真夜中の熱帯魚


月の雫こぼれる中、真白きベールその身に纏い、波にたゆたう。

震える肩に口づけを落とし、もがくその体抱きしめる。

腕の中、響くは愛しい鼓動。

見上げれば、そこに光るは魔性の瞳。


果たして、囚われたのはどちらだったのか……。

 
                            


「ぁ…」
小さな声を漏らして、腕の中の高耶はその身を震わせた。
男の熱い唇が高耶の喉元を擽っていた。時折舌を出してはねっとりと舐め上げられる。
その度に腕の中の獣はブルリと躰を震わせ、感じている事を男に知らしめた。  
男の逞しい両腕が、高耶の足を高く掲げた。窓から差し込んだ淡い月明かりが、二人
の淫らな姿を壁に大きく映し出す。
そこを露わにされて羞恥に縮こまったが、男は遠慮することなく挿入ってくる。
「ゥ……」
身を引き裂かれるかのような痛みだ。しかしそれにじっと耐え、高耶は男の侵入をどこ
までも許した。
体の奥でズズ…と蠢くものに肌を怖気させながら、高耶はその身に男を受け入れてい
く。
ドクドクと熱く力強い脈動が、入れられている部分からリアルに伝わってくる。
息苦しい圧迫感の中、高耶は絞るように呼吸していた。
うっすらと開いた高耶の瞳に、涙が溜まり始める。
「高耶さん、苦しいの?」
問いかけに、高耶は緩く頭を振った。
苦しいからなのか、気持ちいいからなのか、自分でもわからなかった。
ただ自然に、涙が頬を伝い落ちる。
その月光に照らされた白い顔が、男にはやけに儚げに見えた。だから男は、伸ばした
手で高耶の体を掬うように両腕を回すと、抱き上げてその身を自分の上に落とした。
こうする事で、彼をすぐ傍に繋ぎ止めたかったのだ。だが、
「……うあっ」
自分の体重で男を深々と受け入れる事になった高耶は、思わず呻くと後ろに大きく仰け
反った。
なんという衝撃。
太いもので深々と貫かれた高耶は、態勢を整える事が出来ない。全てを男の前に晒
し出すかのような格好になった。その、大きく逸らされた喉に眩暈を覚えた男は、反動
的に高耶に口づけていた。吸われて、ぴくっと震えた腕の中の高耶が、その口から
甘い喘ぎを漏らす。
「高耶さん…。気持ち、いい?」
鼓膜を擽るラジオヴォイス。
いやいやをするかのように振られる頭をなんなく抱き込んで、男は高耶の体をずらし
てやる。
その動きで繋がっている部分が擦れた高耶は、感じ過ぎて涙を零した。
「ぁ……、やぁ…………」
「気持ちいいでしょう? こうすると」
男は高耶の臀部に分厚い手をかけると、体を上下に動かしてそこに快感を送り込む。
ズズ…、ズズ…とそれが出入りを繰り返すたびに、どちらのものかもわからない体液が
辺りを濡らし、感じた高耶はブルリと躰を震わせた。
「ぁ……、あぁ…」
先ほどから一度も触れられていない高耶のそれが、体を動かされる度に震える。
その先端から漏れた雫は、男の腹を汚していた。大きく反り返っているのは、感じて
いるからだ。なのに男は知っていて、わざとそこに触れようとしなかった。
「なぉ……っ! あぁ…ン」
触れて欲しい! と意思表示しても男は動こうとしない。知らん顔して行為を続けて
いる。
「……なお…ッ」
どうしようもなくて焦れた高耶は、自発的に体を揺り動かし快感を得ようとした。だが、
それだけではダメだ。自分でやるとどうしても抵抗があって、最後の一線を越える事
が出来ない。それでも何度か試してみたが、やはり出来ない。後ろだけではイけない
事を知ると、高耶は仕方なく震える両手をそこに伸ばした。が、
「なお…っ!」
その手を難なく封じ込んだ男は、口元にかすかな笑み浮かべた。そのまま腰を突き
上げ、後ろに強い刺激を送り込んでやる。
「ヒッ! あッ。……ん、なおえっ! あ、ん、…ぁ!」
自分でするのとは比べようもない快感の波に襲われて、高耶は男の背に強く爪を
立てた。
何とも言えない痺れるような感覚が縦横無尽に躰を駆け巡り、肌が小さく痙攣する。
すぐに限界に達した高耶は、足をピンと伸ばした状態で爆発したそれを男の腹へと
散らしていた。
荒い呼吸が夜の静寂に木霊する。
高耶は疲れて、くた…と男に凭れかかった。熱い肌が、激しく脈打つ鼓動が、彼が
未だ興奮状態であることを知らせている。
そんな高耶を今一度シーツの上に横たえると、直江は汗に濡れた脚を大きく割ら
せた。抜けそうになる男根に力を込め、弛緩したそこに激しい注挿を繰り返してやる。
「ぁ…! …アァ……ッ」
未だ呼吸が整っていない高耶は、眉根をキツく寄せてその動きに耐えた。震える
手がシーツを掻き乱し、幾重にも皺を作る。
強く擦られる刺激に、一度達したものが勃ち始める。そこからは白いものが止めどなく
溢れ、高耶の下腹部を汚していた。
「やぁ……ぁ! もっ……、……な、お…!」
嫌がっているのは言葉だけだった。何故なら、満足したはずの前もまた大きく反り返っ
ている。
顔を上気させ、目に涙をいっぱい溜め、口から唾液を零して快楽にむせび泣く姿は、
男の劣情をどうしようもなくかきたてた。
(魔物だ…。彼は魔物だ……)
こんなにも狂おしく自分を捕らえて離さない彼は、魔物に違いなかった。
理性なんて、とっくに無い。 彼に囚われ、彼を喜ばせるためだけに俺は腰を振り続
ける。
(だからあなたは、魔物なんだ!)
「!」
その時。悦楽によがり狂う高耶の顔に、一瞬挑発めいた笑みが浮かんだ気がした。
「……!」
腕の中の高耶が、妖しく男を誘う。


