| 夏の終わりに
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ふいに止んだ鈴虫の鳴き声に、高耶は瞳を開けた。 ぼうっと周囲に目をやって、その見慣れない部屋の造りに一瞬だけ首を傾げ、 そして「あぁそうか」と一人ごちる。 上半身を起こして前髪をかきあげた。その額がうっすらと濡れているのに、高 耶は苦笑を浮かべた。 ―――いつの間にか、眠ってしまったらしい。 この部屋に入るのはまだ数えるほどしかないのに、やけに居心地が良くて困 ってしまう。ついさっきも、横になっているうちにウトウトしてしまった。それでも 暫くの間は、襲いくる睡魔と戦っていた高耶だったのだが―――。 「あいつ、まだ終わんねーのかな」 自分の忍耐の無さを認めたくなくて、わざとここにいない男に責任を転嫁する。 口にしたとたん今の時間が気になって、壁にかかっている柱時計に視線を宛 てた。 「もう7時過ぎてんじゃん。時間外労働だっての」 憤懣やるかたなく呟いたところで、廊下の軋む音が聞こえてきた。どうやら噂の 人物の登場らしい。待っていたはずなのに、いざあの男が来るのかと思うと 高耶は急に照れ臭くなって、慌ててその場に横になった。 とりあえず狸寝入りをきめたところで、タイミングよく襖の開く音が聞こえた。 「高耶さん、すみません! 遅くなって。思ったより法事が長引いてしまって。 もっと早くにこちらに戻ってこられるはずでしたのに…」 と、そこまで言って、ピクとも動かない高耶に直江は気が付いたらしい。 恐る恐るといった具合に名前を呼ばれた。 「……高耶さん? 高耶さん…。―――眠って、しまわれたのですか…」 ガク、と直江が気落ちしたのがわかった。そして聞こえてきた衣ずれの音に、 直江が傍に蹲ったのがわかった。 線香の匂いとともに、直江の暖かな気が流れてくる。それを懐かしく思いながら 眠ったフリをしていると、 「高耶さん…」 今度は愛しそうに名を呼ばれて、髪を梳かれた。それに高耶は、擽ったそうに 背中を丸めた。 「すみません、本当に。お待たせして」 申し訳なさそうに呟く直江に、高耶はキュッと唇を噛む。 (全くだよ。いつまで待たせるんだよ) 「折角宇都宮まで来て下さったのに」 (そうだよ。もっと労え) 「高耶さん…」 頬に直江の暖かな手が触れたと思った瞬間、いきなり唇を塞がれた。 (なっ…!) 突然の事に驚いて目を開くと、直江の端正な顔がどアップで飛び込んできた。 久々のキスだけでも心臓が全力疾走しているというのに、心の準備もなくいきな りディープなキスをされた高耶は、次第に体が熱を持ち始めた事に気が付いた。 「んんっ…! んむ……ァ」 泳いだ両手が直江の法衣を掴む。禁欲的な男の姿と自分達が取っている裏腹 な行動に、高耶はますます息が上がった。 「ん…。あ、ふ……」 飲み切れなかった唾液が顎を伝う。苦しくなって夢中で法衣ごしに爪を立てた 所で、ようやく濃厚なキスは解かれた。 「……ハ…。んっ。……お、おまえ〜〜〜、いきなりなにしやがるっ」 「す、すみません、高耶さん。眠っているあなたを見たら我慢が出来なくなって」 だからって、いきなりこんな…、と喰ってかかるはずだった高耶は、直江が珍し く殊勝そうに頭を下げた事によって怒りを収めた。それに自分だって、狸をきめ こんでいたのだ。なんとなく後ろめたくて、高耶は赦す言葉を口にした。 「……せめて法衣ぐらい脱げよ」 拗ねたような物言いになってしまうのは、直江に甘えているからだ。気恥ずか しくなって目を泳がせると、そんな高耶の表情に何を思ったのか直江は顔を輝 かせた。 「脱いだらいいんですか?」 「…………なんっか、お前が言うとやらしーな」 「酷いですねぇ。