好きだから、仕方ない


誘われたのは、バイトを終え、帰り支度を始めていた時だった。ちょっと寄って行こうぜ、
と声をかけてきたのは、高耶と同時期に勤め始めた田口だった。そういえば最近飲み
に行ってないなと思っていると、それが顔に出たのか田口は、
「んじゃ、決まりな!」
と強引に決めてしまった。それに僅かに不満の声を漏らしたが、別に断る理由もなく、
高耶はバイト仲間達と夜の繁華街へ繰り出したのだった。
が、高耶はここに来たことを激しく後悔していた。
野郎同士の飲み会とばかり思っていたのに、行ってみたら女性が数人。どうやら合コン
らしかった。
まぁ、別に女性がいても構わないのだが、香水の匂いでもつけて帰ったら後が怖い。高
耶はなるだけ女性陣に近づかないようにしていた。
けれど、酒が進むにつれそうも言っていられなくなった。
合コンが目的だけあって女性達は積極的だし、バイト仲間の田口とかもやけに背を押す。
「いいって。よけいなことすんなよ」と、断りを入れても酔っぱらいには効かず、高耶は次第
にもみくちゃにされていった。
「あー…。サイアクだ。こんな状態で帰ったら直江が……」
思わず呟いた時だった。隣でゲラゲラ笑っていた田口が聞きとがめ、こちらに身を乗り出
してきた。
「なになに? 仰木。なおえって誰だよ?」
「ゲッ! 田口。んだよ。聞いてんじゃねーよ」
しまった、と思った時は遅かった。田口は目を爛々と輝かせると、馴れ馴れしく肩に腕を
回しながら人の悪い笑みを浮かべた。
「別にいいだろ。それよりなに。お前、彼女いたの?」
「そんなんじゃねーよ」
「じゃあ、なおえって誰だよ」
酒臭い息で詰め寄られて、高耶はゲンナリした。それに、他のメンバーも聞き耳を立て
ているのがありありだ。このままここに長居したら、何を言わされるかわかったもんじゃない。
(潮時だな)
高耶は決断すると、
「悪ィけど、オレ帰るわ。あと、よろしく」
田口を振り切るようにすっくと立ち上がると、とたんにブーイングの嵐が起こった。田口が
「お前が帰っちゃ意味ねーだろ」と散々喚いていたが、高耶は無視して店を出たのだった。



6月に入り、大分気温が上がった。それでも夜は涼しい気がしたのだが、ただ単に曇って
いるから涼しいだけなのかもしれない。
いつもなら薄紫色の大空が、今日はやけに黒い。
時折、空が光るのは雷が鳴っているからだ。
雨が降らないうちに、と思っていたらポツポツと降り出してきたので高耶は慌ててバイクに
跨った。
飲酒運転になるが構っていられない。
高耶は高くアクセルを踏みならすと、雨の中、直江が待つマンションへとバイクを走らせた。



「ただいま」
マンションに着いたのは午前2時頃だった。
もっと早くに帰るんだった、と高耶は後悔した。
途中土砂降りにはなるし、酷い雷で雨宿りを余儀なくされた。
直江には度々ケータイから連絡は入れたが、家の中に入るのが少し怖かった。
(怒ってる……だろーな、やっぱ)
電話でのやり取りでは直江はいたってフツーのようだったが、ポーカーフェイスが上手い男
の事だ。油断は出来ない。時間も時間だし、なによりこの状態では……。
高耶はずぶ濡れになったTシャツを指で摘んでみた。水を吸って重くなったシャツから水が
滴り落ちる。
はぁ……。
と、深い息を吐いて高耶は玄関に向かった。
中に入ると、リビングと浴室に電気が灯っていた。そ〜っと部屋を覗くと、直江がいきなり
睨み付けてきたので「ひゃっ」と首を引っ込めた。
(や、やっぱり怒ってやがる〜〜〜)
なんであんな誘いに乗っちまったんだろう。
大して面白くもないのに。
激しく後悔してみてもどうしようもない。高耶ははぁ〜とまた深い息を吐くと、取りあえず
直江を避けて風呂に入ろうと足を出した時だった。
「高耶さん」
いきなり後ろから手を捕まれて、高耶は驚いた。
「な、なおえっ」
(ヤバイ。捕まった! 怒られるっ)
だが意に反して、怒声は降ってこなかった。それどころか正面から抱きしめられて高耶は
息を呑んだ。
(なおえ……)
「高耶さん。心配したんですよ。なんでこんなに遅くなったんです」
男の声はとても静かだった。それに高耶も項垂れると、
「あ、悪ィ……。雨が酷くて……」
まだ外では酷い嵐だ。ゴロゴロと雷が鳴り響く中、高耶と直江は抱き合った。
「それならバイクを置いてくればいいんです。私が迎えに行きますから」
「そんなんいいって。大して遠くもねーんだから」
「けれど、あなたに何かあったら…」
言って言葉を詰まらせる直江に、心配させてしまったことを痛感した。
夜の雨は不安をかき立てる。雷が鳴っていれば尚更だ。だからだろうか。いつもよりも直江
は過保護になっているようだ。しかし、実際帰ってくる途中に何度も怖い思いをした高耶とし
ては、そんな直江の気持ちが理解できてしまうのだった。
申し訳なくなって背に腕を回すと、強く抱きしめられた。
大きくて温かい手。
大人の男らしい逞しい腕に抱きしめられて息が詰まる。
同性に対してこんなに感じてしまうのは異常だろうか。けれど、人の気持ちに嘘はつけない。
高耶は直江の広い胸でしばらくうっとりと身を委ねていたが、直江の衣服が濡れ始めてきた
のにハッと身を起こした。
「直江っ。濡れるっ」
「このままでは風邪をひきますね」
「じゃあ……」
暗に一緒に風呂に入りましょうと言う直江に、高耶はカッと顔を赤らめた。そんな高耶に直江
はニッコリと笑うと、
「えぇ。あなたの体についた、香水の匂いを落としてあげますよ」
「―――えっ!?」
(な、に?)
言葉に含まれたニュアンスに顔を上げると、直江は怖いくらいに綺麗に笑んでみせた。




