バレンタインパニック


バレンタインも近づいたある日、高耶がこんな事を言い出した。
「なぁ、直江。……アレ、しねぇ?」
その瞬間、アレ=Hに一発変換した直江は思わず嬉しそうな声を出してしまった。
「……えっ?♪ アレですか!? こんな真っ昼間から! いえ! 私は全然い
っこうに構わないのですが、あなたが嫌がるだろうと……、いやいやいや、いいで
しょう、やりましょう、ガンガン! 今すぐ。さぁ!」
言っているうちにソノ気になったのか、直江の目には闘志が宿っている。すぐに
でも高耶を押し倒しそうな勢いに、高耶は慌てて後ずさった。
「バ、バカ! 違うって。そうじゃないっ」
「またまた。いいんですよ。恥ずかしがらなくても。わかってますって」
(わかってねぇのは、お前だ!)
なんて心の中で叫んでみても通じる訳がなく、聞く耳持たない男はぐぐっと顔を
近づけてくる。高耶は今更ながら言い方を間違えた事に気がついた。
(ヤ、ヤバイ。こいつ、ソノ気だ)
ぐっと腰を引き寄せられ冷や汗が出る。
直江とのセックスは気持ちがいいから嫌いではないが、今高耶が言いたかったの
はセックスの事ではなく、もっと別の……。
だが、一度高ぶった男の熱はそう簡単には収まらない。
いいように直江にのし掛かられた高耶は、結局ここで一発されてしまった。



時は流れてバレンタイン当日。
直江にあるものを買わせた高耶は上機嫌だった。
というのも、高耶はずっと前からこれがしたくてしたくて仕方なかったからだ。先日
は思いついたまま言ってヒドイ(でも気持ちイイ)目に遭ってしまったが、これを買っ
てもらえたので良しとする。例え少額でも、出来れば自分のサイフは使いたくない、
そんなお年頃の高耶。そんなこんなで直江に買ってもらって、上機嫌で自宅に帰
ってきた高耶は鼻歌を歌いながらキッチンに入った。中身をテーブルに並べ、一通
り作り方を読み終えた高耶は、早速準備に取りかかった。
「えーと、 刻んだチョコレートを湯せんにかけて、と」
その間に、マスカルポーネチーズを耐熱の器に入れ、レンジでチンする。なめらか
なクリーム状になるまでよくかき混ぜてから、溶かしたチョコレートを入れた。
そうしてかき混ぜて完成したのは、そう、チョコレートフォンデュソースである。
高耶はにんまりと笑うと、ウキウキ♪ とそれをリビングに運んだ。
「直江ー。やるぞ〜」
呼ばれてやってきた直江の前には、フォンデュソースが入っている器と、果物一
式。それにマシュマロやビスケットもある。
「……甘そうですね」
甘い物が苦手な傾向にある男は、匂いだけで辟易気味である。それをものともせ
ず苺にチョコを絡めた高耶は、早速ぱくんと口に頬張った。
「んまいっ」
よほど上手いのだろう。ほっぺたがとろけそうになっている。
相伴するのはキツいが、高耶のこんな顔を見られるのは嬉しいかもしれない。
どれ、と直江が取ったのは一口サイズのマシュマロだ。直江はフォンデュソースを
付けると、高耶の口元に運んだ。
なにするのか、と見ていた高耶に、直江は幸せそうに笑んだ。
「はい、あーん♪」
とたんに高耶が目を剥くが、直江に一式を買ってもらった手前(とチョコレートの誘
惑に負けて)、高耶はしぶしぶといった風に口を開いた。
優しく押し込む直江の指と、高耶の肉厚の唇。
それらが触れ合った瞬間、思わせぶりな視線が交錯した。
だがその緊張はすぐに破られる。
「……次は〜とっ、これ食ってみっかな」
肩すかしである。唸る直江を後目に高耶が取り上げたのは、指の形に似たフィン
ガービスケットであった。その名の通り棒状のビスケットで、両端は丸みを帯びて
いる。
直江は思わず鼻血を吹きそうになった。
(た、高耶さん、それ犯罪ですッ!)