こんなに禁欲的な男を捕まえて」 「これのどこがだよッ」 言いながら高耶のTシャツに手を滑り込ませている直江に、高耶は怒鳴った。 しかし聞く耳持たない直江は、あっさりと衣服を脱がしてしまう。 「脱ぐから許して」 揶揄を含んだ物言いに、高耶はカッと顔を赤らめた。わざと揚げ足を取る男が憎 らしい。そうしているうちにも直江も脱いで一糸纏わぬ姿になると、照明を消して 高耶を押し倒した。 「お前、性急過ぎないか?」 「仕方ありません。我慢出来ないんですから」 クスクス笑いながら言う直江に、高耶は諦めのため息をついた。 「坊主のくせに、仕方ねぇ奴」 「ええ。仕方がないんです。だから、もう黙って」 「んっ」 「あ…、ふ…やぁ……」 しつこいくらい胸元を嬲られた高耶が、痺れる感覚に体を捩らせた。 直江が、ピンと立った高耶の乳首を擽っている。緩く噛まれれば痛みが走り、 甘く舐められると擽ったさに身悶える。 いつでも新鮮な反応を見せる高耶に、直江の高耶への愛しさは募っていくば かり。つい、困った顔をする高耶を見てみたいと思ってしまうのも、無理はない だろう。 「も…ッ、そこは……」 いつまで経っても胸から離れない直江に焦れて膝を立てると、却って直江の体 と密着する事になってしまった。僅かな隆起を見せていた足の間のものを押さ れて、高耶は甘苦しい悲鳴を上げた。 「あっ! んんっ、い、たい…」 頭を打ち振るって訴えると、直江がようやく顔を上げた。それで退いてくれる と思ったのに、体を上下させてきたのでたまらない。直江の腹にそこをこすら れた高耶は、切れ切れの悲鳴を上げていた。 「ぁ…、アァッ…! やだ…、なおえ、やめ……っ」 弱いところを背徳的に攻撃され、高耶は羞恥に頬を染めた。それどころか転が される度に足の力が抜けて、高耶の足が淫らに広がっていく。 「大胆ですねぇ。そんなに足を開いて。正面から見られないのが残念ですよ」 「ん、あ! 馬鹿、言ってんじゃ…ねぇ。それよりも、も…、やめろ、よ」 「どうして? こんなにしてるくせに。あなたのものがどんどん堅くなっていくのが、 感触でわかりますよ」 わざと羞恥を煽る言葉に、高耶はキツく眉を寄せた。 「く…っ。こんな……」 「いいんでしょう? あなたの温かいものが出始めてますよ」 ヌルリ、と滑るそこがたまらなく恥ずかしい。自分の出したものがその滑らかさ を生み出しているのかと思うと、高耶はあまりの卑猥さに唇を震わせた。 「なおえぇ…っ。もぉ」 「イッてしまいなさい」 ほら。 「!」 直江が下からグンと伸びあがってきたことによって、昂ぶっていたものが変な 形に潰された。その時の感覚といったら、とても口では言い表せない。 直江の思惑通りに達した高耶は、直江の腹に白いものをぶちまけていた。 「あ…っ、ン…。ハ……ぁ…」 知らず知らずのうちに畳に爪を立てていた高耶が、無意識に右手を引き寄せた。 そして荒い息を紡ぐ口元に置いたのを見て、直江は不思議そうに問いかけた。 「どうして塞ぐの? それでは苦しいでしょう?」 高耶の口から手を外そうとしたが、高耶の力は思いのほか強く、そこから動か す事は出来ない。イッたばかりで力が入らないくせに、頑ななままに強情な態 度を崩さない高耶に直江は眉を顰めた。 「高耶さん…」 「……って…」 「え?」 「だって、ここ」 ―――おまえん家。 そう小さく呟いた高耶に、合点がいった直江は破顔した。 「そんなこと気にしなくていんですよ。ここは離れですし、滅多に家族の者は出 入りしません。何も気兼ねする事なんてないんです」 「でも…」 縋るような目で見上げてくる高耶に、直江は小さく微笑んだ。 「私はあなたに、私が住んでいる所を見てもらいたくてここに呼んだんです。そ してあなたに気に入ってもらえたら、と思っていました。……だから、あなたが変 に気を使っているところを見ると寂しく思います」 「んな事言ったって…。