きゅうりと高耶さん


≪ブ―――≫
午後12時。
お昼を報せるブザーに、高耶は作業の手を止めた。
今日は日曜日である。朝から仕事に精を出していた高耶は、額に浮かんだ汗を拭った。
高耶は先月から、土木のバイトをしている。土木と言っても所詮はバイト。仕事は簡単な
石材運びが主である。そうでなければ同居している男からも猛反対を食らっていたこと
だろう。軽作業だから、と何度もしつこく食い下がった結果やっと許してもらったバイトだった。
「バイトするならもっと楽な仕事があるでしょう」とは男の弁だが、短時間で高収入を得ら
れる仕事はそう、無い。最初こそヘトヘトに疲れてつい泣き事を口にしていた高耶だった
が、ニ週間もすればすっかり体も慣れ、今では職場の仲間とも打ちとけるほどになっていた。

高耶が働くのは土日だけである。平日もそこそこ暇がある高耶なのだったが、学生の本分
はやはり勉強。おろそかには出来ないという考えと、これ以上男につけいる隙を与えない
ために、土日だけ入っている。
一日労働は日曜だけで、土曜日は午後からの半日勤務となっていた。
仕事の量は半端ではないが、短時間で高収入を得られるのでそんなに苦でもない。バイト
仲間も話せるし、高耶はこのバイトをそこそこ気に入っていた。
だが、そんな職場でもたった一つだけ困った事があるのだった。

それは昼食の時間―――。

いつものように定位置に座った高耶は、テーブルの斜め向かいに置いてある一本のきゅう
りを見つけた。それに今後の展開が読めた高耶は、ハァ…と、ため息を漏らした。
(またかよ……)
この職場は意外な事にオバサンの数も多い。土木作業は男の仕事とばかり思っていたの
で初めこそ驚いた高耶だったが、意識してみれば工事現場にも女性はいるものだ。よくや
ってるよなぁ、と思う一方で、男である自分は女性よりも頑張らなくては、と妙に張り切って
しまう高耶だった。
そんなこんなでお昼時はなかなかの賑わいをみせているのだが、先にも述べた通り高耶
には困っている事があったのだった。
「はーい。貰ってきたよ。食べなっ」
「……」
軽快な声と共に高耶の前に小鉢が置かれた。そこからは数本のきゅうりが顔を覗かせて
いる。同じテーブルのオバサンが、お隣さんから分けて貰ったものだ。
きゅうりは切らないで丸ごと一本漬けたものだった。オバサン曰く、「田舎から送られてきた
きゅうりはコロコロと太っていて、とてもおいしいのよ」だそうだが、しかし高耶は手を出す事
が出来ないでいた。
(…アレを食べろってか? しかも手掴みで)
高耶が一人困惑しているとそれを遠慮と取ったのか、小鉢を置いたオバサンが一本取っ
て高耶の前に突き出した。
「ほら、仰木君。遠慮しないで食べて」
「そうよぉ。若いんだからいっぱい食べなくちゃ」
「野菜もしっかり採らないとダメよぉ」
高耶の心境も知らないで、口々に促してくるオバサン達。仕方なくきゅうりを手にした高耶
は、その太さといい撓りっぷりといい、すっかり言葉を無くしていた。
(うう…、ヤバイ。ヘンな事思いだす)
それは言わずもがな、夜、あの男に促される行為を指していた。恥ずかしくて今まで殆どし
たことはないのだが、時によってはやはり、する。もちろんきゅうりとは全然違うし、食べ物
を見て変な反応をしてしまう自分はどこかおかしいんじゃないか、とも思う。
けれど、
(やっぱり想像しちまう…)
高耶は僅かに頬を染めながら、手にしたきゅうりを一口囓った。




