Special Day


やっぱカレシカノジョの誕生日って言ったら、デートでキレーなとことか楽しいトコ行って、旨いもん
食って、ホテル行って、Hして、朝まで一緒みたいなとこあるじゃん。や、別にオレはそーいうの、
期待しているとかじゃねーよ。あくまで一般論だぜ? けど、やっぱほら、フツー大抵はそういう流れ
じゃん。Hはまあともかく、キスぐらいはぜってーするって。深い仲ならな。だから、なんであいつが
オレに手を出してこないのか、オレは今、非常に悩んでいる。普段だったら隙あらば手を出してくる
奴なのに、なんでこういう「特別」な日に限って、あいつはオレに手を出さないんだ。オレは別に、
してもいいと思ってるのに。
高耶はベッドの上で膝を伸ばしながら、むう、と膨れていた。
ここは直江が住んでいる、マンションの一室である。
とりあえず昼間はデートして、美味しいものを食べて、プレゼントを渡して、とイイ感じに流れていった
のだが、その後がなんだか変な空気なのである。いや、文字通りの変な空気っていう訳ではない
のだが、「あの」直江が、最愛の人(オレの事だ)と「特別」な日に一緒にいるというのに、キス一つ
仕掛けてこないというのは、変以外の何物でもないではないか、とオレは言っているのだ。こうも
「マトモ」だと、どこか悪いのだろうか、と真剣に心配になる。でも…、と直江を伺い見るが、直江は
普段と変わらない気がする。体に触れてこないというだけで、いつものように優しく、ちょっぴり皮肉
屋で、そして、とても愛しそうに高耶を見る。心変わりなんて、ありえないとばかりに。なのに、だった
ら何故、直江は自分に触れてこないのだろうか。誕生日をダシに、絶対「セックスしたい」って言って
くると思っていたのに。
直江は、二つ並んだベッドの一方に上がり、なんとはなしにつけたテレビを見ている。高耶も隣の
ベッドの上でテレビを見ていたが、一向に甘いムードにならない事に、苛立ちを募らせ始めていた。
いくら好きな人とはいえ、体を重ねるのは恥ずかしい。直視出来ないものを見られ、弄られ、舐めら
れ、穿たれる羞恥と痛みを思うと、簡単には体は開けない。特に男で受け身の立場である高耶に
は、その羞恥は計り知れないものがある。それでも直江だから、と覚悟を決めてやってきたというの
に、こんなんじゃ肩透かしもいいところである。オレの覚悟は一体何処へ行ったらいいんだっ。
そんなこんなで、たわいない会話をしながらも、内心で腹を立てている高耶。よもやこのまま健全
に就寝なんて言った日にゃ、欲求不満で暴れてしまいそうである。や、別にセックスがしたいって
言ってる訳じゃねーぞ! ただ、あいつが、オレに興味を示さないのが、…なんだか、凄く……
悲しいっていうか。
オレがいる事であいつが嬉しいと思うのなら、「最高のプレゼントです」って言ってもらえるのなら、
それだけでオレは嬉しいのに、もう直江はそんな風になんて思ってねーのかな、なんて。いつも
すぐ口に出して言ってくれるだけに、不安になってしまう。与えられるのが当たり前の事を、与えら
れない時ほど不安な事はない。
(あいつは一体……)
はあぁぁ…、と大きなため息をつくと、気が付いた直江が声をかけてきた。
「どうしたんですか? 高耶さん。大きなため息なんかついて」
おまえのせーだよ! と反射的に言いそうになったが、高耶はなんとか言葉を呑んだ。
「ん〜、なんか、つまんねーなって」
「番組変えますか?」
ちーがーう!
高耶は心の中でツッコんだ。
「あ〜ぁ」
高耶はずるずると体を滑らせると、ベッドに横になった。ふかふかの枕に顔を沈めながら、じとっと
直江を見る。それにはさすがに、直江も気がついたようだった。高耶の不満の理由が自分にある、
と。
「…あの。何か、あなたを怒らせるような事でもしましたか?」
戸惑ったように言ってくる直江に、高耶は「なんだかな」と思った。
去勢でもしたかのように、今の直江からはヨコシマなオーラは感じられない。まるで、そういう事を
忘れてしまったかのように。
本気で、今日は望んでいないのだろうか。
自分の誕生日なのに? 