こんなトコ、万が一家族の誰かに見られでもしたら…」 「ですから大丈夫ですって」 「そんなのわかんねーだろっ」 平行線な会話に苛立って声を荒げると、直江はピタと動きを止めた。そして高 耶を見ると、 「では試してみましょうか?」 「―――え!? た、試すって何を…」 「ですから、声を出しても大丈夫だと言う事を」 言いながらようやく高耶の体の上から退いた直江は、高耶の体を反転させると いきなり舌を差し込んできた。 「ヒァ…!」 達したばかりで今だ興奮状態の高耶の体は、直江の舌を拒絶するかのように そこを激しくヒクつかせる。しかし、それをものともしない直江は、熱い舌を高耶 の中へと押し込んでいく。 「なおえぇ……! ダメだ、って。もぅ……ヤメ…」 高耶の前から漏れた液体が、足の付け根を濡らしていた。そこに後ろから伝 い始めた直江の唾液が入り混じって袋を濡らしていく。 これ以上なく濡れた高耶の股間はテラテラと輝き、とても男の劣情を誘った。 「もうこんなに柔らかくなっている。あなただって本当は欲しかったんでしょう?」 「!」 「大丈夫。余計な事が考えられなくなるくらい、気持ち良くさせてあげる」 言いざま高耶の疼く個所に、熱いものが押し当てられた。 「……!」 来る、と思った時には、圧倒的な力をもってそれは中に入ってきた。 「アァ――…! や、あ……」 何度受け入れても慣れる事の出来ない、男の楔。 それが高耶の濡れた空洞を、強く押し広げながら入っていく。 「―――クッ。高耶、さん。もっと力を抜いて」 「むり、言うな…ッ! お前の、デカすぎ……」 「…あなたが、愛おしいのだから仕方ないでしょう?」 その言葉を肯定するかのように、前に回した手を高耶の股間で蠢かせる。白い 体液に濡れたそこはかなり滑りがよく、ともすれば抜けそうになる手を必死に 直江は絡ませる。時折、脇にある袋を弄られて目が眩んだ。通常はそんなに 感じないそこも、充分に高まった今では容易に快感を運んでくる。 太い杭に貫かれ、更に激しく出し入れを繰り返す直江に、高耶の意識は遠く なっていく。 ポイントを突かれた時には、信じられないくらい甘い声を上げていた。 ここが直江の家だから、とか。 家族に聞かれてはならない、とか。 もう、そんな事を考えるだけの理性は、残っていなかった。 「あっ…あぁ――…! イイ、よぉ…。なおえぇ……。もっと強く、もっ……。あっ、 ん…なお……」 零れた唾液が畳に染みを作る。目映いばかりの閃光が眼前で弾けるのを最後 に、高耶は全身の力を抜いた。 ![]() * (月が、出ているのか) 丁度横になっている自分たちの上に、青白い光が 射し込んでいた。 直江の手管に落とされた高耶は今まで泥のように 眠っていたのだが、瞼の奥に感じた目映い光に、いつしか瞳を開けていた。 隣で寝ている男を起こさないように、そっと布団から抜け出す。 月の光に誘われるかのように、縁側に出てみた。 ―――本当は、ここが直江の家だからとか、人に聞かれたらマズイとか、そん な事はどうでもいいんだ。 ただ、お前の家族を騙しているような罪悪感だけは、どうしても拭えなかった。 本当の「オレ」じゃないオレと、本当の「お前」じゃないお前。 その生きる幽鬼のようなオレ達が、直江を橘義明と思いこんでいる家族の前で 睦み合うのが、オレには耐えられなかったんだ。 けれど……。 高耶は眠っている直江を振り返ると、その顔に笑みを浮かべた。 (真摯になればいい) そうだろう? 直江。 オレ達を、ありのまま受け入れてくれる人々のためにもオレ達は。 どこまでも強くあらねばならない。 そう感じた、夏の終わり―――。 |
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