Nostalgicなトキメキを


窓を開けたとたん、心地よい夜風が高耶の髪を揺らした。
風呂に入ったことによって、体が熱いくらいに火照っている。その熱から逃れるように、
高耶は窓から体を乗り出した。
気持ち良さそうに目を細めて、春の爽やかな夜風を胸いっぱいに吸い込む。ふと視線
を転じると、眼下には色とりどりのネオンが犇めきあっているが見えた。その場を直に
通るのは鬱陶しくて嫌いなのだが、こうして距離をおいて見てみるとなかなか綺麗で
ある。体の熱が引いてゆくのと同時に、心が安らいでくるから不思議だった。
高耶は体の中に新鮮な空気を送り込んだ所で、冷蔵庫から持ってきた缶ビールを開
けた。勢いよく煽るとビリッとした炭酸が喉で弾けて、その爽快感に高耶は大きく息を
ついた。
「っひゃ〜〜! ウマイッ。サイッコーッ!!」
よく冷えたビールはとてもうまかった。
高耶は1本目をゴクッゴクッと飲み干すと当然のように2本目に手を伸ばした。
ビールは以前ほど嫌いではなくなったが、それでも好き、まではいかない。けれども、
カッコつけている訳ではないが飲んでみたいと思う。毎日ではないが、風呂上がりに
ビールを飲むのはよくあることだった。しかし、……今回ばかりは少し意味が違ってい
るのだった。
高耶があまり美味いとは思えない液体で喉を潤わせていると、ソープの優しい香りが
辺りに漂い始めた。後から入浴した直江が、部屋に入ってきたのだ。
「高耶さん、窓を開けているんですか?」
「あ、直江……。早いんじゃねぇの? お前」
直江が浴室に行ってから、まだ20分くらいしか経っていない。
首だけ巡らせて反対に問いかけると、直江は思わせぶりな笑みを浮かべた。そうし
て高耶の側に歩み寄ると、そのしなやかな体を腕の中に抱きしめてきた。
「それは…、あなたと早くこうしたかったから」
耳の中に吐息ごと熱く囁かれて、高耶はカァッと顔を赤らめた。
「バ、バカッ。早いって!」
今夜は「そのつもり」な二人なのだが、寝るにはまだ早かった。高耶としては、まだ
涼しい夜風に当たっていたかったし、このほろ酔い気分ももう少し味わっていたい。
高耶は焦って直江の体を押しやると、直江は苦笑しながらもすんなりと体を離した。
そうして高耶の手の中にある缶ビールを見て、クスリと笑う。
「な、なんだよ」
笑われたことにムッとして唇を尖らせると、直江は笑いながらすみません、と謝った。
「すみません、高耶さん。……少し、昔のことを思い出したものですから」
「昔のこと?」
「えぇ。……お酒を飲みたがるあなたに、よく『未成年ですから駄目ですよ』って言っ
たなと思いまして」
「あぁ…。そう言えばうるさかったよな、お前」
「今ではもう言えませんね、残念ですよ」
「オレももう22だもんなぁ……。早いもんだぜ」
感慨深げにそう言って、高耶はフッと笑った。
「お前も歳を取るわけだ」
そう言ってビールを煽る高耶の手を取ると、無理矢理引き寄せて直江はビールを一口
口に含んだ。
「あっ、オレのビール」
「よく冷えていて美味しいですね。でも、ビールはほどほどにしておいて下さいね」
直江はそう言うと、不満そうに頬を膨らませる高耶を置いて一足早く寝室へ向かった。
一人残された高耶は缶ビールに唇を押し当てながら、男が消えたドアに拗ねたよう
な目を向けた。
「チェッ…」




「直江ー、あつい〜っ」
それからしばらくして、顔を真っ赤にさせた高耶がフラつく足取りで寝室に入ってきた。
ベッドの上で本を読んでいた直江の上に倒れ込んできたので、驚いた直江は体を起
こして高耶を見た。
「高耶さん?」
高耶にしては珍しく、自ら直江の胸にすり寄ってくる。
「……高耶さん、酔っているんですか? 高耶さんっ」
顔を起こさせて覗き込むと、うつろな目が直江を見つめてくる。酔っているようだ。
だからビールは控えて下さいと言ったのに、と呆れ顔の直江に高耶はきゃらきゃらと
笑い声を上げる。
「うあ〜? 酔ってらんからいよ〜」
ろれつの回らない口調でそう言いながら、わかっているのかいないのか、高耶は
直江の首に腕を回してくる。
明らかに酔っている高耶の様子に溜息をついた直江だったが、甘えてくる高耶に
その顔はすぐに弛んだ。
「高耶さん、高耶さん……。まったく仕方のない人ですね、22にもなって…。いつま
で経っても子供なんですから…」
そう言うものの、直江の瞳には優しい色が灯っている。