てっきり誕生日だからこそ、無理難題をふっかけてくると思っていたのに。そして高耶は、それらに
応える覚悟で来たというのに。
(なんか拍子抜け)
アレコレ想像してきた自分がアホみたいだった。
(あーもう、めんどくせっ。直江がソノ気じゃねーなら、いいか)
こっちから誘うなんてマネは死んでも出来ない。ならば、今日はこのまま寝てもいいかと思った。
今日はしなくても、明日したいって言ってくるかもしれないし。…誕生日は過ぎるけど。
「オレ…もう寝る」
「高耶さん?」
直江が呼びかけてきたが、なんだか虚しくて返事が出来なかった。掛け布団を頭まで被り、目を瞑
る。今日はもう、このまま寝てしまいたかった。
ぬくもりが得られないのが寂しかったが、仕方ないと自分に言い聞かせて。
「おやすみ」
「高耶さん…」
直江は何か言いたそうにしていたけれど、特に声を掛けるでもなくベッドに横になった。そして、リモ
コンを手に取るとテレビと照明をオフにした。
室内が暗闇に閉ざされる。それと同時に直江に一線を引かれたような気になって、高耶は愕然と
した。自分が拗ねる様子を見せれば、直江が気にして寄ってくると思ったのに。
「どうしたの? 怒ってるんですか?」って聞いてくると思ったのに。
(なんにもナシかよっ!)
フツフツと怒りがこみ上げてくる。物わかりのいい直江なんて直江じゃない。
舌先三寸で高耶を言いくるめて、その卑猥な手付きでエロい行動に走ってこそが直江だというのに。
(こんなのおまえらしくないっ。おまえらしくないっ!!)
高耶はガバッと置き上がると、ベッドに横になっている直江に歩み寄った。そうして目の前に立つ
と、驚きに目を丸くしている直江の胸ぐらを掴んで怒鳴った。
「何やってんだよっ!」
「え…っ!? 何って…」
何のことかわからない、と戸惑いを見せる直江に、ますます怒りが募った高耶は、強引にその唇を
塞いでいた。
「…っ!」
思いきり舌をねじ込んで、口内を貪りつくす。
いつになく反応が鈍い直江に、高耶の怒りは爆発寸前だ。
音を立てて唇を離した高耶は、直江をドンと押し倒した。
「高耶さ…」
高耶は何も言わずベッドに上がると、直江のパジャマに手を掛けた。その目はどこかイッている。
「今日はオレがしてやるよ」
「えっ?」
「おまえはおとなしく寝てろ」
「しかし…」
「いいから黙ってろ!」
高耶はそう言い捨てると、直江の体からパジャマを取り払った。




男らしく、引き締まった裸身が闇夜に浮かび上がる。
高耶は直江の股間に顔を埋め、一心不乱に舌戯を繰り返していた。
いつもなら恥ずかしいその行為も、今日の高耶は何も感じていないらしい。とにかく直江を勃たせよ
うと躍起になっている。
高耶は、上半身を沈め、腰だけを上げている。裸身だったらヤバイ感じだが、今日は高耶からして
いるので、まだパジャマは着たままだ。そんな高耶に物足りなさを感じているのかいないのか、今日
の直江は判断に困る。本当にどうしたというのだろう。ここまでしても、直江は自分からは一向に動
こうとしない。高耶に任せっきりになっている。そんな直江に不安を覚える高耶であったが、だが、
体の方は順調に反応している。
高耶のフェラで逞しく筋を浮かび上がらせた「直江」は、かなり立派に天を突いている。
銜えるのが辛くなって、高耶は直江の大きいものから口を離した。ねと、と引いた唾液が卑猥だっ
た。
「なおえ…」
高耶はプチプチとパジャマのボタンを外すと、直江の目の前で一枚ずつ脱いでいった。
軽く息を弾ませている直江の目が、僅かに眇められる。
「直江」
高耶は膝立ちのまま直江に近づくと、自分の股間を直江の顔に近づけた。
「悪い。少し…、舐めて、くれないか」
今日は全部自分でする、とは言ったものの、直江への舌戯で自分もかなり退っ引きならない状態
になっていた。このまま後ろに直江を迎え入れても良かったが、その前に直江に舐められたい。
少しでもいいから、その唇で挟まれたい。
「直江、たのむ…」
羞恥を噛み締めながら、高耶が直江に哀願する。
ほんの少しでいいから、舐めて欲しい、と。
ぷるん、とペニスを震わせながら、高耶はその細い腰を突き出した。
「……」
目の前に差し出された高耶の男根を、直江はじっと見つめていた。その瞳からは、どんな感情も伺い
知ることは出来ない。もし拒絶されたら、と高耶の胸に不安が過ぎる。こんな娼婦みたいなマネまで
して、直江に拒絶でもされたら自分は立ち直れない。けれど、理性よりも醜い欲望が、今の高耶を苛
んでいる。嫌われるかもしれない可能性より、確実に得られる快感が欲しい。みっともなくても、浅ま