いや、ウインナーでも犯罪だけど、などと一人ツッコミしている間に、フィンガー
ビスケットは高耶の口の中に入っていく。
(あぁ! あんなにお口いっぱいに頬ばって!!)
「アレ」よりは断然細いが、指よりは太い。色形からなんとなくヨコシマな想像をし
てしまう直江信綱33歳。
気を取り直して、
「た、高耶さん、次はこれなんてどうですかっ?」
声を上擦らせながら指し示したのは南国の王様、バナナである。しかも、なかな
かの力強い撓り具合である。
なんとなく意図を察してジト目になる高耶に、直江はさあさあとにじり寄ってくる。
「ひ、ひとりで食えるって」
「そんな事言わずに」
さぁ、と眼前に差し出され、高耶はプイと顔を反らした。直江の考えていることなん
て、わかり過ぎている。バナナをアレに見立てて、こっそり楽しむに違いない(ていう
か、フィンガービスケットの時点ですでに愉しんでいたが)。頑なに顔を反らす高耶
に、敵もさることながら。
「いらないんですか?」
「!」
「食べてしまいますよ」
チョコバナナは高耶の好物だ。これがチョコフォンデュの一番の狙いだと言って
もいい。それを知っていて、直江は食べようとするのか?
ムカついて睨み付けると、それに苦笑した直江が再びバナナを差し出した。
「……っ」
だからといって、すぐに食べられる訳がない。
好色そうな目が自分を見つめている。いかにも楽しんでいます、な直江にギリ、と
奥歯を噛みしめた。そんな高耶を後目にソースを絡めた直江は、わざとらしく自分
の口に運ぼうとした。
(あっ!)
高耶は咄嗟に動いていた。
何も自分で作れば済むことなのに、これは一種の条件反射といってもいい。果た
してチョコバナナをゲットした高耶は、そのおいしさにうっとりした。
(うまいっ)
出来立てのチョコバナナだ。バナナの柔らかさと、口にとろける温かなチョコレート
に高耶はご満悦である。あぁ、生きていて良かった〜〜なんてお手軽な事を思い
ながら直江を見ると、直江は、ちー、とスラックスのファスナーを下ろしているでは
ないか。
「……ぶっ! って、おっ、おまえっ、何してんだよ!」
明らかにいかがわしい行為をしようとしている直江に、高耶は怒鳴りつけた。
「あ……、折角ですからあなたにオリジナルのチョコバナナを」
「! バ、バカかっ、お前!! そんなんいるかっ!」
顔を真っ赤にして怒鳴る高耶に、直江は悲しそうな顔をした。
「そんなに、嫌ですか?」
「当たり前だろ! てか、嫌とかいいとか、そういう問題じゃなくてだなぁ!」
「そんな…」
直江はしゅん、と項垂れとしまった。デカい図体のくせに、まるで叱られた子犬の
ようである。小動物に弱い高耶は、思わずきゅう…んとなってしまう。
「いいから。ソレ、しまえ? なっ」
優しく諭す高耶に直江は項垂れたままだ。キツく怒鳴り過ぎたかな、と反省した
高耶を、いきなり狂犬化した男はガバッと押し倒した。
「なななな、直江サン……?」
(ヤバい。キレたか!?)
冷や汗を流す高耶に直江はにやっと笑うと、手を伸ばして自らの手をチョコフォン
デュに突っ込んだ。そして、そのチョコまみれの手を股間に持っていき……。
高耶は顔色を無くした。
直江が「ピー(放送禁止用語)」にソースを塗り始めたからだ。
「な、な、なにを……」
「やはり諦めきれません。あなたに、コレをくわえさせてあげたい…。さぁ、高耶さ
ん。いっ…ぱい食べて♪」
目の前に突き出される茶色い一物。
さっきのバナナより食べ応えはありそうだが、ってチガウッ!
