| 胸騒ぎのholiday♪
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立春も過ぎ、春の息吹が感じられる季節になった。 大学から帰ってきた高耶は、郵便受けに白い封筒が入っているのに気がついた。 「あれ? 何だこれ」 ふだん郵便物なんてあまり来ないので珍しいと手に取った高耶は、それが旅行会社からの手紙 と知った。 「直江かな?」 手紙は高耶宛になっている。密かに旅行に行く計画でも立てていたのだろうか。 高耶は直江が帰ってくるまで待っていようかと思ったが、直江が敢えて高耶宛にしたとしたら、 先に帰宅しているだろう高耶を見越してそうしたんだろうと思う。だから高耶は、大した疑問も 抱かず封を切ることにした。 中身を取り出し、ザッと目を通すこと約10秒。 「―――えええぇっ!? ううう嘘だろっ!!?」 高耶は、素っ頓狂な声を上げた。なぜなら、その手紙は「選べる東北の温泉宿一泊の旅 プレゼント」の当選通知だったからだ。 新幹線とバスを乗り継いで3時間。ようやく高耶と直江は、目的の温泉宿へと到着した。 朝早くから出てきたのだが、既にお昼近くだ。というのも、バスを降りてから温泉宿まで「少し」 歩いたからだ。ちなみにその「少し」とは約1キロメートルぐらいの距離なのだが、あちこちに雪 が残っていたせいで、普通に歩くのより難儀したことは言っておかなければならないだろう。 冷えていた体は、歩いたせいでポッカポカだ。それどころかうっすらと額に汗している自分達に、 高耶はなんだかなとため息をついた。 プレゼントの6つの選択肢から、この宿を選んだのは高耶だった。 決め手は海に近い場所にあるという事で、食事が高耶の好きな蟹料理だからだった。さらに、 旅館の近くにある有名な岬では夕日がとても綺麗らしい。その他もろもろ他の旅館と比べて みて、ここがいいと思った高耶は、早速直江に同意を求めた。むろん、異論はなかった。直江は、 高耶と行く所なら何処でもいいからだ。それに、なんといっても当たったのは高耶なのだから。 すっかり忘れていたのだが、高耶は以前、インスタントラーメンの外袋に載っていた「選べる東北 の温泉宿一泊の旅 1000名様にプレゼント」に応募していたのだ。まさか当たるとは思っていな かったので心にも留めていなかったし、そんな折りに届いた当選通知だったものだから、高耶は 飛びあがんばかりに喜んだ。なんといっても、タダ旅行。お金がかからない旅行ほど、楽しいもの はないからだ。後になって、交通費は自己負担と知ってすこぉしばかり荒れた事もあったが、そこ はそれ、大目に見ることにした。なんといっても直江との温泉旅行だ。 直江の背中には、未だに消えない傷跡がある。その事から、普段の自分だったら率先して温泉 に行こうとは言わない。けれど、こういう事情なら……。 温泉に入る入らないはわからない。けれど、直江と一緒に温泉旅行に行けるというのは、高耶に とってとても嬉しい事なのだった。……面と向かっては、言わないけれど。 そんなこんなでこの宿にしたのだが、例年にない大雪に見舞われたこの町は、あちらこちらに 雪盛りがあった。温泉宿の前も酷い雪で、すっかり難儀してしまった二人である。自分でこの宿 にするといった手前文句も言いように言えず、すっかりテンションが下がってしまった高耶だった。 しかしそのため息も、宿の中に入ったとたん一気に吹き飛ぶのだった。 「うっ……わー!」 さすが、老舗の旅館である。手入れの行き届いたロビーに、しっかり教育がなされた従業員。 高耶は、社長子息にでもなったかのような気分で客室へと通された。 「すっげぇのな、ここ! かなり金かかってっぞ」 高耶が嬉々とした声を上げると、直江も満更ではなさそうに笑った。 「やりましたね、高耶さん。あなたは運がいい」 「んなことねーよっ。たまたまだよっ」 「それでも嬉しいですよ。……あなたと、こうして旅行にこられるなんて」 そう言って顔を寄せてくる直江に、高耶は慌てて飛びすさった。 「わっ! タンマ!」 どうして? と直江が不満そうな顔をする。それを軽く睨み付けながら、 「こんな昼間っからサカッてんなんよ。