さくら


「あぁっ!? 明日雨!?」
ソファに寝そべってテレビを見ていた高耶は、半身を起こすと突然声を上げた。
夕食を終えた二人は、それぞれ思い思いの時間を過ごしていた。高耶はする事が無かっ
たのでテレビを見て、直江は兄から頼まれていた書類の整理をしていた。直江が真剣に
ノートパソコンと睨めっ子をしていたものだから、自然と静かにしていた高耶だ。だが、番
組の終了後に決まって放送する天気予報を見て、つい声を上げてしまった。
ハッと口元を押さえて向かい側を見ると、苦笑した直江の瞳とぶつかった。
「高耶さん、別に喋ってもいいんですよ。集中しなくても出来る仕事なんですから」
直江がそう言うと、高耶は頭をカリカリと掻いた。
「……あ、そうなん? いや、直江が真剣にパソコンいじっているからよー、重要な仕事
なのかと思って」
「ありがとうございます。でも、特に重要な仕事ではないんですよ。ただ、出来れば早く
終わらせたかったので集中していたんですが。……それよりも、明日雨ですって? 
明日雨だと何か不都合なんですか?」
明日は日曜だし特に何もないはずだ、と顎に手を当てて考える直江に高耶が照れ臭
そうに笑った。
「あ…、いや、その……。ホラ、折角桜が咲き始めたのによ、雨降ったら散っちまうん
じゃねぇかと思って……」
「ああ、そういえば桜、咲いたんですね」 
ここ東京では、ようやく桜が咲き始めたばかりだった。今年は寒い日が続いたせいで、
例年より開花が2,3日遅れたらしい。昨日になって「やっと咲いたぜ!」と嬉しそうに
報告してきた高耶の姿が、直江の脳裏に浮かんだ。
高耶はバイトの帰りに、近所にある桜の木の蕾が大きくなるのをずっと見守ってきて
いた。日に日に大きくなる薄紅色の蕾を見るのは、高耶の小さな楽しみだったようだ。
毎日毎日高耶が事細やかに桜の様子を教えてくれるのに、直江は微笑しながら春の
訪れを感じたものだ。なのに、雨が降るだなんて…。
直江としてもそれは残念なことであった。何よりも、高耶の悲しそうな顔は見たくない。
「あ〜ぁ。この分じゃ花見しないうちに散っちまうかなぁ……」
ため息をつきながら肩を落とす高耶に、直江は1つの提案をした。
「高耶さん。では、これから夜桜を見に行きませんか?」
「えっ!? 夜桜っ!?」
大きく目を見開いて驚く高耶に、直江の笑みは濃くなる。
「ええ。明日が雨なら、今日のうちに見ればいい。ね、高耶さん」
「夜桜か……。いいな、それっ。連れていってくれるのかっ? 直江っ」
「もちろんです」
「やり〜っ!!」
とたんに嬉しそうな顔をする高耶に、直江も嬉しくなって口元を綻ばせた。




「……けっこう夜桜って、見に来てる人がいるかと思ったんだけど」
高耶は、車の中からキョロキョロと辺りを見ながら呟いた。
先ほどから窓の外の様子を見ているのだが、花見客らしい人は見受けられなかった。
予想していたのと違っていたので、拍子抜けした高耶だ。都会の事だから、朝も夜も
関係なく馬鹿チャン騒ぎをしていたと思っていたのだが。
「ここは穴場なんですよ。騒がしい所はあなたが嫌がるだろうと思って」
「……よくわかってんじゃん」
「あなたのことですから」
「!? ……相変わらず恥ずかしい男だぜ」
高耶がうっすらと頬を染めて視線を逸すと、直江の忍び笑いが聞こえてきた。
「照れているんですか?」
「だ、誰がっ!!」
図星を刺されて高耶がムキになるのと、車が停止したのは同時だった。
「着きましたよ、高耶さん」
話を逸らされてぶすっとしたまま車を降りると、見事に咲きほこる桜の巨木が目に入っ
た。
「うわぁ……!」
少しの間をおいて桜の木が何本か植えられているのだが、満開なのは高耶達の前
にある桜だけだった。
たった一本。
高耶達の前にある桜の木だけが、綺麗な花を咲かせている。
「すげぇ……!」
先ほどまでの不機嫌はどこにいったのか。
目を輝かせて仰ぎ見る高耶に、直江は満足そうな顔をした。
