夢物語


「……そう、高耶さん。息を詰めないで。ゆっくり、吐いて」
「…んっ。……ぁ」
「……そう。そうです。いいですよ。よく、できましたね…」
男の低い、掠れた声。目を開けなくてもわかる。あいつが、ひどく優しい目をして
いるのが。そう思うだけでオレの動悸は早くなり、気がついた時には男をくわえ
ているトコロをキュッと絞っていた。
……恥ずかしい。こんなはずじゃなかったのに。
うろたえて顔を背けると、男が手を伸ばしてきた。
「なおえ……」
直江がオレの髪を梳いてる。
サラサラと指を通る感触を楽しんでいるのか、直江はやめようとしない。優しい
優しい男の手。たったそれだけの事なのに、とても気持ちが良くてオレはうっと
りと目を閉じた。こんなに幸せでいいのだろうか。あまりにも幸せ過ぎて不安に
なる。けれど、今のこの瞬間は紛れもなく存在している。オレもおまえも、体を繋
げたまま、ここにどうしようもなく存在しているんだ。
オレは泣きたくなる程の幸福の中、快楽の波にたゆたった。
が、ふとオレは我に返った。ずっとこのままになっていた。オレは心地よいけれ
ど、直江は。挿入れたままじっとしている直江は……。
「直江。直江…」
「なに? 高耶さん」
「そ、その……」
「高耶さん?」
直江は気づいているかいないのか、優しく笑むばかりだ。
辛いだろうに、そんなこと微塵とも顔に出さないで、オレの事を優先してくれる。
どうして、お前はそうなんだろう。もっと強引でもいいのに。優しいだけの愛が
欲しい訳じゃない。醜くても愚かでもいい。ありのままのお前が欲しいのに。
「う、動けよ……」
ずっと挿入ったままになっている。男にはいい加減辛いはずだ。
誘っているかのようなセリフは死ぬほど恥ずかしかったが、直江が辛いよりはい
い。
「なおえ」
黙ったままの直江に訝しんで顔を上げると、とても優しく微笑む瞳とぶつかった。
(……直江)
「辛かったら言って」
あくまでもオレを優先する直江。ゆっくりと、一物がその部分に出し入れされる。
本来受け入れる器官ではないそこへの挿入は辛かったが、だが、男と一体に
なっている幸福を思えば、なんてことはない。
ゆっくりと浸食される。
決して無理強いしない動きだ。どんなに高耶が強く言っても、それだけは変わら
ない。
愛されている。
それがわかるから、とても嬉しい。
(直江。なおえ……)
「どうしたの? 高耶さん」
「え?」
「泣いてる」
言うと、直江は動きを止めてその長い指を伸ばした。
知らず知らずに流していた涙を、直江がそっと拭ってくれた。
「なおえ……」
「辛かったの?」
ぶんぶんと頭を振る。
「それでは……」
「……っ…、行くな……!」
出ていこうとする直江を、絞ることで留めた。咄嗟に取ってしまった行動に赤面
する。けれど……。
直江はゆっくりと、オレを抱き起こしてくれた。繋がっていた部分が辛かったが、
直江の力強い腕が、今は嬉しい。
「……っ」
「大丈夫?」
「……んな事聞くな。バカ」
恐らく顔を真っ赤にさせているだろうオレに、直江は優しく笑う。その微笑みが
とても愛しさに溢れていたから、オレは凄く狼狽えた。
(そんな顔すんなって。恥ずかしいだろっ)
とても目なんて合わせられない。
直江に抱かれたまま目を伏せていると、そっとおとがいを持ち上げられた。
「なお……んっ」
キスは、触れたと思ったらすぐ離れた。なんで……と顔を上げたとたんまた唇を
塞がれて、オレはやっと安堵した。
こうして男の腕で安らぐのは、なんて気持ちいいのだろう。
全身で護られているってわかる。全てを任せていいのだと、安心していられる。
嬉しくて、でも少しだけ切ない。
けれど、凄く……幸せだ。



おまえの中で、オレは夢を見る。
甘くて切ない、けれどとても満たされている……、そんな夢だ。
夢物語だと笑う者もいるだろう。
だがそうやって笑う者は、本当の愛を知らない可哀想な人に違いない。


オレは生き続ける。お前の中で。
だから、おまえが生き続けている限り、オレもおまえも一人にはならない。
寂しくなんて思うことないんだ。
おまえと共に、オレは生きていくのだから。いつまでも。


直江……。


愛してる。



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