高耶はいやいや、と頭を振ったが、それでオリジナルビッグチョコバナナが去る
わけではない。必死の攻防戦の上、軍配が上がったのは直江の方だった。
「ん、む……」
無理矢理くわえ込まされた高耶は、キツく眉を絞っている。しつこいようだが、ビッ
サイズなのだ。しかもチョコまみれの。顎が辛いし、いや、それよりもこんな変態
じみた行為……!
しかし、チョコレート味の×××は、なかなか新鮮だった(←え…?)。
直江の、ペニスが甘い(上で伏せているイミないし)。背徳的な行為に興奮を覚え
る。
今、直江のものを食べているんだ。という意識が、高耶を高ぶらせた。
高耶はソコから全てチョコを舐め取ってしまうと、今度は自からフォンデュソースを
直江のそこに塗っていった。棒だけではない。その下の両の袋にもまんべんなく
チョコレートをくっつけると、高耶は飢えた幼鳥のように食らいついた。
「あ、あぁ……。イイ、です。たかや、さ……。もっ……、もっと…キツく」
高耶の上で直江が悶える。
それに一層興奮を覚えた高耶は、本能のまま食らいついて直江を吐精させた。
「あ……」
口元を汚した高耶を、直江は優しく抱き寄せる。よく出来ましたと言わんばかりに
頭を撫で、高耶のジーンズをずらす。そうして最小限高耶の肌を露出させた直江
は、自らの唾液を指になすり付け、高耶の入り口をこすり始めた。
「アッ! ……ん、ぁ!」
ヌルついた指が、ソコを何度も擽る。焦れったさから爪を立てると、食らいつくよう
なキスが降ってきた。
「んっ……む、」
卑猥に舌が絡みつく。息がつけない苦しさから高耶は逃れようとするが、直江の
執拗な唇はどこまでも追いかけてきた。
「あっ…も、……くる、し」
強引な唇に、焦れったい指。思い通りにならない悔しさから、高耶の目尻に涙が
盛り上がった。
「なお……」
たまらなくなって自ら唇を求めた時だった。
今まで戯れに終わっていた直江の指が、ぐぐっと体内に入ってきた。
「!」
濡れた感触が羞恥を誘う。だがその一方で、ようやく与えられた「肉」に悦びを
感じてしまう。
「あ、……アァ――! もっ……とぉ」
直江の上で、胸を反らす高耶。
いつもと違って、服を身につけているのがいっそ淫靡だった。肌は臀部しか晒して
いない。そこに忍び込んだ指が出し入れを繰り返し、高耶を切なく泣かせる。
すぐにはイかせないつもりか、直江はなかなかポイントを突いてくれない。イきたい
のにイけない。中途半端に煽られた高耶は、顔を真っ赤にさせながら涙をこぼした。
「ヤ、だ…。なお……っ。これ、取っ……。取って……れ」
前は身につけている状態だ。成長を阻まれた「高耶」が苦しげに泣き出す。更に、
後ろに指を入れられているせいで、思うように力が入れられない。
腰を上げることもできず苦悶する高耶に、直江は眉を下げた。
「すみません……。少し、イタズラが過ぎましたね」
お詫びに額にキスを送ってから、高耶を押し倒しジーンズを下着ごと抜き去った。
敏感になっていた高耶は、その引き下ろしにも過敏に反応してしまう。見ると、棒の
脇を白いものが伝っていた。
「おやおや。可哀想に」
言葉とは裏腹に嬉しそうな顔をした直江は、高耶の勃起したオスを戸惑いもなく
口にくわえ込んだ。舌と歯を使って、心地よい刺激を送ってやる。
「あ、あ……」
快感に身をよじらせ、むせび泣く高耶。直江は高耶の足を大きく開くと、フォンデュ
ソースを手にとって聳え立つ塔に塗り始めた。
「! な、なにして……!」
「折角だから、あなたにも」
「バカッ! やめろっ」
「あなたの場合は、どちらかというとマーブルチョコレートですね」
白いのと混じって、斑になった幹を丁寧に舐めてやる。ザラザラとした舌の感触が
たまらない。直江の変態行為に涙が浮かぶが、ペロペロと舐められるとたいへん
