何を見て何を感じて
きたのか。
そして、何を…見届けようとしているのか。

死にゆく、この世界で。


―――お兄ちゃん、手を伸ばすとね、伸ばした分だけその距離が縮まるんだよ。


いつかブランコを漕ぎながら言った、妹の言葉がふいに思いだされる。無邪気に笑う
妹を思いだす度に、あの日掴んだブランコの鎖の感触が甦った。
美弥……。
最後に会ったのはいつだったろうか。
とても寒かったのだけは覚えていた。
(……泣いたりしていないだろうか)
記憶の中で微笑んでいた美弥の顔が、くしゃっと歪んだ。そんな顔をさせているのは、
この自分なのかと思うと胸が痛んだ。
ずっと、ずっと守ってきた妹だ。どんな事があっても、必死に背に庇ってきた。お前がいた
から、自分もそこに存在していられたんだ。
とても、…大事だった。
何物にも代え難いほど。
(お兄ちゃん)
耳に蘇る、妹の声。
握りしめた手の平に、爪が突き刺さる。
「……っ」
遠い記憶を苦く噛みしめながら、高耶は天を仰いだ。

祈るように。
想いが届くように、―――瞳を閉じて。


                                   
                        
「高耶さん、ここにいらしたんですか?
「……!」
背後から、良く聞きなれた低い声がかけられた。暗い闇に浸透するような深い深い声だ
った。しかしその声が辺りに響いたとたん、温かく柔らかい“気”がその場に満ちるのが
高耶にはわかった。
いつの間にか、後ろに男が佇んでいた。いつからそこにいたのか、静かに吃立するその
姿は今さっき来たものではない。とすると、少し前からそこに控えていたのだろうが、高
耶は声をかけられるまで気が付かなかった。
「!」
ふいに、何か暖かいものを肩に掛けられた。高耶は前を向いたままそのぬくもりを手さぐ
り寄せてみる。ナイトガウンだった。後ろに立つ男のものなのか、高耶にはそれは少し
大きかった。
「……」
かすかな体臭に何を感じたのか、高耶はそっと目を伏せた。
「直江」
「…夜は冷えますからね。その恰好では寒いでしょう?」
「……」
言われて初めて高耶は自分の姿を見下ろした。
シャツとジーンズといった、いつもの恰好だ。しかし、まだまだ暑い夜が続くとはいえ、
もう晩夏だ。直江の言う通り夜は結構冷える。長時間外にいればなおさらだ。けれど
高耶は、特に寒さは感じていなかった。むしろ、露を含んだ夜気が肌に心地よいと思っ
ていたところだ。
そう、直江が現れるまでは。
直江の温かい気に触れてしまったからだろうか。急に寒気を感じて、高耶は掛けられた
ナイトガウンを引き寄せると、ブルリと体を震わせた。
「お前が来たら寒くなった」
わざと唇を尖らせて言うと、いつも落ち着いている直江が慌てた素振りを見せた。
「はっ…? な、何でですか?」
直江は「心外です」とばかりに高耶に詰め寄った。一人、薄着のまま外に出ていった
高耶が気になって探しに来たというのに、こんな言い方をされてはたまらない。思わず
情けない顔をしてしまった直江に、高耶はプッと吹き出した。
「ふははははっ!」
「た、高耶さんっ。一体何なんですかっ!」
こっちは真剣だというのに。
笑う高耶が憎らしくなって後ろからぎゅうっと抱きすくめてやると、突然の事に高耶は
驚いて目を丸くした。しばらく「離せっ」「苦しい」「重い」とさんざん喚いた高耶だったが、
直江が一向に力を弛めないので、ややして諦めたようだった。一つため息をつくと、
おとなしく直江の腕の中におさまった。
抱きすくめた高耶の体は、夜気を纏ってひんやりとしていた。それに直江は「みたこと
か」と思う。
直江は高耶の体を懐深く引き寄せると、そのままキツく抱きしめた。
「高耶さん……?」
前に回した手に、高耶のそれが置かれた。冷えた体と違ってとても温かかった。いつも
は恥ずかしがってそういう事は滅多にしない高耶だ。なんとなく気になって、直江は頭
一つ分低い高耶の顔を覗き込んだ。
「……」
高耶は嫌がるように顔を伏せた。けれどやがて直江の胸に後頭部を押しつけると、
クスッと笑みをこぼした。
「……ごめん。さっきの撤回な。やっぱりおまえ、あったかいよ」
「……高耶さん」
頬に手を当てると、高耶は黙って瞳を伏せた。
「………」
「…部屋に、戻りましょうか」
「…………あぁ」