高耶が喜んでいる。
そう思うだけで嬉しくなる。
「もっと近くに寄りましょう」
「あぁ」
直江は高耶の腰にさりげなく腕を回すと、高耶を伴って木の下に歩み寄った。
木の真下から見る桜は格別だった。淡い色をつけた桜の花が、闇夜に白く浮かび上が
っている。花見の会場となる場所は、よく花見客の為にライトアップされているものだが、
ここは違う。人工的なものは何もなく、あるのは自然に咲きほこる美しい桜の木だけ。
「綺麗だな……」
「来て良かったですね、高耶さん」
「ああ! ……ありがとな、直江」
嬉しそうに目を細める高耶に、直江は微笑んだ。
「……オレさ、実は夜桜って見るの初めてなんだ。桜なんて昼間に見られるから、別に
夜見に来る必要なんてないって思ってさ。それに、誘ってくれる奴もいなかったしな。
……考えてみると、すげぇ勿体ないことしてたんだな、オレ。こんな綺麗なものを今まで
知らなかったなんて」
「私も初めてですよ。こんなに綺麗な桜を見るのは」
そう言いながら直江が肩を抱き寄せたので、高耶はドキッとした。
「きっと、あなたが傍にいるからなんでしょうね。こんなに桜が綺麗だと思うのは」
「な、なおえ…」
恥ずかしいこと言ってんなよ、と呟く高耶の顔が、夜目にもうっすらと赤くなったのがわか
った。
(本当に可愛い人だ)
「高耶さん…」
直江は囁くように名前を呼ぶと、高耶の唇に自分のそれを重ね合わせた。
「!!」
抵抗するかと思われた高耶は、最初こそ驚いたもののその後は意外にもおとなしかっ
た。それどころか、高耶の口腔に舌を挿し入れると自分から絡めてきた。
(高耶さん……)
桜の木に高耶の体を押しつけて下腹に手を伸ばすと、高耶が自ら腕を回してきた。ほど
よく筋肉のついたしなやかな高耶の腕が、たおやかに直江の首に巻きつく。直江は高
耶の唇を甘く吸いながら、ソコに愛撫を送りこんでやった。高耶の体はビクッと大きく震え
たが、やはり抵抗はなかった。
直江は頃合いを見て高耶のジーンズを下着ごと滑り落とすと、彼を高めるために激しく
指を動かした。
「ハ…、ぁ……ん」
合わさった唇の隙間から、高耶のあえかな声が漏れる。握りしめているものの先端から
は白い蜜が溢れ、直江の指を濡らした。直江はその蜜を指に絡みつかせながら、高耶
を高みへと追いつめた。
根本から先端に、何度も何度も強く擦りあげながら大きく反ったものの先端を抉ってやる
と、高耶が背をしならせながら達した。
「あぁ――…っ!!」
達したことによってガクッと足を折る高耶を何なく支えて、直江は耳元に熱く囁く。
「高耶さん、足を上げて」
「ぇ…?」
言われた意味がわからなくて潤んだ瞳を上げると、高耶の返事を待たずに直江の手が
高耶の右足を持ち上げた。
「なお……!!」
恥ずかしい体勢に驚いて顔を上げた高耶は、次の瞬間ビクンと体を震わせた。直江の
右手の指が、高耶の蕾にいきなり入ってきたのだ。
「や…っ、な、おえ……っ」
いきなり深く入れられて、むずがる高耶に直江は言い聞かせるように言う。
「大丈夫。大丈夫だから私に任せて」
直江の長い指は、濡れていたせいか深く挿し込まれても痛みは感じなかった。ただ、思
い切り貫かれた場所で生まれる、グチュグチュという卑猥な音が高耶にはたまらない。
節ばった太い指が敏感な所を擦る度に、高耶は甘い声を上げてよがった。体の最も奥
まった場所に感じる、たまらない快感。高耶は目元を赤く染めながら、いつしか自ら腰を
振っていた。もっと、もっととせがむように。
やがて充分にそこが弛んだのを知ると、直江は指を引き抜いた。銜えるものを失って
切なげに眉を寄せる高耶にキスを送ると、自分の前をくつろげて大きく育ったものを取り
出す。
「なお…ぇ……。…やく……っ」
焦れた高耶が腰を擦り付けてくる。直江は笑むと、高耶の腰を引き寄せて自分のもの
を埋め込んだ。
「あぁ! ……んっ。…ぁ、…あぁっ…イイ、…イイっ! …あ、なお…!