……それより! まずは、温泉行こうぜっ。温泉っ♪ それが第一の目的なんだし」 折角の当選旅行だ。楽しむところはきっちりと楽しみたい。そうして温泉から上がったら、そう したら…と、小さく言葉を続ける高耶に、直江は目を丸くした。まさか高耶がそんな事を言って くれるとは思わなかったのだ。 「そうですね。わかりました。それではまずは温泉に行きましょうか」 と、直江が背中を向けたところでハッとした。 「あ、…直江?」 高耶が気遣うように直江を見上げた。それに直江はフッと笑うと、 「大丈夫。湯気で傷なんて見えませんよ」 その言葉に破顔した高耶に、直江も優しい笑みを向けた。 大浴場でしっかりと温まった後、高耶達を待っていたのは見事な活蟹の懐石料理だった。 蟹刺しや焼き蟹の活蟹に始まって、デザートの白玉しるこまでがメニューになっていた。 かなりのお値段であろうことは、一口しゃぶってわかった。直江のお陰で普段から高価な物を 口にしてきている高耶だが、こういう所で食べるのはまた趣が違って楽しい。直江も満足そうな 顔で、料理を口に運んでいる。 美味しい蟹料理に舌鼓を打って満足した高耶は、ゴロンと横になってから再び湯に浸かる事に した。 「せーっかく部屋にも温泉がついてるんだからよっ」 そうなのだ。実はこの旅館、ランクの高い部屋には露天風呂が取り付けられているのだった。 ウッディなテラスと一体になった木の香り爽快な檜露天は、特に女性客に人気だとか。 静かな場所でゆっくりと湯に浸かる事も出来るし、冬は冬で雪見酒もウケて、今ではこの旅館 の売りにもなっているそうな。それを知って以来、高耶は夜になったらここに浸かろうと計画を 立てていたのだ。 「おまえも入る?」 なにげなく尋ねたのに、直江はチャンスとばかりに顔を近づけてきた。 「……誘っているの? 高耶さん」 ニヤリと笑う直江に「バカヤロ」と睨みつけると、 「別に入りたくないんならいいんだぜ。オレ一人で入るから」 「誰もそんな事言ってないでしょう。お供しますよ」 「酒、まだ残ってたっけ?」 「追加しておきましょう」 気分がいい直江はあっさりとそう言うと、高耶に倣って浴衣を脱ぎ出した。 一緒に風呂に入ればどういう事になるか。 高耶はわかり過ぎていたが、敢えて直江を誘った。 こんな風情のある場所で、一緒に雪見酒ともいうのも悪くない。もちろん、それを楽しんだ後は お決まりの「デザート」コースに雪崩れ込むのだが。 「あ、…あぁ…!」 体を仰け反らせた高耶の首に、男の熱い唇が吸い付く。 見えない所では、直江の右手が怪しく轟き……。 ハ…、ハァ……! と喘ぐ高耶の顔は上気しており、瞳も熱く潤んでいる。身悶えする度に、湯 がパチャパチャと跳ねた。 「ンっ! ンンっ!!」 袋をもみくちゃにされ、射精への期待感が高まる。もう……! と請うたところで指を二本入れ られた。 「―――! や、あ……!!」 入り口を広げられる度に、熱い湯が中に入ってくる。 「やめ…っ! ア……ツイ…! ヤ…、なお……!」 「熱い? でも、とても気持ちよさそうな顔をしてますよ」 弱い粘膜をしたたかに刺激され、高耶が息も絶え絶えに直江を見る。そんな高耶を深く抱きしめ ながら、直江は立ち上がった。 「…は、……ん」 外気の寒さにブルリと体を震わせる。 崩れそうな高耶をしっかと抱き込むと、高耶を後ろ抱きにし手を縁に掴ませた。 湯気のせいで、高耶の媚態がよく見えなかった。それでも高耶の尻をなんなく掴み込むと、自分 のものを高耶のソコに確かめさせるように宛がった。 「……っ!」 とたん、高耶がビクッと体を揺らした。 無意識に逃げようとする腰を押さえ、先端をめり込ませる。 ヒクヒクと物欲しそうに喘ぐ穴は、直江の逞しい棒をなんなく呑み込んだ。 「…アッ! んうっ……! ア、アァ……!」 全てを収め込むと、高耶が安堵のようなため息を漏らした。 直江に腰だけを抱え上げられている格好は、常なら羞恥を伴うものだ。しかし、ここは露天風呂。 幸い恥ずかしい部分は全て湯気が隠してくれる。また、アルコールの入った体が常以上の快感 を運んできて、直江に突き入れられるまま高耶は甘い声を上げた。 