しくても、直江にソコを弄って欲しい。頼むから。
(なおえっ)
「……」
その、高耶の切なる願いが通じたのか。じっと高耶を見つめていた直江は、ややして、目の前にある
ペニスに唇を寄せてきた。そうして徐に、形の良い唇で高耶を銜えてきた。
「!!」
とたん、高耶が快感に顔を歪めた。直江の口内に包まれただけだというのに、何という快感。ハァ
ハァッ、と忙しなく呼吸を繰り返しながら、高耶は無心で腰を回した。直江の口を軸に、卑猥なぐらい
腰を回す。高耶のペニスは、たちまちに膨張した。思わず「もっと…」と続きを乞うた高耶だったが、
直江は軽く舌を絡ませるだけで、それ以上の行為はしてくれなかった。
「なおえっ、…やぁ……っ」
もっと欲しい、と腰を振るが、直江はしてくれない。
なんで? と苦しそうに見ると、直江はペニスから口を離して言った。
「少しだけ、の約束だったでしょ?」
「!」
そうだ。自分で「少しだけ」と強調していた手前、高耶もそれ以上は言えない。
本当はもっとして欲しくて仕方なかったけれど、高耶は諦めた。こういう時の直江は、決して自分の
言うことをきいてくれないと知っていたから。
仕方なく高耶は後ろに移動すると、直江のペニスに自分の入り口を押し当てた。
滲み出ている精液で、ソコを上手く濡らしていく。僅かに当たる感触がやけに心地よくて、高耶の
ペニスはますます大きくなっていった。
「あぁ…、もう……」
自分で腰を揺らめかせながら、高耶が限界だと訴える。
本当は、もう少しソコを潤わせたかったが、もう我慢出来ない。早く入れたくて仕方ない。
あの、大きくて堅いのを。
高耶は覚悟を決めると、上手く膝を使って直江の上に腰を下ろしていった。
「あ、あ、あ……」
ズブリ、とめり込んだ男根が、高耶の細い道を奥へ奥へと分け入っていく。痛みに少しだけ前が萎
えたが、すぐに復活の兆しを見せた。
「あっ、あぁ―――」
やがて、入る所まで入れた高耶は、大きく息を吐いて目を開いた。すると、目の前には優しい男の
顔があった。
「なおえ…」
直江の肩に両手を回し、男根を迎え入れている入り口をヒクヒクと震わせる。すると、言いようのない
快感がこみ上げてきて、高耶は甘く喘いだ。
「あ、ん…。きもちイ……」
「高耶さん」
直江が高耶の頬に手を添え、顔を向けるように促してきた。誘われるまま顔を向けた高耶は、直江
に啄むようなキスをされていた。
(なおえ…)
何も考えられなくなって、ただ本能のまま唇を貪る。
そろり、と腰に手を添えられ、高耶はゆっくりと律動を開始した。
「ふ…、んっ、ん…」
キスをしながら、腰を左右にくねらせる。いやらしいと自分でも思うが、止められない。いや、それどこ
ろか、下からも思いきり突いて欲しかった。そうすれば、一気に高みに上れるのに。
直江、と目で訴えてみる。だが直江は目で微笑むだけで、自分からは動いてくれない。
なんでだよ、と不満が募る。
本当に今日の直江は何もしてくれない。いつもだったら高耶が嫌だと泣き叫ぶまで、ガンガンに腰
を打ちつけてくるくせに。
(直江。直江っ)
突いてくれ、と目で訴えるが、やはり直江は動いてくれない。全てを高耶にさせようとしている。
仕方なく高耶は腰の動きを止めると、キスを解いて直江から体を離した。何をするのか、と見守って
いる直江の腹に手をつき、ゆっくりと腰を上下に動かし始めた。もう、我慢なんて出来なかった。
「あ、あん…!」
絡みついていた男根が、高耶が腰を上下に動かす度に内の粘膜を擦り上げる。強い刺激に耐え
ながら、高耶はゆっくりと腰を上下させていく。
「ん! ふあ…っ」
あ、あんと可愛らしい声を上げながら高耶が腰を上下させるが、穴を穿たれているという事と、両手
で自分の体重を支えるという事が、これ以上の激しい行為に移るのを阻んでいた。
緩い快感は続いたままだが、射精に至る決定打がいつまで経っても得られない。
腕も腰も足も疲れるし、もう無理だ。
これ以上は出来ない。
高耶はぺたん、と腰を下ろすと、悔しさから唇を噛み締めた。
「う…」
じわ、とこみあげてきた涙が、高耶の赤く染まった頬を滑り落ちる。
イきたいのに、イけない。これ以上の辛い事はない。
高耶は顔を伏せると、溢れる涙そのままに泣きだした。
「…んで、だよ……」
どうして、直江は動いてくれないのだろう。やっぱり、今日は高耶とセックスなんてしたくなかったの
だろうか。無理やりコトに及んでしまったから、怒っているのだろうか。それとも、呆れてる? とんだ
淫売だと、愛想つかした?