寄り添ったのは、どちらが先だったか。
気が付いたら、唇を交わしあっていた。
抱きしめると高耶はされるがままになっていたが、自ら舌を絡ませてくるところを見る
と、決して嫌がってはいないようだ。いや、むしろ、
望んでいる…?
緩く瞳を伏せて直江を貪る高耶はとても妖艶で、直江の欲望の導火線に火を付けた。
直江は高耶を押し倒すと、その身に纏っている衣服を剥ぎ取った。とたんに露わにな
った肌に、引き寄せられるかのように顔を寄せる。
「んっ…、あぁ………っ」
いきなり分身を口に含まれて、高耶は切なく喘いだ。
今、高耶の足は折り曲げた状態で横に大きく広げられている。しっかりと掴まれた足
は、直江の手によって閉じる事は出来ない。わざと羞恥を煽るかのようなその強引さ
に、当の高耶は顔を真っ赤にして耐えている。その無防備になった足の間を、ぬめる
物体がまるで生きもののように執拗に絡んでいた。
銜えられた場所が熱い。与えられている熱とは明らかに違う何かがせり上がってくる
のを感じて、もどかしいような焦れったさに高耶は全身を支配されていた。
直江は大きな両手で高耶の腰を抱き込むと「彼」を深く口内に取りこんだ。熱い舌で筋
をなぞり上げてやると、高耶が感じて腰を大きく振った。
高耶は何とか男を押しのけようと腕を突っ張ってみた。けれど、体全体で高耶にのしか
かっている直江はビクともしない。そうしているうちにも放っておかれている袋を揉まれ
て、高耶は切なく喘いだ。
「んんっ!」
思わず漏れた高耶の声を心地よく聞きながら、そのまま先端に移動して割れ目を刺激
する。
「ア! んぁっ……っ!」
男の愛撫には容赦が無い。
袋をキツく揉まれながら敏感な先端をなぶられて、あまりの快感に高耶は頭を大きく
振った。
「うっ……ハ…、あ、うぁ……」
意思におかまいなく膨らんだ中心は、切ない涙を流して直江の口内を濡らしている。
直江は熱い滴を舌に感じながら、その淫らな棒を強く吸引した。
「あぁ――っ、な、なお…っ!」
内股が震えた。強い刺激に目が眩む。無我夢中でシーツを鷲掴むと、気づいた直江が
軽く顔を上げて高耶の顔を見た。
潤んだ瞳が直江を縋るように見つめている。その瞳に目を奪われた直江がそれから
いったん口を離すと、高耶は明らかにホッとした表情を見せた。しかし、息をついたの
も束の間、体の奥からじりじりしたものがせり上がってきた高耶は、無意識のうちに腰
を揺らめかせた。外気に晒された先端からは白いものが滲み出してきている。
「…ぅ……」
「どうしました?」
気づいた男は楽しそうにクッと目を細めながら、打ち震えている分身を緩く扱いてやる。
「あぁっ、や、…あッ!」
中心から生じた奇妙な痺れが全身を駆け巡り、高耶は切なく喘ぎながら体を揺すった。
縋るものを求めて直江を引き寄せる。
「高耶さん…」
必死にしがみついてくる高耶に愛しさが募る。
直江は引き寄せられるまま伸び上がり、すっかり乾いてしまった高耶の唇に自分の
それを重ね合わせた。優しく唇をふさいでキスで酔わせようとしたのだが、その行為
は今の高耶にとっては焦れったくて仕方ない。そんな事よりも熱く脈打つ自身を何と
かしてもらいたいたくて、高耶は直江の舌に自分から絡ませると、熱心に吸って先を
促した。
「ふ……、う…ん」
高耶の、甘えるような声が直江の劣情を煽る。直江は高耶の口腔を激しく犯しながら
右手をそろりと動かした。そうして辿り着いた所を擦るように愛撫し、緊張が解けた所で
指を突き入れた。
「んんっ!」
絡ませていた高耶の舌が強張った。まだ早かったのだろう。高耶の眉がギュッと絞ら
れたのを見て、直江は指を引き抜きながら唇を離した。
「すみません。痛かった?」
言いながら今度は前に手を伸ばして、二人の間で蜜を流し続けている杭に指を絡ま
せた。滲み出てきている部分から丹念に滴を掬い取って、今だ堅く閉ざされている部
分に塗りつける。その行為を何度か繰り返した後、直江は再びゆっくり指を捻り込ん
でやった。
「……っ」
高耶の息を呑む音が聞こえたが、今度はどうやら痛みは感じていないらしい。恍惚と
した表情で高耶は瞳を彷徨わせていた。
