| 夜ひらく華
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入浴を済ませた直江がリビングに入ると、高耶がつまらなそうにテレビを見て いた。 「高耶さん、何を見ているんですか?」 いつもは食い入るようにテレビを見ている高耶だ。そんな彼が、今日はどことなく 面白くなさそうに見ている。それに興味を引かれて尋ねると、高耶はソファに深く 凭れたまま答えてきた。 「んー? なんかいいの無くてさー。とりあえずバラエティっぽいの回してんだけど」 言いながら渋い顔をする高耶。つまらなさそうだ。 「面白くないんですか?」 「まぁな。なんか、くだらないのばっかり。……あぁもうっ、違う所にしよっ」 高耶はリモコンを手にすると、適当にチャンネルを変えてみた。が、タイミングが 悪かったみたいで、どの放送局でもCMが流れている。仕方なく様子をみてみる と、次の瞬間画面いっぱいに蒼色が広がった。 何のCMだろうか。水の中で若い男女が肌を寄せ合って見つめ合っている。 二人ともずぶ濡れだった。男性の胸もとはシャツがはだけていて、そこから見え る小麦色の肌に滴が光っていた。と、妖しく絡ませた女性の白い腕が、青年の 細い腰を引き寄せる。青年は引き寄せられるまま女性の体に密着すると、妖艶に 微笑んだ女性の紅い唇が、薄く開いた青年の唇に吸い寄せられていった…。 CGを使っているのだろう。普通目にすることは出来ない水の動きを美しく表現 していた。そして、その濃いブルーの中に絡み合う若い男女。特に女性の紅い 唇が艶やかに光るその様は、とても色っぽいものだった。ブラウン管の前の男 どもの欲情を煽るのには充分なほどに。青年の方は完全に引き立て役であっ たが、ところどころに見せる涼やかな眼差しは息を飲むほど美しかったし、少し 乱れた衣服が危険な匂いを漂わせていた。幻想と妖艶を兼ね合わせた、なか なかの力作だ。知らず知らずのうちに、高耶も画面に釘付けになる程だった。 新しいCMなのだろう。高耶も直江も初めて見るものだった。 直江は高耶の真向いのソファに座ると、同じように画面を見やった。 「口紅のコマーシャルみたいですね。最近のコマーシャルはなかなか凝っていま すねぇ。思わず目が引きつけられてしまいます」 その言葉に高耶は顔を上げた。 「何だよお前。あぁいう女が好みなのか?」 どこか咎めるような言葉に直江は微笑んだ。 「おや、焼いているんですか? 残念ながら、あぁいった女性には興味ありませ んよ。……そうですねぇ。どちらかというと、相手の男性が気になりますねぇ」 考えるように言った直江に高耶は凍りついた。 (なに!?) 「おまっ…」 顔を引きつらせて絶句した高耶に、直江は失言だった事に気づいた。 「た、高耶さん誤解ですっ。私が興味あると言ったのは、あの青年があなたに 似ていると思ったからですよ」 慌てて言いつくろう直江を疑わしそうに見ていた高耶だったが、最後の一言で きょとんとなった。 「似てる? オレに?」 「ええ。あなたの魅力には遠く及びませんが、艶やかな黒髪に健康そうな肌、 どこか野生的で且つ切れ長の瞳が高耶さんを思い起こさせられます」 恥ずかしい単語を連発した直江に高耶は照れた。 「…ふ、ふぅん。そんなもんかねー」 「ええ。ついでに言いますと、あぁいう色っぽい格好を、ぜひ高耶さんにさせて みたいですね」 「……はい?」 「ですから、高耶さんに…」 「わー、わー! わかったってっ。何度も言うな、アホ!」 高耶は顔を赤らめると、額を抑えた。 (……たくっ。まぁた悪い病気が始まった。何で奴はオレにいろいろさせたがる んだよ。……マニアかっ!) 高耶は心の中で罵ると、ため息をついた。直江が高耶の言葉をうまく利用して、 ガードマンの制服を用意してきた騒ぎはまだ記憶に新しい。あの時は、興奮した 直江にさんざんな事をされてしまった高耶だ。あれよあれよと流されて、気がつ いた時には全てが終わった後だった。最悪もいいところである。 (そりゃ、オレも快かったけど、……なんて言えるかっ) 高耶はぶんぶんと頭を振った。 (ヤバイ。このままではオレまで奴に染まっちまう。何とかしないと) すでに染まってきていることに恐怖を覚えて、高耶は真剣に考えた。 (うーと、うーと、………そうだ!) ふと名案が閃いて高耶は嬉々とした。 (今後のための予防線を張ることにしよう。あいつのマニア度を抑えるためにも それが一番いい) 高耶は顔を上げると、直江に向かって言った。 「おい、直江。言っておくけどな、もうこないだみたいのは無しだからなっ」 「この間……? 何かありましたっけ?」 首を傾げる直江に高耶は苛立った。 「だからー、ほら、……せ、制服だよっ。もう、あぁいうのは無しだぞっ」 制服という単語を口にすると、ついあの時の痴態が思い浮かんでしまって、高耶 は恥ずかしそうに言った。 「ああ、あれですか」 なのに直江は事も無げに言うと、ニヤッと笑みを浮かべた。 「本当に? 高耶さんだって悦んでいたくせに」 意地悪そうに顔を覗き込んでくる直江に、高耶はカアッと顔を赤らめた。 「バ、バカッ。とにかく! もう変なの用意したりすんなよっ」 「……わかりました。あなたがそう言うのなら、もうしません」 残念そうな顔をしたものの、素直に答えた直江に高耶は拍子抜けした。 (なんだよ、けっこうあっさりしてんじゃん) 「わかりゃいいんだ、わかりゃ。……さて、フロでも入ってくっかな。テレビ面白く ねぇし。お前、適当に見てていいよ」 高耶はリモコンを直江に渡すと、浴室へと消えた。 一人残された直江の口元に不気味な笑みが上ったのを、高耶は知る由もなかっ た。
「あれ?テレビ見ねぇの?」 風呂上がりにリビングに行ったところ、テレビも電気も消えていたので寝室を覗 きに来た高耶だ。いつもなら、直江がニュースを見ている時間だったので高耶 は疑問に思ったのだ。寝室の中をと見てみると電気は煌々とついており、部屋 の主である直江はすでにベッドに横になっていた。 「おい直江、もう寝んのか?」 応えが返らないのを不審に思って、寝そべっている直江に顔を近付けたとたん、 両の手が伸びてきて高耶は抱き込まれてしまった。 「! なおっ…、んっ」 驚いて声を上げるが、そのまま顔を引き寄せられて唇を奪われた。目を丸くする 高耶に構うことなく、キスは続けられる。 いつもするような優しいキスから始まって、だんだん激しいものへと変わっていく。 最初は突然のことに戸惑っていた高耶だったが、直江のキスを受けているうち にその気になって、自分から舌を絡みつかせていた。 「ん…」 ようやく唇を離された時には高耶の息は上がっていて、直江の胸にすっかり懐 いてしまっていた。 (あったかい……) 高耶はうっとりと直江のぬくもりを味わった。広く逞しい胸が、高耶の下で緩く上 下している。その動きが気持ちよい振動となって、押しつけている高耶の頬に 伝わってくる。と、伸びてきた直江の手に誘われるまま二人は位置を換えた。 下になった高耶が見上げると、直江がまた唇を寄せてくる。 「ぁ…、ん…」 キスを受けたままうっすらと瞼を開くと、蛍光灯の光が目を突いた。 「な、ぉ……ン、でん、き…ぁ…、けし…」 高耶の言葉を正確に聞き取った直江は、高耶の望むまま電気を消してやった。 その代わり、ベッドサイドにあるルームライトを付けたのだが、高耶は何も言わ なかった。光量を絞った事により、高耶の顔がいつもと違って見える。太陽の 下で伸び伸びとした表情を見せる高耶も魅力的だが、陰影を深く落とした高耶 の表情を間近で見るのもかなりいい。直江は逸る気持ちを抑えて、高耶の唇を 甘く吸ってやった。その行動に高耶はうっとりと目を細めた。 (今日の直江、やさしい…。すげー、気持ちいいかも) 高耶は頬を染めながらも、直江の口付けに甘く酔った。強引にされるのも結構 好きな高耶だったが、こういう優しさに満ちた一時も大好きだった。 高耶が夢中になって直江の口づけを受けていると、下に伸びてきた直江の左手 が高耶の中心に触ってきた。 ビクッ。 ジーンズと違って薄く柔らかい生地は、いつもより生々しく刺激を伝えてくる。 そして直に触れられるのとは違う微妙な刺激が、高耶の脳をとろけさせる。高 耶は一瞬だけ躰を硬直させたが、とても気分が良かったので抵抗することなく 直江に全てを任せた。 「…ンっ……ぁ…」 下方に降りた唇が、高耶の肌に紅い印を刻んでいく。