少し予定とは違ってしまっが、高耶が直江の腕の中にいることには違いない。
直江は高耶のしなやかな背をさすりながら、照明のリモコンを手に取った。フッと室
内が暗くなったと同時に、静寂が辺りを包む。
直江は高耶の体を下に敷き込むと、高耶の上に乗ってパジャマのボタンを一つずつ
外していった。
「暑い? 高耶さん。今、脱がせてあげますよ」
肩から衣服を抜くと、いつもは白い高耶の肌が夜目にもアルコールによって薄く染まっ
ているのがわかった。
「なおぇ…」
トロンと潤んだ黒い瞳が、直江を見上げてくる。いつもならこの段階で多少なりと抵抗
を試みる高耶なのだが、酔っているせいかそれはなかった。さらに、薄く開いている
唇がまるで自分を誘っているかようで、直江は無意識のうちにコクリと息を飲んだ。
「高耶さん」
逸る気持ちを抑えて高耶の瞼にキスを落すと、高耶がくすぐったげに顔を逸らした。
その動きを利用して耳を捉えると、そこに直江は舌を挿し込んだ。
「あっ…」
直江の生温かい舌がそこに触れたとたん、高耶の体がピクッと震えた。濡れた感触
が高耶の性感を刺激したらしい。ゾワッとした感覚に耐えられず、思わず逃れようと
する高耶を左手で抑えて、直江はしつこくそこを舌で舐めまわした。
「ん、あっ…、な…ぉっ」
「感じるの? 高耶さん…」
無意識のうちにやめさせようと伸びた高耶の手を取って、直江は甘く囁く。鼓膜のすぐ
近くに注ぎ込まれる低い声が、高耶には止まらない。思わずブルリと震えた高耶の顔
を覗き込むと、彼の睫が細かく震えている。耳だけで充分感じてしまったらしかった。
直江は薄く笑みを掃くと、手を伸ばして高耶のなだらかな胸に這わせた。そうして
ぷつんと立っている赤い実を見つけると、親指でグリグリといじりまわす。
「…ぁ……ん、…たい、そ、れ…」
「痛いの? すみません。ではこれならどう? これなら痛くないでしょう?」
直江が力を緩めて今度はくすぐるように転がしてやると、高耶は顔を真っ赤にさせなが
らコクッとうなずいた。その瞳が甘く潤んでいるのに、直江は満足そうな笑みを浮かべ
る。
「可愛い高耶さん…。もっと悦くしてあげる」
直江は体をずらすと、耳と胸元だけの愛撫で勃ち上がってしまった高耶の分身を
いきなり口に含んだ。
「ヒアッ!」
何の前触れもなく温かいものに包まれて、高耶は嬌声を上げて仰け反った。信じられ
ないくらいの快感がそこから生まれて、高耶の体を縦横無尽に駆け巡る。あまりの
刺激に体は逃げをうつが、それを直江が許すはずもなく、無意識のうちに立てた足を
掴まれて大きく広げられた。
「……ッ!」
高耶の恥ずかしい部分が、惜しげもなく直江の目に晒された。アルコールが入って
いるせいでいつもより頭がぼうっとしているのだが、それでも羞恥は感じる。高耶は
いやいやをするように頭を振ったが、直江に先端部分をカリッと咬まれて、ビクンと
体を大きく震わせた。
「アッ…んっ! や、あ……ッ」
「嫌じゃないでしょう? こんなに悦んでいるくせに」
直江はチュッと軽く吸い上げてから、そこを下からわざと卑猥に舐め上げた。先走り
の、白い粘液状のものが糸を引いて、高耶の肌を濡らす。
「あ、ぁん…! アッ…」
完全に勃起したものが、高耶の腹の上で震えていた。直江はそれを愛しげに一撫で
してから、高耶の体をゆっくり反転させた。
「ンッ」
俯せになった高耶は、勃ち上がったものがシーツに当ったことによって、感じるまま
声を上げていた。そんな高耶の体を引き上げて腰だけを突き出すポーズを取らせる
と、直江は臀部を割り開いて赤く色づく花弁に舌を伸ばした。
「やっ…! やだ、……なお…っ」
前にずり上がろうとする体を押さえて、直江は丹念にそこを潤した。高耶の堅い蕾が、
直江の唾液によって少しずつ解れていく。が、その凄まじい刺激に、高耶の腰は砕
ける寸前だ。思わず落としそうになる腰に、だが直江は容赦ない。ぎっちりと腰を掴
み、固定された状態で直江の舌は出し入れを繰り返した。
「あん、あ、あ…。もう……、だ、め…」
窪みから流れ落ちた直江の唾液が、敏感な道を辿って嚢を濡らす。
ふるふると震えている先端からは白い涙が止めどなく零れて、シーツに淡い染みを
作った。ひっきりなしに舐められている部分は銜えるものを欲して、卑猥に痙攣して
いる。
(もう、この熱を何とかしたい……ッ)
それだけが、今の高耶の願いだった。
高耶は自分の両手を分身に絡めると、直江に言われる前に自らそこを扱きだした。