気持ちが良く、いつの間にか高耶はぽやんといい気分になってしまった。
(あぁ……、すげー、イイ……)
今日はバレンタイン。これもチョコレートをやった事になんのかなぁ。
(って、これって非売品だよな)
そんな事を考えていたら、いきなりに後ろに舌が入ってきた。驚いてキュッと引
き締まった穴を、直江が小刻みに舌でノックする。その刺激に感じて開いた所に、
舌は遠慮なく入ってきた。
「アァ……! んっ」
たまに、前に続く場所を舐められる。
ぶるぶると震え始めた太股に熱い息がかかって、動物じみた行為をしている自分
達によりいっそう興奮した。
「あ、……んっ! もぉ……欲し…」
チョコよりも、お前が欲しい。
お前の熱いもので、疼く穴を貫いてほしい。
自ら手を伸ばして、高耶は堅くなった自身を握った。何かに縋ってないと、あられも
ない声を出してしまいそうだった。
そんな高耶を見ていた直江は、グッと太股を持ちあげると大きく開ききった所に
切っ先を宛った。
(あぁ……、なおえ…)
挿入ってくる予感に瞳を潤ませる。先ほどまで自分が上の口でくわえていたもの
だ。あれが挿入ってくるのかと思うと、ゾクゾクする。期待に唇を舐め、全身から
力を抜いたところで男の力強いものが押し入ってきた。
「あっ……、んぁ…!」
内部が熱い。男のバナナに串刺しされ、ようやく満足した高耶は本能のままよが
り狂った。
「あ、…あっ…」
「高耶、さんっ、サイコーです」
高耶の狭間を、チョコレートでぐちゃぐちゃになったものが出入りする。ぬるっとした
感触がたまらない。激しい男に翻弄されながら、チョコまみれのセックスは、それ
から何時間も続いたのだった。



「ん……」
口に押し込まれた甘いものよって、高耶の意識は浮上した。
目を開けると男が一人。
ベッドの傍らから高耶を覗き込んでいた。
「直江……」
「お目覚めですか、高耶さん」
「これ……」
口の中に入れられたのは、チョコレートだった。直江が高耶用に買ってきたバレン
タインチョコレートなのだろう。疲れた顔で見上げた高耶の頭を、直江は優しく撫で
てやった。
「疲れている時には甘いものがいいんですよ」
男の深い声が心に沁みる。愛されている自分に幸せを感じて、うっとりと目を閉
じた。
頭を撫でる大きな手。
父のものにも似て、でも全然違う。誰よりも愛している男に優しくされて、夢見心
地だった高耶は次の瞬間ハッ! とした。
いかん。流されてはいけない。
高耶は気持ちを切り替えると、
「それはそうと、よくもお前……」
高耶は思い出した。先ほどされた散々な行為を。あまりの卑猥さに、今更ながら
顔に血が上る。
とたんに凶暴な目つきになった高耶に、直江はマズイとばかりにひきつった笑み
を浮かべた。
「ま、まぁまぁいいじゃないですかっ。………あなたも悦んでいたくせに
最後は小声で言う直江に、高耶は声を荒げた。
「直江ッ!」
「ハイ!」
先ほどまでの甘い時間はどこに行ったのか。
高耶に睨まれた直江は、その大きな図体を縮こまらせた。
「そんなんじゃ許さねーぞ。チョコフォンデュを楽しめなかった恨み、お前に晴らし
てもらう」
てか、問題はそこなんですか、仰木さん;;
「よって!」
「は、はい」
何を言い出すんだろうと、ビクビクしていた直江に突きつけたのは、意外にもこ
んな条件だった。
「今夜は、朝までオレと一緒に寝ること」
「はい……って、え!?」
驚いて顔を上げた直江に、高耶はイタズラっぽい笑みを浮かべた。
「朝まで腕枕しろよ」
暗に許してやると言っている高耶に、直江も顔を綻ばせた。
「はい! 喜んで!!」
やっぱり好き。愛してる。
愛しさに包まれながら、バレンタインの夜は更けていくのだった。



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