次から次へと、悪い考えばかりが頭を過る。
こんなにも打ちひしがれている高耶を前に、なんで直江は何もしてくれないのだろう。こんなに近くに
直江はいるのに、その心はというと凄く遠い。
(もう、嫌だ)
これ以上、惨めになりたくなんかない。
合意が無いのにセックスしても、虚しいだけだ。
自分だけ、直江を欲しがって……。
高耶は鼻をすすりながら、自分の中から直江を抜き取ろうとした。
早く体を離して、今日はもう眠ってしまいたかった。
こんな薄情な男なんか、もうどうでもいい。
早く離れて、何もかも忘れてしまいたい。
だが、今までの行為で腕に力が入らなくなっていた高耶は、自分で腰を上げる事が出来ない。そう
でもなくても直江の男根は、高耶の内部に深く突き刺さっているのだ。
「直江…」
もう…、と、高耶が呟いた。
もう、嫌だった。これ以上はしたくない。だから、と言おうとした時だった。今まで傍観を決めこんで
いた直江が、突然高耶を突き刺したまま体を前に起こした。
「え…? ワ…ッ! あぶな…っ! ―――あ、ン!」
ゴロン、と後ろになった反動で、直江のペニスが少し抜け出た。しかし直江はその隙間を埋めるかの
ように、腰を思いきり高耶に打ち付けてきた。結果、高耶の中に思いきりペニスが突き刺さった。
「や…っ! ソコ!!」
ソコは、高耶の弱いところだった。ソコに直江のペニスが当たっている。刺激が強すぎて嫌だ、と訴え
るが、直江は構わず、ズンズンとペニスを突き入れてくる。
「は…ぁ! あ、ン! あ、ぁあ…!」
「高耶さん…」
「あぁ…! や、あ……。そこ、や…!」
「イイ、の間違いでしょう? あなたの、こんなにしているクセに」
直江が思わせぶりに言ってきたが、今の高耶には聞こえない。
凄まじい快楽に、我を忘れている。
「ヒ…! あっ…も、もう…イくっ、もう、……イ、…… あ、あ、あぁぁぁ……!!」
強すぎる刺激に、あっという間に前が爆発した。あれほどイけなかったというのに。
「ふぁ…」
涙で顔をぐちゃぐちゃにした高耶が、荒い息を吐きながら覆い被さってくる直江を見た。
その口元が、うっすらと笑んでいるように見えたのは、高耶の気のせいだったのだろうか…。




それから、どれぐらい経ったのだろうか。
失神から目覚めた高耶が最初に目にしたのは、満面の笑みを浮かべた直江だった。
(な…え…?)
「高耶さん、大丈夫ですか?」
「ん…」
直江の優しい声に、高耶は小さく頷いた。けれど、大丈夫っていう程ではなかった。
(喉イテー…)
喉がカラカラになっていた。何度か唾液を呑み込んで喉を潤わせると、高耶は漸く直江を見た。
すると、
「高耶さん、今日は有り難うございましたっ。最高の誕生日プレゼントでしたよ♪」
「…………へ?」
ちゅ、ちゅ、と頬にキスを降らせながら、直江が「ありがとうございます」を繰り返している。
訳がわからなのは、高耶だ。
「な、なんの事だ?」
頭が混乱している高耶は、自分で答えを導き出せず、直江に説明を求めた。すると直江は、
「今日のあなた、とっても素敵でした」
と、ハートマークを無数に飛ばしながら、高耶にキスを落とした。
「……え?」
素敵、でしたって……。
あんなにも、セックスに乗り気じゃなかったというのに、何? この喜びようは。
しかも直江は、高耶の今日の行動に感激しているみたいではないか。
「お、おい、おま、何言って…」
と、呟きながら、高耶は嫌な考えに支配されていた。
まさか、と思うけれど。
いや、まさか、まさかまさか!