それに併せて収縮する部分を直江の舌に押しつけて、もう我慢出来ないと腰を振る。
「な、おえ…! も、…れてく…れッ」
ガクガクと体を震わせて自慰する高耶に、直江の加虐心が刺激される。
直江は入れていた舌を引き抜くと、ヌルヌルと濡れそぼっている部分に指を1本挿し
込んでやった。
「これでいい? 高耶さん」
背中にチュッとキスをしながら囁くと、高耶がチガウと泣き叫んだ。
「チガ…ッ! な、…おえ、それ、じゃ…な…」
「じゃあ、これ?」
直江が指を3本に増やして中を掻き回すと、高耶がブルブルと震えながら甘い声を
上げた。
「アッ…、アァッ……!」
「これがいいの? 高耶さん」
「ヒッ! あ、ん…、アァ―――ッ!!」
直江の節ばった指が、高耶の感じる所に当たったらしい。高耶はグッと自身を握りし
めながら、一度目の放出を果していた。
凄まじい解放感に、高耶はシーツに突っ伏した。顔が汗と涙でぐちゃぐちゃになって
いる。高耶の口からは満足そうな声が漏れ、その唇にはうっすらと笑みが浮かんで
いた。が、直江の指を含んだままのそこは収縮を繰り返しており、直江が指を動かす
度に高耶はビクッと体を震わせた。
「気持ちよかった? 高耶さん。こんなにシーツを濡らして…。いけない人ですねぇ。
これは私だけの飲み物なのに」
体の前に手を伸ばして先端に残っている液体を掬い取ると、その些細な刺激にも高耶
は感じて声を上げた。
「…あ…、んっ…」
「まだ終わりではないんですよ。今度は私を満足させて下さい」
直江はヒクつく秘口から指を抜き取ると、高耶の体をゆっくり抱き起こした。そうして
自分の方に体を向かせると、反対に直江は上体を後ろに倒した。
「高耶さん、ここに来て」
「…え?」
高耶が荒い息のまま直江を見下ろした。涙で熱く潤んでいた瞳が、戸惑いの色を
浮かべている。そんな高耶の腕を引いて、直江はもう一度言った。
「高耶さん、ここに腰を下ろして」
言われてそこに目をやると、直江が力強く勃っている自身に指を絡めていた。
まさに準備万端なその様子に、高耶の頬に朱が上る。
「な、なおぇ…」
直江の露骨な態度に羞恥を覚えて、目を逸す高耶に直江は根気強く言い募った。
「高耶さん、初めてじゃないでしょう? ここに来て自分で入れて」
「なおえ」
「早くっ」
有無を言わさない男の眼差しに、高耶は仕方なくそろりと近付いた。そうして直江の
腰を跨いだ高耶だったが、そこで固まった。強引にさせられた事はあっても、自らの
意思でした事はなかった。とても自分からは入れられそうにない。
じっと見つめてくる男の眼差しが、針の蓆のようだ。どうにもそこから動けずにいる高耶
に、直江は声を甘くして誘った。
「高耶さん…。あなたも気持ち良くなりたいんでしょう? あなたの可愛いソコが物欲
しそうにヒクついていますよ。本当は入れられたくてたまらないんでしょう? 恥ずか
しがることはないんです。見ているのは私だけなのだから。さぁ…」
腰を揺らして誘う直江に、高耶はゴクリと息を飲んだ。
直江を自ら受け入れる、そう思った瞬間、落ち着き始めていた自身がピクッと震えた。
「…ぁ……」
「高耶さん…」
自分のそこが、喘ぐように収縮しているのがわかった。直江の言う通り、熱いアレが
欲しかった。何度も入れられた恥穴が、男の楔を欲して淫らに轟き始める。
高耶は覚悟を決めると、ギュッと目を瞑って直江の太い楔に自ら腰を落としていった。
「…ぁ……ん、ァ……」
直江に予め塗り込められていた唾液と、直江の先端部分から漏れていた精液が潤滑
油になって、挿入は痛みを感じることなく行われた。ただ、狭い道を割り開いて入って
くるそれはとても熱くて、高耶は喉を仰け反らせながらそれを銜えていった。
「あぁ、…んっ! な、おえぇ……!」
「ここに、いますよ。高耶さん」
彷うように宙に伸ばされた高耶の手を取って、その指を絡み合わせる。淫らに開いた
足の間に入っていく自身を見ながら、直江はキツク眉を寄せた。
「イイ、ですよ…、高、耶さん…。あなたの中は熱くて気持ちがいい……」
直江は掠れた声で囁くと、まだ途中だった挿入を、下から突き上げることによって一気
に済ませた。
「―――ヒッ!」
ズッと奥深く埋め込まれた男の楔に、高耶は嬌声を上げて天を仰いだ。
「ア、…ンンッ! ヒ、あぁ―――…ッ!!」
「高耶さん……ッ」
「直江。……なおえぇ―――!!」




翌日。

―――バンッ!