「高耶さん…。上に来て」
甘い口付けと男の手管に堕とされた高耶は、直江の促しに素直に体を起こした。
横になっている直江に覆い被さり、自分から口付けを求める。
「んっ…ふ…」
直江の手が高耶の背中を優しくさする。最高に気持ち良くて目を細めたところで、男の手
が濡れた秘部に潜り込んできた。
「あ……。んん…っ」
クチュクチュと、高耶の秘部を出入りする指。擦られる感触と濡れた音が刺激になって、
高耶をより一層たまらなくさせる。
「んあっ、なおえぇ……」
前の部分が熱い。男の腹部に先走りの精液を塗りつけながら、高耶は我慢出来ないと腰
を揺らした。
「もう? イかせて欲しい?」
鼓膜を擽る甘い囁き。催眠術にでもかかったかのように、高耶はコクコクと肯いた。
もう、退っ引きならない状態まできてる。早く熱を解放したくて、高耶は直江を跨ぎながら
そこを擦り付けた。
「あぁ、んっ。なおえっ、早くッ!」
高耶の限界を知った直江は、入れていた指を中でクイッと折った。すると、ちょうど前立腺
を刺激したのか、高耶が直江に思いきりしがみつきながら達した。
「! アァ――……」
悲鳴が掠れる。一気に力を無くした高耶が、直江の胸の上で忙しなく呼吸を繰りした。
「気持ちよかった? 高耶さん」
零れた涙を掬うように、直江が目許にキスを繰り返す。その唇の感触が凄く優しくて、高耶
は達した解放感も相まって、うっとりと目を瞑った。
(すげー…、気持ちイイ。このまま眠っちまいたい)
しかし、それは高耶の足にあたる直江のものが許さなかった。
高耶を愛撫している頃から兆候はあったのだが、今ではすっかり成長を遂げているそれ。
思わず身じろいだ高耶に、直江は情事特有の深い声で囁いた。
「高耶さん、…いい?」
「!」
その問いに高耶はカッと顔を赤らめた。
直江が言外に、して欲しいと言っている。何も、昼間あんな事があった日に限って! と
無常な日常を恨みたくなる高耶だったが、凄く満たされた高耶が首を横に振れる訳がな
く……。直江の足の間に顔を埋めた高耶は、力強く天を突いているそれを口に銜えた。
「ん、む…」
直江のものは予想以上に大きく、昼間食べたきゅうりの比ではなかった。
(…って、オレ何考えてんだっ)
恥ずかしい事を想像した高耶がますます顔を赤らめると、それを見た直江が口元に密かな
笑みを浮かべた。
「どうしたの? 恥ずかしい? いつもより顔が赤い」
「! べ、別にオレはッ」
「嘘。何でもなくてこんなに興奮している訳がない」
「こ、興奮って…!」
きゅうりと比較はしたけれど、興奮まではしてない! そう言いたかったが、自分の体の事
だ。変化は手に取るようにわかる。背徳的な事を想像したせいか体は信じられないくらい
熱くなっていたし、それよりも先ほど達して満足したところが痛いくらい張りつめている。
けれど自分ではどうしようもなくて……、高耶は瞳を揺らす事で直江に訴えた。
「大丈夫。ちゃんとしてくれたら、次はあなただけを気持ちよくさせてあげる。だから、ね…」
甘い促しに、高耶の思考が侵食される。男に導かれるまま奉仕を続けた高耶は、口の中
で彼の飛沫を味わっていた。
「んっ、む……」
「良かったですよ、高耶さん」
嚥下したところを見計らって声をかけると、高耶が涙で潤んだ瞳で見上げてきた。その瞳
の中に焦れた光が宿っているのに、直江は彼を押し倒して彼が満足するまでそこを吸い
上げてやった。
「あぁ、ん…。なお、や、め……」
口では嫌がってみせるくせに、震える両手がそれを裏切っている。直江の髪に絡められ
た指が彼の髪を強く引いたところで、高耶は今夜二度目の放出を果たしていた。
その頃にはもう高耶の意識も朦朧としていて、きゅうりと直江のブツがどうのこうのといった
事は考えられなくなっていた。
ただ、その後、高耶がますますきゅうりを遠ざけるようになったのは言うまでもない。
それに気づいた直江が何か良からぬ事を思いついたのだが、

それはまた、別の機会にお話しましょう…。



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