「ぁ……、ん、あ……」
湯気が籠もる中、壁に追いつめられ、高耶は直江の餌食になっていた
逃げようにも足腰が言うことを利かず、また下肢を捕らえられているので高耶は喘ぐしか術が
なかった。
やっぱり、直江は怒っていた。それも静かに。感情を表に出さない分怒りは深かったらしく、
浴室に入ったとたん下肢を捕まれた。ビクッと体を震わせたところを押され、壁に押しつけ
られた。
直江は他には一切触らず、分身だけを性急に高めていった。
浴室は響くからとか、夜も遅いからと高耶は声を出さないように我慢しているのに、それを
あざ笑うかのように激しく舌を使われ、高耶は涙を滲ませながら直江の色素の薄い髪を
鷲掴んだ。
「なんでこんなに香水の匂いをプンプンさせているんです? 女と一緒だったんですか?」
「ぁ、…あぁっ」
袋を揉み込まれながら分身に歯を立ててくるのでたまらない。
勢い余って直江の髪を思い切り引っ張ってしまったが、それでも直江は止めず熱心に舌を
絡めてくる。
「飲みに行っただけだったんじゃないんですか?」
「ん、んんっ、や……ぁ、もぉ……!」
直江の言葉の意味なんて、理解できない。
感じすぎておかしくなりそうだ。
アルコールがまだ体の中に入ってるからか、今日は酷く感じてしまう。
荒々しい直江も常ではなく、そんな「いつもと違う」シチュエーションが高耶を狂わせていく。
直江は怒っているというより焼き餅をやいていると言った方が正しいようだ。言葉で責めて、
指や舌で攻めて…。
いつしか窓を叩く雨よりも大きな声で喘いでいる自分を、高耶は知った。
(もぉ、おかしくなる………!)
ビクン!と大きく体を跳ねさせた時だった。高耶の前から精液が飛び散って、直江の口腔を
潤わせた。そのまま脱力して座り込む高耶の足を広げ、現れたソコを凝視する。
高耶はまだ射精の余韻に浸っていて、気がつかない。
荒く上下する胸と共にソコをヒクつかせている高耶を、直江は熱いまなざしで見ている。
「こんなに私に感じているくせに、他の誰かの匂いをつけてくるなんて……」
考えただけで腑が煮えかえくりそうである。
淫乱な正体を見極めるかのようにソコを凝視していると、息が整った高耶がうっすらと目を
開けた。直江は待っていたとばかりにソコに舌を這わせる。
「あっ! んっ、やぁ………、ま、だ」
折角落ち着いたというのに、また強引に連れて行かれそうになって、高耶は拒絶するように
直江の髪を引っ張った。しかし直江はグイと高耶の太股を広げ、更に奥に舌を忍び込ませる。
「ぁん、…アアっ……な、お…」
一度萎えたものが力を取り戻し、雫を滑らせる。
直江の唾液と相まってソコを潤ませる感触に、高耶は涙をこぼしてよがった。
「んっ、も……! 入れて、くれよ……っ」
このまま焦らされると本当に狂ってしまう。そんなのじゃなく、直江の確かなもので貫いて
ほしかった。
切にそう思って懇願するように直江を見ると、直江はようやく笑みを浮かべた。
「まだ香水の匂いを消していない」
そう言って肩口にキス。
「あなたの体を清めていない」
今度は首筋にキス。
「あなたを、まだ愛していない」
そう言って今日初めて唇にされたキスはとても甘くて、高耶は貪るように舌を絡めた。その
まま抱き寄せられ、直江の膝を跨がされる。勃起したものが直江に当たって恥ずかしかった
が、それよりも今すぐ直江を感じたくて、高耶は自ら腰を上げた。直江に導かれそれを中に
沈める。
大きくて堅いものは高耶の中に食い込まれ、その中で存在を主張する。すぐにでもイキそう
になるのを耐えて腰を上下すると、信じられない快感が広がって、高耶は直江の首に腕を
絡めたままようやく得られた甘い夜を堪能した。




「もう匂いしねーだろ…」
いつまでも胸元にキスを繰り返す直江に、高耶は呆れ半分呟いた。
あれから気が済むまで愛し合った後、高耶がクシャミをしたのを機に湯船に浸かった二人だ。
大の大人が一緒に入るには狭かったので、さきほどの体位のまま湯に使っていた。アレは
もう入れてはいないが。しかし、今度はやけに構ってくる直江に高耶は辟易気味だ。
そう何度も何度も愛撫されては、また熱がぶり返してしまう。直江に全てをくっつけている
手前、気を紛らわせるのが大変だ。
高耶はむーと唇を尖らせたり、睨んでみせたりするのだが、それが上目遣いの為、効果は
発していない。どころか逆効果である。
(カノジョはいねーけど、オレにはどうしようもない奴が一人…)
うっすらと明るくなる浴室で、今日何度目かの深いため息を、高耶は落とさずにいられないの
だった。


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