直江は啄むようなキスを与えながら、高耶の熱い路を突き進んだ。異物を察して縮ま
る襞は熱くうねり、直江の指を締め付けた。
最奥まで到達した直江は、傷つけないように注意しながらゆっくりもう一本指を差し込
んだ。
二本の指で突っついてやると、高耶が大きく胸を反らせた。
「んんっ!!」
直江の長く節ばった指が、高耶の奥を容赦なくさすっている。感じた高耶の前がグンと
大きく張ったが、直江の腹に阻まれて完全に勃ち上がる事は出来ない。高耶は苦しさ
のあまり顔を思いきり振って直江のキスから逃れた。
「なおえ……っ! も、う……っ」
縋りついた腕が震えている。これ以上の愛撫は、高耶にとっては酷だ。
「高耶さん、もう少し…我慢して」
あやすように言うと、高耶が瞳を潤ませながらコクコクと肯いた。
高耶の堅く張った先端からは白い涙が溢れている。直江は顔を近づけると、今一度
すっぽりとそれを銜えこんでやった。そうしてリズムよく吸ったり舐め上げたりしながら、
後ろに入れた指で中を引っ掻き回した。
「はぁっ…! ア、んんっ!!」
ゴツゴツとした節が高耶の敏感な所に当たっている。強すぎる快楽に啜り泣き出した
高耶を見て、直江は指の動きを止めると空いていた親指で、前との間を擦り上げた。
「ひぁ…っ!」
今まで経験したことのない感覚が高耶の腰を襲った。擦られている部分から強い痺れ
が生じて、高耶は逃れようと腰をがむしゃらに振った。しかしそれが却って強い刺激を
送り込む結果になって、高耶は感じるままに嬌声を上げた。
そこは、男なら誰でも感じると言われている場所だ。高耶も例外ではなく、直江の指
に合わせて淫らなダンスを踊った。直江の口内で完全に勃ち上がったものの先端か
らは、止め処無く蜜が溢れ直江の舌を濡らした。
直江は再び指の抜き差しを開始すると、銜えたままほったらかしにしていたそこに歯を
立てた。
「ああっ!」
高耶の体がビクッと痙攣し、次の瞬間極まった高耶の雄から勢いよく蜜が飛び散った。
「あ、……ん、ふ……」
甘い声を上げながら、高耶の体からすうっと力が抜けた。そのままフッと意識が飛び
そうになる高耶の体を俯せにして、すかさずその腰を上げた。解放したばかりの高耶
はすっかり脱力していて、直江のされるがままになっている。
直江は高耶の双丘を割ってすっかり潤んでいる部分を眼前に晒すと、舌を伸ばして入り
口を愛撫した。
「あぅ……、ん…ん」
高耶の体が力無く動き、指が切なくシーツを掻きむしった。先ほどと違ってソフトな舌遣
いに、高耶の腰が焦れる。高耶はうつろになりながら、膝でシーツを掻いた。
高耶の前は解放されたばかりなのに再び勃ち上がり、先端から漏れた滴がシーツに
淡い染みを作った。
「…あ…ふっ、…な…お………」
「……ッ」
高耶の痴態を見続けた直江の我慢も、もう限界だ。
直江は全ての愛撫を止めて高耶の腰を引き寄せると、銜えるものを欲して切なく収縮
する蕾に自分の先端を潜り込ませた。入り口付近で軽く出し入れを繰り返してから、
一気に奥まで押し入る。
「ヒ! あ、あぁ―――んっ!!」
高耶の背が大きく撓った。
「高耶、さんっ、力を抜いて…っ」
直江は耳元に熱く囁きながら、抜き差しを繰り返す。
指よりも数段に太く長い楔が、高耶のそこを中から開く。襞いっぱいに含まされたもの
に容赦なく擦られて、高耶は嬌声を上げながら身悶えた。
「あ…っ、…ふ……ぁ………ヒ、…あぁ………っ」
高耶の体も、もう限界が見えている。
直江は胸に回した右手で高耶の乳首をこねくり回しながら、左手で高耶のものをギュッ
と握り込んだ。
「…っ! なお、えぇ……っ! もう…、やっ……あぁ…!!」
長すぎる悦楽に高耶の意識が朦朧とし始め、感じるまま嬌声が口をついた。いやいや
をするように打ち振られた高耶の髪は汗で湿っていて、パサパサと乾いた音を立てて
いる。直江はそんな高耶の狂態にますます興奮して、自分のものが熱く滾るのを感じ
た。
前と後ろと胸元を同時に犯された高耶の口から、飲み込み切れなかった唾液が伝い
落ちる。
体の中に注ぎこまれる熱い滴と、自分を抱きしめる力強い直江の腕。
グッと奥底を突かれたのを最後に、高耶の意識は途切れた。  