「ンンッ! ンンンッ!!」 鼻から抜けた声が、ゾッとするほど甘ったるい。 熟れた桃に、今まさにしゃぶりつかんとするような唇が、唾液でテラテラに光っていた。 入れられたまま前を弄られ、目も眩むような快感の渦に放り込まれた高耶は、直江の動きに合 わせて嬌声を上げ続けた。 ―――その翌日である。 朝も遅く起き出した二人は、温泉宿近くのデートスポットを探索する事にした。 聞いた話によると、この近くにおもしろい施設があるらしいのだ。それを聞いて行きたいと言い 出した高耶に、直江も同意したのだった。だが……。 「お、おい。本当にココなのか?」 施設を前にして、高耶は後込みした。確かに見る人が見れば「面白い」かもしれないが、ここ は……。 温泉宿で知り合った若者が、どこかニヤニヤしながらここの事を話していたのを高耶は思い出し た。 あれはこういう事だったのか、と今更ながら納得する。 「まあ、話のタネに入ってみてもいいけど……」 高耶も、人並み以上に興味は、ある。ただ、さすがにちょっと恥ずかしいが。 館内は全く人気がない、訳でもない。 「直江」 どうする? と目で問うと、直江が苦笑いをした。 折角だから、と、二人は館内へと入っていった。そこは、温泉街につきものの「秘宝館」なので あった。 「うわっ、マジかよっ」 高耶は入るなり、顔を赤らめた。 なぜなら、館内に入ったとたん女性のアノ時の声が……。 「す、すげー」 免疫のない高耶は、つい照れてしまう。直江はどうなんだろう、とチラッと横目で見ると、直江 はムカつくぐらい平然としていた。 (コイツ……) そりゃ、直江は女との経験がある訳だけれど、だからといってこのポーカーフェイスはムカつく。 少しは動揺すれば可愛げのあるものを。 高耶はムッとしながら、ズカズカと歩き出した。と、 「ワッ!」 スクリーンの画面いっぱいに映し出された、女性の裸体が目に飛び込んできた。豊かな胸を さらけ出した女性は、いずれも官能的なポーズを取っている。それだけならまだしも、中には 実際にまぐわっているものもあって……。 目のやり場に困ってあさってを向いたものの、そこには夥しい数のマネキンがいかがわしい ポーズを取って並んでいた。こちらも思いっきり本番のものがあった。 (うっわ……) マネキンとはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしい。思わず頬を染める高耶は、ふと、あるものを 見つけた。 (ゲ! これって……) それは、いわゆる張り型だった。今で言う、大人のオモチャである。 (な、なんだよッ。ココ! こんなの、堂々と展示していいのかよっ) いくら昔に使われていたものとはいえ、昼間見るには刺激が強すぎる。高耶もかつて「大人の オモチャ」は直江に使われた事があったが、そんなもの、よく見てなんかいない。自分の中に 入ったものなんて。 そう、高耶は既に経験済みであった。高耶のどうしようもない、恋人のせいで。 そんなものを使われた事に初めはショックを受けた高耶だったが、アレがもたらす快感も捨てが たく……。生身の人間では出来ない、あんなコトやこんなコトを想像しただけでアソコが熱くなる。 (スゴかったよな、……アレ。オレ、すぐにイッちまったし) 高耶のウィークポイントをグリグリ容赦なく突いてくるバイブに、高耶のオトコはすぐに潮吹いた。 イッたばかりで興奮しているというのに、直江は激しく回転するバイブを抜いてくれなくて……。 と、そこまで考えて、高耶はハッと我に返った。 (何をオレは……っ) 動揺して辺りを見渡すと、他の人達もどこか苦笑しながら展示品を見ている。客の中には驚い たことにカップルもいたが、笑いあってやり過ごしているようだ。一方直江はというと、 「! バ、バカッ! 何、真剣に見てんだよッ」 直江は張り型のコーナーで、じっと説明を読んでいた。見目いい、イイ男がすることじゃない。 高耶は腕を掴むと、グイッと引き寄せた。 「おまえには、羞恥というものがないのかっ」 「? 何を怒ってるんです。