強く吸われるのに感じて しまった高耶の口から、止めどなく甘い声が溢れた。直江の器用な手に奔弄 されながら、高耶は快楽の波にたゆたうた。 「……ぁ、…ハ…!」 いつの間にか衣類を剥かれ、気がついたときには熱を解き放っていた。一度 目の解放は、直江の手によって行われた。解放して、今だビクビクと痙攣を繰 り返している根を、直江の大きな手が再び捉える。 「ハ、アァ……んっ!」 躰を仰け反らせて甘い声を上げる高耶。潤んだ瞳にはもう、何も見えていない。 薄く開かれた唇が、無意識に男を誘っている。キスの繰り返しで紅く色付いた 唇が。 そんな高耶の痴態を見て、直江は内心ほくそ笑んだ。高耶に釘をさされた時は どうしたものかと思ったが、考えてみたら高耶を染める方法は他にもあるでは ないか。 そう、この体を使って。 (他の小道具なんて意味はない。私があなたを世界一美しくしてあげる) 直江は薄い笑みを浮かべると、高耶の胸の粒を口に含んだ。 「ぁ……、い、や」 眉根を寄せてかぶりを振る高耶。一度熱を放ったことによって、体中が敏感に なっているらしかった。舌先で舐めてやっただけなのに、高耶は体をヒクつか せてよがった。震える手が弱々しい抵抗をしていたが直江は構わず、丹念にそ こを濡れそぼらせると、顔を上げて高耶を仰ぎ見た。 高耶は顔を上気させながら、涙を零して荒い息を繰り返している。汗で湿った 前髪が額に張り付いて、卑猥なイメージを醸し出していた。 ……ゴクリ。思わず直江の喉が鳴った。 なんて、なんて扇情的な表情だろうか。女優なんて目じゃない。こんなに美しい人 を、俺は他には知らない。 もっと乱れさせてやりたい。もっと喘がせてみたい。もっと泣かせてみたい。 危険な思考が脳を支配していく。 直江はその美しい獣を一人占めしている幸福感に酔いながら、もっと高耶を綺麗 に咲かせるべく、彼の最も淫らな部分に顔を近付けた。 一度果てたものを持ち上げて裏側から妖しく舌を絡ませる。 「あ…ぁんっ、やっ…ぁ、なお…っ」 太ももをヒクつかせて喘ぐ高耶。直江の愛撫は止まない。足を高く持ち上げて 隠された場所を暴くと、伸ばした舌を差し込んだ。 「んっ! …んっ…」 高耶がシーツに縋り付くのが見えた。とてつもなく感じているらしかった。無意識 のうちに体を自ら上下に動かしている。その度に入れた舌先がブレて、高耶に 微妙な刺激を与えることになった。 「あっ、ンッ! イイ、…い、い……そ、れ…」 前から溢れ出したものが、後ろに伝って直江の舌を濡らした。気が狂いそうなほど 乱れた高耶を見て、直江の我慢ももはや限界だった。直江はまんべんなくその 部分に唾液を塗り込むと、高耶を高めているうちに育ったものを取り出した。そして 艶やかに濡れている秘口に、熱い滾りをゆっくり挿入した。 「アァ………ん! あっ、……イイっ、イ…イ、なおっ」 少しずつ押し込まれる異物に、高耶は興奮した。ゆっくりそこを押し広げられる 感覚が、たまらなくいい。 高耶は縋り付くように直江の背に腕を回すと、そこをキツく絞って快感にむせび 泣いた。
「ン…」 高耶の中から肉棒を引き抜くと、彼が小さな声を漏らした。抜く時の刺激で反応 してしまったらしかった。 高耶は気を失ってしまっている。あまりの快感に体がついていかなかったらしい。 涙の残る頬そのままに、だが今は穏やかな眠りに付いている。その躯に無数 の紅い花びらをつけて。 「やはり美しいですね、あなたは。白いシーツに良く映えていますよ」 直江はねっとりと視線を這わせながら高耶の上に覆い被さると、汗で湿った彼の 髪を一房掬った。ふと思いついて、 「私が演出したら、あなたは一躍有名になること間違い無しですね。……でも、 私が演出家だったら、そんな事は絶対にしませんよ」 直江は楽しそうに微笑むと、高耶の耳元に口を寄せた。そうしてクッと目を細める と、、 「あなたは私にだけ、その美しい姿を見せればいい」 眠りについている高耶の躯が、その言葉にピクンと反応した。そんな高耶に直江 は婉然と笑うと、優しく高耶を抱き寄せた。 「おやすみなさい、高耶さん。良い夢を……」 |
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