指とは比べものにならないくらい太いものが、高耶の中に入ってきた。熱くとろけた肉棒
が、高耶の中を蹂躙する。いつもと違う体勢に、高耶の体が燃えた。
「あぁん、…あ、ん、…も……っ、ン……、…出…ッ!」
直江の左手に揺すぶられるまま、高耶は嬌声を上げた。
擦られる壁が、直江の腹に潰されているソコが、たまらなく、イイ!!
高耶が幾度目かの嬌声を上げながら直江の肩をグッと掴んだ瞬間、そこは爆発した。
血が逆流するかのような、凄まじい解放感に目が眩む。
「あぁ……!」
高耶の体から一気に力が抜けた。
忙しなく呼吸を繰り返しながら桜の木に身を預けた。凄まじいスパーク感に何も考えられ
なくなって、とにかく流れに身を任せるように力を抜いた。
直江を銜え込んでいる部分が、解放の喜びにヒクヒクと収縮している。それを、遠くの出
来事のように感じていた。
「……良かった? 高耶さん。ココが凄く興奮していますね」
さわさわとそこに指を這わせた直江が、いきなりズンと突き上げてきた。
高耶の口から、か細い悲鳴が上がる。
「アァ――…ッ!!」
とたんにキツイ締めつけにあって、直江の眉間も寄せられる。
「……ッ! 最高、だっ……、たか、や…さん……!」
「なおえ、なおえぇ――っ!!」
高耶の快楽に濡れた甘い声が闇夜に溶け込んだと同時に、その部分に直江の愛の蜜
が溢れた。




「ん…」
高耶が小さな声を上げて身じろいだ。直江は掛けていた上着を手に取ると、高耶の方に
多く掛かるように直してやった。
あれから高耶の中に、想いのたけを注ぎ込んだ直江は、高耶共々その場に崩れ落ちた。
ピクピクと小さく肌を震わせる高耶を引き寄せて、桜の木に凭れる。
高耶は荒い息を吐きながら、直江の為すがままになっていた。
「高耶さん…」
直江が高耶の髪を梳きながら名前を呼ぶと、何度目かの呼びかけで高耶がだるそうに
瞼を上げた。
「直江……」
「……高耶さん、大丈夫ですか?」
「ん…」
気遣いの言葉をかけると、高耶は短くいらえを返して直江に身を寄せてきた。珍しい彼の
行動に直江は驚く。
「今日は素直なんですね」
からかったわけではないのだが、それを聞いた高耶はムスッとした。
「たまにはいいだろっ」
つっけんどんに言う高耶に苦笑して、
「たまにではなく、いつもなら嬉しいんですけれどね」
「調子こいてんな、バカ」
そう口では言うものの、離れようとしない高耶に愛しさが募る。
一房掬い取った髪に直江が唇を寄せていると、ふいに高耶の目が宙に向けられた。
「あ、桜……」
その声に高耶の視線の先を追うと、真っ暗な空から白いものが落ちてくるのが見えた。
ふわふわと風に乗ってゆっくり落ちてきたそれは、地面に吸いこまれるように消えて
……無くなった。
(桜…? いや、あれは……)
「違いますよ、高耶さん。あれは雪です」
「えっ……?」
驚いて空を見上げる高耶の目に、またひとひら白いものが降りてきた。
「雪か…。なんか、すげーいい感じだな。桜と雪が同時に見られるなんて」
自然の織りなす美しい風景に、感嘆の声を上げる高耶。
確かに美しい光景がそこにあった。
真っ暗な空間に浮かび上がる薄紅の桜。そして、淡く発光する春の雪。
高耶の言う通り、桜と雪が同時に見られるのは本当に珍しいことであり、とても貴重な
ものであった。直江も一瞬、感嘆の声を漏らしたほどだ。
―――だが、直江の目には、桜よりも雪よりも、もっともっと美しくかけがいのないもの
が映っている。
闇夜に浮かぶ白い肌、艶やかに濡れた紅い唇。そして、吸い込まれそうなほど綺麗な
色をした黒い髪・黒い瞳。
自分が付けた鬱血の痕も、白く濡れた下腹部も、赤く色づいた奥まった場所も、全て
美しい。
(あなたより美しいものなんて、この世には存在しない)
瞳を輝かせて天を見続ける高耶を眩しそうに見た直江は、自分の懐深くその体を抱き
寄せた。この腕から逃がさないように、しっかりと。
「寒くないですか?」
「……あぁ。平気だ」
(お前がいるから)
寒くなんかねーよ。
高耶は心の中でそう呟くと、優しい男の腕に抱かれながらうっとりと瞳を閉じた。



*back*