(まさか!)
「おまっ、オレを騙して…っ」
ご名答、とばかりに直江が笑みを濃くした。
そうなのだ。
直江が今日一日、高耶に全く手を出さなかったのは、こうなる事を狙っての事だったのだ。
スキンシップに慣れている高耶が、好きな人から全くスキンシップされなかった場合、高耶がどう思
うのか。そしてどういう行動を取るのか、を「直江の誕生日」という特別な日を狙って直江が実践し
てみたのだった。結果高耶は、直江の思惑通りイラつき、キレた。そして直江はというと、そのキレ
た高耶によって最高の思いをする事になったのだった。
「あなたが寝るって言った時は、どうしようかと思いましたが」
なんて言ってる直江の顔は、とろけきっている。どうやら高耶から積極的にしてくれた事が、本当に
嬉しかったらしかった。
「その後、ねえ?」
と、高耶に同意を求めてくる。
ニコニコしながら、「幸せでした」と言う直江に、高耶はひく、と顔を引きつらせていた。
つまり、そういう事なのだ。
(今日一日、なんか変だと思っていたら、)
「そういう…コトかよっ」
高耶がワナワナと肩を震わせた。高耶は、まんまと直江に騙されたのだ。これが怒らずにいられよう
か。
グワァ、と怒りのまま手を振り上げた高耶は、だが、その手を直江の体に回すと、
「……あんま、そーいう事すんなよ」
と、小さく呟いた。
「え? 高耶さん?」
戸惑った顔をする直江に、高耶はぎゅうっとしがみついた。
直江に愛想つかされたのか、とこっちは本当に辛かったのだ。それなのに、こんなの酷いではない
か。人を騙して……。
「直江の馬鹿やろう…っ」
「え? え? 高耶さんっ」
高耶は、直江の背に爪を立てて「馬鹿野郎」を繰り返す。怒っているんだ、と高耶は何度も直江を詰
った。すると直江は、さすがにやり過ぎたと反省したのだろう。そっと、その腕の中に高耶を抱いて
くれた。
「すみませんでした、高耶さん。あなたがそんなに辛く悲しい思いをするなんて、これっぽっちも思っ
てなかったんです。むしろ、何の反応もしてくれなかったらどうしようと、こちらが辛くて仕方ありませ
んでした」
「……っ」
高耶がぎゅうっとしがみついてくる。
それに、直江の罪悪感が刺激された。
「本当に、すみません…。自分の欲望の為に、あなたを騙すような事をしてしまって」
本当に、すみません。
そう言って強く抱きしめてくる直江の腕の中で、高耶は拗ねたように顔を埋めた。もう、こんな事、
すんじゃねーぞ、と言わんばかりに。
それに、直江は抱きしめる事で高耶に謝罪をした。
もう、二度とあなたを傷つけない。騙すような事はしない、とその腕に力を込めて。
(高耶さん、愛してるんです)
が、次の瞬間、高耶はガバッ! と思いきり顔を上げた。結果、高耶の頭がガン! と直江の顎を
直撃した。
「ガ…!!」
「はっはー! 引っかかった〜〜!!」
「……なっ!? えっ!!?」
顎を押さえて「何?」と目を剥く直江に、高耶はべーっと舌を出した。
引っかかった、引っかかった! と高耶は大はしゃぎである。
「た、高耶さん!?」
一体!? と目を剥く直江に、高耶は小悪魔的な笑顔を向けてきた。
「けっ。騙されたままなんてしゃくだからなっ。これでおあいこだっ」
「え? あおいこって…。ちょっ、高耶さんっ!?」
まさか、私を騙したんですか!? と抗議する直江に、高耶は勝ち誇った笑み。
いくら直江の誕生日といえど、やられっぱなしなんて冗談じゃない。
やられたらやり返す。
それが、オレのモットー。
「ひ、酷いです。高耶さんっ。私の誕生日なのに〜」
と、情けない顔をする直江に、目を細めて笑う高耶。

でも、誕生日おめでとう、直江。
お前がいてくれて、本当に良かった。

愛してるぜ? 直江。



*back*