―――もっとだ。もっと奥まで来い…。

―――こんなんじゃオレは満足しやしない。

―――激しく腰を使い、オレを陥落させろ! どこまでも深く犯し殺せ!!

―――お前の全てを絞り入れろっ!!

…早くっ、はやくっ……!!


高耶を抱いている男が、ゴクリと息を飲んだ。
動きを止めて高耶を見下ろしてみるが、今のは幻覚だったのか? 腕の中の高耶は、
あえかな吐息を漏らして悶えている。
(今のは一体……)
「なぉ…っ、早くぅっ!」
高耶の、直江を呼ぶ声にハッとした。
動きを止められて焦れた高耶は、シーツを弱々しく掻きむしっている。
睫を濡らす涙や、 流れ落ちる汗が煌めいていて、高耶をより一層婀娜めいて見せて
いた。
(高耶、さん……)
高耶を貫いている男の息も段々荒くなる。全て絞り取られるかのようなキツイ締め付け
に、男は小さなうめき声を漏らす。
「くっ……」
男の端正な顔が悦楽に歪んだ。頭の中が白く霞んでいく。今はもう、どうだっていい。
この獣さえ、満足させられるのであれば。
男は動きを再開した。途端に高耶の顔に満足気な笑みが浮かぶ。
「アッ……ハ……」
「……ッ」
高耶の艶めかしい嬌声を聞きながら、それでも男は思わずにはいられなかった。
快楽に流されているのは、もしかしたら自分の方なのかもしれない、と。
(何にも知らない無垢な少女のような顔して―――)
高耶は、どこまでも男を貪り尽くす。
最後の一滴まで搾り取ろうとするかのようなキツい締め付けで、高耶は男を狂わす。
そう、一見支配しているのは男のように見えて、実のところ、支配しているのは高耶
の方であった。
(魔物だ。彼は魔物なんだ―――)
男は体をぐっと沈めると、ぴくぴく震え始めた高耶のそれを、自分の腹で擦ってやった。
その刺激に感じた高耶は、涙を飛ばしながら一際大きく啼いた。
キュッと窄まる恥穴。互いに互いを奪い尽くすかのような求め合いの末、直江は欲情
の滾りを高耶の中へと絞り込んだ。そして男が自分の中で弾け散った事を感じた高耶
は、自らもその欲望を解放したのだった。




真っ暗な海原の中、泳ぎ疲れた青年は静かに横たわる。その身に気怠い色を、纏わ
せて。
先ほど男を狂わせた魔性めいたものは、その顔にはない。
あるのは、どこまでも安らぎに満ちた寝顔だけだった。

そんな青年を見守る男も、やがて眠りにつく。その身をつなぎ止めるかのように、寄り
添って。
二人を照らすものはもう、何もない。



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