「高耶さんっ!」
直江は、ドアを蹴破る勢いで突然部屋に入ってきた。そうして未だベッドの住人である
高耶の元に歩み寄ると、体を揺すりながら名前を連呼する。
「高耶さんっ、高耶さんっ! 起きて下さいっ」
気持ち良く惰眠を貪っていた高耶は、その声で無理矢理起こされた。
重い瞼を開けると、朝の眩しい光りが目に飛び込んでくる。まだ半ば眠っている頭を
むくりと起こしながら、高耶は欠伸を噛み殺した。
「んぁ……。んだよ、うっせぇな…」
昨夜(?)は遅かったのだ。まだこのまま眠っていたい。
だが、目の前にいる男は何に興奮しているのか、そんな高耶のささやかな願いに気付
きやしない。
一言言ってやろうと体を動かそうとして、高耶の体はそのまま固まった。
「イッ……てぇッ!」
まるで雷撃でも食らったような激しい痛みに、高耶は苦悶の声を上げた。
瞬時にベッドに逆戻りした高耶に、直江は大丈夫ですかっ、と慌てて腰をさすってや
る。だが高耶は、その手を力無く追い払った。
「いい、触るな。触られるだけで痛い…」
そう言って辛そうにしている高耶に、直江の顔がやや曇った。それに気付いた高耶は
慌てて笑顔を作った。
「んな顔すんなって。半日もおとなしくしていれば治るさ」
「ですが……」
それでも申し訳なさそうにしいる直江に、高耶は話題を変えることにした。
「……そ、それより! 勢い込んで入ってきたけど、なんかあったのか?」
「アッ! そうでしたっ。これ……」
高耶の言葉でハッとして、つい放り出してしまったそれを直江は大事そうに拾い上げ
た。パサッと乾いた音を立てて直江の腕に収まったそれは、真紅のバラの花束だっ
た。綺麗に束ねられたそれには、赤い大きなリボンが付いている。
「あ、それって…」
「あなたが贈ってくれたんでしょう? これ。まさかこんな素敵なプレゼントを頂けると
は、思っていませんでしたよ」
そう言ってニコニコする直江に、高耶はうっすらと頬を染めた。
「え? や、別に……」
照れた高耶は、すいっと目を逸らした。
そう、そうなのだ。実は直江に花束のプレゼントをしようと、数日前に、とあるショッピン
グクラブに頼んでいた高耶だった。例年は、プレゼント無しで(直江が何もいらないと
主張するからだ)直江のバースデーを終わらせるのだが、今年こそは何か贈りたい
と思っていた。けれど、直江が欲しいものなんて思いつかないし、お金もあまり無い。
どうしようかと思い悩んでいた時に目に入ったのは、あるデパートに貼り出されていた
ポスターだった。それは母の日限定の特別サービスだったのだが、問い合せてみる
と、バースデー用のサービスもあるという。しかも、長野県のバラ園で、発送の日の朝
に摘んだばかりの美しい薔薇と、厳選されたワインのセットだという。これほど自分達
にピッタリな物は、まずないだろうと高耶は直江のバースデープレゼントをこれに決め
たのだった。
らしくなくて恥ずかしかったが、それだからこそ直江が喜びそうでもあった。
(そっか、今日は3日だったんだな)
昨夜の激しい情交で、すっかり忘れていた高耶だ。なにせ、昨夜はこれでもか、という
ぐらい激しかったのだから。初めは予定通り、酔いのせいでよくわからないで済んでい
たのだが、酔いが冷めた後もしつこいくらい交わっていたので、すっかり感覚がバカに
なってしまった。それ以前に、羞恥をごまかす為にビールを飲み過ぎたのもいけなかっ
たが。
(……宅配サービスにしておいて良かったぜ)
思わずポリポリと鼻の頭を掻く高耶の目に、直江の嬉しそうな様子が飛び込んでくる。
(―――まっ、プレゼントが無事届いたんだから、いっか。直江も嬉しそうだし)
高耶は軽く息を吐くと、
「直江」
「何ですか、高耶さん」
呼ばれて極上の笑みを向ける直江に、高耶は照れくさそうに言った。
「………おめでと」
言ったとたん顔が火照ったのがわかったが、直江があんまり嬉しそうに笑うから、高耶
も幸せそうに、微笑んだ。


「誕生日、おめでとう。直江」



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