今後の参考の為に、読んでいましたのに」 今後の参考のため? それって……、 「お、おまえ! まさかまたオレにあんなのを使うつもりじゃ……!」 「高耶さんは快楽に弱いですからねぇ。俺のをくわえている時とはまた違う顔が見られるのが、 快感で……。そんなにアレってイイんでしょうかねぇ。まあ、快感を得る為に作られた道具です から、アレを使って感じないという方がおかしいのですが。オモチャに負けるだなんて、男として のプライドが少し傷つきますね。しかし、アノ時の高耶さんは本当に……」 ふるふるふる。 高耶の肩が怒りに震えた。 「それにしても、こんな昔からこういう物があったとは驚きです。庶民の間に広まったのは江戸 時代の頃でしたが、一番古いのは飛鳥時代になるとか。昔は象牙の角とか、べっこうで作られ ていたみたいですね。張り型は江戸の頃からも目にはしていましたが、けれど、やはり今の技術 には感服します。知ってましたか? 今では○○に○○が○○しているのもあるんですよ。他に も××が××になっていたりするのもあって。あなたにピッタリなのも見つかりそ……」 「死ねっ!」 叫んだとたん、館内に声が響いた。周りにいた人達が、何事かとこちらに注目する。 いたたまれなくなった高耶は、カアァ、と顔に朱を上らせると直江を置いて秘宝館を飛び出した。 「高耶さんっ」 直江が下駄を蹴りながら走り寄ってきた。 腕を取ろうとする直江の手を振り払い、高耶はますます歩調を早める。 「高耶さんっ。待って」 走って回り込んだ直江は、ようやく高耶を捕まえた。 「高耶さん……」 ホッとする直江に、高耶は居たたまれなくなって俯いた。 直江を振り回す自分が、なんだか凄く子供っぽい気がしてきた。 もとはといえば、ここに行きたいと言ったのも自分なのに。 「高耶さん、すみません。まさかあなたがあんなに怒るなんて」 (それなのに、お前は怒らないんだな) 「……い、いや、いいよ。オレが悪かったんだし」 「いいえっ、調子に乗った私が悪いんです!! もう、あんなモノは使ったりしませんから!」 許して下さい! と頭を下げる直江に、「いや、それはそれで困るかも」と思ったかどうか。とに かく、高耶は微笑すると、 「……帰ろっか?」 そう言うと、直江が明らかにホッとした顔になった。 宿泊期限は、今日の15時までになっていた。お昼を食べて一風呂でも浴びれば、あっと言う 間に帰る時間になってしまうだろう。あと少しで、この楽しい時間が終わってしまうのかと思うと、 高耶は寂しくなった。 「……高耶、さん?」 手を繋がれた直江が、驚いたように高耶を見た。それにくすっと笑うと、 「……けど、驚いたよなー。江戸時代からあんな物があっただなんて……」 高耶は、先ほど目にした張り型を思い出した。江戸の時代も「生きて」いた景虎だが、そういう 裏事情には明るくなかった。というか、当時、つましい生活をしていた景虎にとっては、あんな 物が世に出回っていたと知らなくても当然なのかもしれない。 「昔は、何の機能も付いてはいませんでしたけれどね」 そう言って遠い目をする直江に、高耶は目を剥いた。 (……なにっ!?) 「さっきも言いましたが、今では××したり、○○したり、果ては○○までしたりするのもあるんだ そうですよ。それに比べて昔は、ただ単に××て××するだけだったんですからねぇ…」 その、いかにも「知ってます」な直江の言い方に、高耶はうろんな目を向けた。 「……まさかと思うけど、おまえ、昔女に使ったなんてことは」 「! め、滅相もございませんっ!!」 ここでまた、高耶に機嫌が悪くなられては困ると思ったのだろうか。 慌てふためく姿が少し気にもなったが、こんな所で喧嘩したくないのは高耶も同じ事。 高耶は見逃してやる事にした。 「もう、旅行も終わりだな〜」 残念そうに言う高耶に、直江は元気づかせるように言った。 「また、一緒に来ましょうね」 「……おまえの奢りで、だろ?」 ニヤ、と笑うと直江は眉を下げた。 「あなたには適わない」 「―――へへ!」 高耶は嬉しそうに笑うと、直江を引っ張って宿へと戻ったのだった。 |
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