「………さん、高耶さん」
遠くで、自分を呼ぶ声が聞こえる。
(だれ……?)
「…耶さん…。高耶さん……」
この低く、染み渡るような深い声は、
(―――なおえ?)
ふっと、意識が浮上した。うっすらと瞼を開いてみると、直江の心配そうな瞳とぶつかっ
た。
(オレ……)
身動きしようとして出来なくて、何でだろうと思ったら、直江に抱きしめられていた。
「なおえ……」
「大丈夫ですか? 高耶さん。……すみません、少しきつかったみたいですね」
直江の謝罪が何を指しているのかに思い至って、高耶はうっすらと頬を染めた。
「……謝んなくていい」
直江の胸元に顔を埋めてボソッと呟く。そんな高耶が愛しくて、汗で湿った高耶の黒髪
を優しく梳いてやると、腕の中の高耶は気持ち良さそうに目を細めた。
先ほどの激しい情交が嘘のように、今は静かに抱きしめられている。ベッドサイドに置
かれている目覚まし時計の、時を刻む音が耳に心地よい。
そのまま二人は身動き一つせず、互いの肌を味わっていた。―――そして、どれぐらい
してからだろうか、ふいに直江が口を開いた。
「さっき……」
「え?」
男の声に顔を上げた高耶に、直江は微笑むと、
「…いえ。余計な事かもしれませんが、さっき外にいた時、あなたは何を考えていらっ
しゃったのかと思いまして」
高耶が僅かに反応した。が、動揺を見せず、
「―――ああ。別に、大した事じゃない…」
「ですが…」
心配なんです、と直江は言う。あんな寂しい所で一人で佇み、何を考えていたのか。
後ろ姿がやけに儚げに見えて、心が痛んだ。
一人で思いつめないで欲しい。一人で悲しまないで欲しい。一人だと思わないで欲しい。
自分がいる。
自分が傍にいるから、何でも話して欲しい―――。
直江はそう言いたかったのだが、察した高耶にそれとなく制された。
わかっているから、と。
「…………だな」
胸の下でくぐごもった声が聞こえた。
「え? 何ですか?」
聞き逃して問いかけると、高耶はプイと横を向いた。
「…何でもねぇよ」
そんな高耶に思わず失笑する。
「……高耶さんは秘密が多いんですねぇ」
「るせーよ」
ますますムキになる高耶に苦笑しながら髪をなぜてやったら、高耶はしばらく瞳を閉じ
てされるがままになっていた。その姿はまるで猫のように愛らしくて、直江は優しい光
をその瞳に浮かべた。
「それ…、気持ちいい。もっと続けてくれ」
「……えぇ」
擦り寄ってくる熱い存在を全身で感じながら、直江は飽くことなく高耶の髪をなぜ続けた。
こうしていると、世の中の煩わしいこと全てから解放されたかのようだ。
とても静かで、優しい時間。
今はただ、この腕の中にいる人を愛おしむだけ。
(高耶さん……)
愛しさを込めて髪を梳いていてやると、高耶は無言でその頭を預けてきた。直江の懐
深く埋めたその頬に、透明な滴が流れる。
(高耶さん……)
もっと。もっと、預けて。なにもかも。俺に、全てを。
受け止めるから。
あなたの、―――苦しみを。
(だから俺に、全てを打ち明けて)
直江は切なく瞳を揺らすと、高耶の髪に唇を落とした。
直江の腕の中でそのぬくもりを味わっていた高耶は、痛みに耐えるかのように瞳を閉
じた。


―――お兄ちゃん、手を伸ばせばその分だけ距離が縮まるんだよ。

(美弥……)
高耶は腕を伸ばすと、直江の背にしがみついた。



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